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勝手に1日1推し 134日目 「スメルズ ライク グリーン スピリット」

「スメルズ ライク グリーン スピリット」(SIDE A/B)永井三郎     漫画

言わずと知れた名作中の名作「スメルズ ライク グリーン スピリット」。
久しぶりに読み返してみたのですが、素晴らかったです!!何度読んでも、心にジーンと響きます。
2012年初版ですって。でも、何を今更と言わないで下さいね。やっぱり言いたくて。書きたくて。素晴らしすぎて。
BLというジャンルにあたるんだろうけど、もしも、それで届かない層があったとしたら、もったいなさ過ぎる!!!こんなにも痛々しく、瑞々しく、鮮烈に描かれた青春譚を私は知らないです。ジャンルを超えて、性別年齢も超えて、多くの人に読まれて欲しい作品だなあって改めて思いました。学校の図書館に並んで欲しいと思うくらいの教育的価値もあると思います!!

ド田舎の学生・三島は同級生からイジメられていた。理由は三島が“ホモっぽい”から。実際に男性が好きな三島は抵抗もせず、隠れてする女装だけが心の拠り所だった。ある日、三島が屋上にいると、以前なくした口紅を持ったイジメグループのリーダー・桐野を目撃する。彼は三島の使った口紅を、自らの唇に塗ろうとしていて…。この世界のどこかで“本当の自分”でいられる場所を求めた少年達の、今、一番伝えたい青春ストーリー。

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自らのアイデンティティーを探し求める物語です。セクシャリティに悩み、家族関係に悩み、恋愛に悩む。人と違うことに気付き、苛立ち、落胆し、時に諦める。自分を認めらない、思考と行動が一致しない、感情をコントロール出来ない・・・思春期真っ盛りの少年たちをまっすぐに見つめます。

同性が好きで、見目麗しく女性的な外見を持つ三島。故に、学校ではいじめられています。一方、サッカー部のエースで男らしく、三島イジメのリーダーである桐野は、実は女性に憧れを持つ自分を隠しているんです。そして、桐野と同様に三島をとことんいじめ、からかい、絡みまくる夢野は、三島のことが好きだという気持ちを自覚しつつ、受け入れられないでいます。

こんな3人の男の子たちが登場します。三者三様の指向や思考が折り重なり、身勝手で多感な彼らの言動が詳細に描かれています。上っ面の友情や恋愛に発展することはなく、ひたすらリアルに夢や挫折、期待や不安、恐れや焦りが描かれます。

三島と桐野はゲイであるという秘密を「同じ”パンドラの箱”を持っている」と表現していて、2人で同じ箱を共有することの喜び、お互い2人の時はその箱を開けることが出来る気安さ、素のままでいられる楽しさに、初めての自由を感じている姿が年相応でとても可愛くて、その嬉しさが痛いほど伝わってきます。屋上でこっそり話したり、2人で桃源郷を目指したり、憧れも痛みも分ち合える、何でも分かり合えるんだよねえ。

でも、夢野は「同じ箱を持ってない」ので、2人とは共通点がなく、基本的に分かり合えない。やることなすこと傍若無人に見えますが、きっと一般的にはこれぞ、THE男子中学生っていう素行なんだよね。三島が好きだからイジメて、でも気になって守ってあげたくて、三島に欲情して手を出すも、体が男の子だからって(男の子だと理解はしていても妄想と現実は違っていた)ビビって逃げちゃうとか。あるある~。この行動原理の具体性がめちゃくちゃ現実味あるんだな。ヘタレなんだけど、最終的には、分かり合えないなら努力しようとするところがかっこいいのよ、夢野は。学ぶ姿勢がいい!私もこうありたい!!

そして、この物語がより深い人間ドラマを感じさせるのは、彼らの親が登場し、彼らをどのように見守り、導くか?を描いているところだと思います。子どもたち同様、親も三者三様ですし、家庭環境もバラバラです。子どもとの関わり方も声掛けも全く異なります。
本編中、三島、桐野、夢野、それぞれが恋愛関係にあるかも?と噂され、それを親に知られてしまうというシーンがあります。その噂を知った時の親の行動、親子の対峙、コミュニケーションの取り方は、子供たちの今後を左右すると共に、読者にも訴えかけてくるんです。こんな時、あなたならどうする?って。どうされたい?って・・・。
自らの言動を振り返ると理想と現実にやられますが、三島のかあちゃんみたいな人でありたいなあって思うよな、やっぱり。

主に中学生活がメインで進みますが、ラスト、大人になった彼らにも言及しています。親との関係性なども含め、自身のアイデンティティーを探し求め、成長し、歩んだ先の未来だと思うと、この結末は本当に胸に詰まるものがあります。良くも悪くも、ずっしりした余韻が広がります。他人の人生ではなく、自分自身の人生を見つけたんだと信じたいです。特に桐野よ、頼むから幸せであってくれ!!

更にもう1人、非常に重要な登場人物がいます。三島や桐野のように同性が恋愛対象であり、かつて、それを禁じられてしまった過去を持つ、三島のクラス担任、柳田(成人男性)です。三島と同年代の頃、親に性的指向を否定され、歪んでしまった柳田。彼の人生の軌跡を追うと、理解のなさがどれだけ残酷か、を思い知ります。三島含む3人が柳田のようにならなければいいなって思わずにはいられませんでした。強烈な印象を残すエピソードですが、別に性的マイノリティに限った話ではなくて、相手を理解しないこと、否定することがいかに残酷か、寄り添い、ありのままを受け入れることがいかに大切か、を思い知ります。

いやあ、ジャンルを超え、性別年齢を超え、多くの人に読んでもらいたい理由が分かるでしょ~?学習漫画だって思う理由が分かるでしょ~。ヒューマンス青春トーリーとして傑作だと思います!
ストーリーも構成も演出も画力も恐ろしいぐらいに完璧じゃない?!小題(タイトル)やモノローグ、セリフなどからは、並々ならぬ文才を感じます。永井三郎先生って何者?!天才~。自画像からも天才以外感じられない!モブおばさんたちの絵も強烈で、もう、全部に釘付け!!

2冊が、”上・下”でも”1・2”でもなく、”SIDE A” ”SIDE B”なのもにくいですよ!!A面B面。人生の表裏一体感、人の多面性、それに音楽っぽさ(ニルヴァーナの「スメルズ ライク ティーン スピリット」??)が表れてていいなあって思います。

つか、大人になった三島がエレン(「進撃の巨人」)に見えてしまったのは、私だけではないはず!!エレンが現世に降臨!イェイ!

柳田のスピンオフ「深潭回廊」、気になるけど闇が深そうでまだ手が出せないよぉ。

ということで、推します。







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