村上春樹以外で「ノーベル文学賞」に近い日本の作家は誰なのか


 今年も村上春樹がノーベル文学賞の受賞を逃した。10年来に及ぶ国内外の文学賞ウォッチャーとしては、面白くもあり残念でもありという感覚である。
 春樹の受賞に関しては下馬評も名前が載っているだけであり、実際には候補にもあがっていないという外野からの言及もあるが憶測に過ぎず、これまでの受賞者は皆、下馬評の上位に名前を連ねてきた者ばかりなので考慮すらされてないというのはこれまでの実績を鑑みれば到底ありえないだろう。これに関しては言えば長くなるので割愛する。
 ノーベル賞の候補は50年経過しないと公表されないという守秘義務があり、文学賞の候補に残った国内の作家ではこれまでに賀川豊彦と谷崎潤一郎、西脇順三郎と三島由紀夫の存在が明らかになっている。正式な公表ではないが関係者の弁によると井上靖や安部公房はかなり受賞に近かったともされ、今後開示される情報が楽しみである。

 春樹の受賞可能性が騒がれるたび、同時に紛糾するのが「春樹以外にノーベル文学賞を受賞する可能性がある日本の作家はいないのか」という問題だ。いないとは言い切れない。日本の現代文学はそこまで評価が低くない。
 ではめぼしい作家は誰なのか。「多くの著作が海外に翻訳出版され、高い評価を得ている存命の作家」という基準を大前提に据えて探った。エンターテイメント小説や中間小説などのジャンルでは過去の受賞例から見ても可能性は著しく低くなるため、これは除外した。そうなると受賞対象になるジャンルは純文学、戯曲、詩、哲学、ルポルタージュといったところだろうか。

 まず小説の分野で名前を挙げるなら「津島佑子」だ。言わずと知れた文豪・太宰治の娘であり、25歳のときに『狐を孕む』で初の芥川賞候補に挙がってからは父親同様に受賞こそなかったものの、傑作を次々と生み出して国内の文学賞を多数受賞。親の七光りとはとても言えない文才をふるい、著作も海外で多数出版されて高い評価を得ている今では、日本現代女流文学の巨星とも言える立場に身を置き、文壇に於いては父親以上の成功を収めている。個人的には作家としての資質はともかく技量に関しては父親をとっくに超えたと思っている。とはいえ春樹より二つほど歳上ではあるが、悲しいことに下馬評で女史の名前を見たことは今のところ一度もない。

 次いで「多和田葉子」である。現在はベルリンを拠点を据えて創作に営む女史は91年に『かかとを失くして』でデビューし、93年に『犬婿入り』で芥川賞を受賞してからは国内外の文学賞を数多くものにしてきた。独語での創作活動にも定評があり、その著作の多くは英語圏やアジアでも翻訳されているが、ドイツでの成功が特に強い。まだ55歳と比較的若く、作家としてのキャリアこそ30年にも満たないものの、今後に一番期待が持てる作家と言える。

 女性の名前ばかりが挙がってしまうが、「小川洋子」もおさえておきたい。芥川賞受賞作の『妊娠カレンダー』や、第一回本屋大賞や読売文学賞を受賞してミリオンセラーとなった『博士の愛した数式』の作家といえばわかりやすい。現在は芥川賞を含め複数の文学賞で選考委員を務めている。翻訳出版数も多く、短編『薬指の標本』がフランスで映画化されるなど一定の評価を集めている女史は、こちらも53歳と若く、これからの動向に注目したい。

 男性作家の名前が挙がらない中で詩の分野に言及するが、まずは現代詩の大巨人「谷川俊太郎」だ。年齢や国境を問わない幅広い作風は国内のみならず海外でも多く読み継がれている。国家からの褒章は受けないというスタンスもノーベル賞好みと言えるだろう。

 日本から初の詩人による受賞が出るとするならば、谷川俊太郎以上に可能性が濃厚なのは「吉増剛造」である。前衛的とも実験的とも言える作風は後進のクリエイターに強い影響力を持っており、世界的評価に耐えうる強度が伴っている。

 国民性ともいうべきなのか、現代の最前線で活躍する日本の作家は政治面へのアプローチが弱い部分がある。必須要件とまでは言わなくとも、そういった面を通じたある種のロビー活動が受賞のキモとなっているとも言われるのもノーベル文学賞の特徴だ。
 戯曲・哲学・ルポルタージュに関してはあまり明るくないので言及はできない(なお純粋な哲学分野のみによる受賞は50年のラッセル以降、65年近く出ていない)。賀川豊彦のように社会運動を通じて平和賞と文学賞の候補にあがった例や、第二次世界大戦を振り返る伝記の評価だけ受賞したチャーチルなどを見てもわかるように、誰がどのような形で受賞するかも予測しづらい部分がある。万年平和賞候補だと一部で祀り上げられている某宗教の名誉会長が、某間革命でもしかしてなんてことも……ないか。
 今晩はノーベル平和賞の発表が控えている。殺伐とした土地に実用的な平和をもたらしたという意味では、ツイッターに画像をあげられたネコやコツメカワウソにあげたほうがいいのではないかという気がしなくもない。

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星井七億

コメント2件

勉強になりました!
はじめまして。ノーベル賞の選考対象に戯曲があったのは存じませんでした。もしも現役の日本人劇作家が書いた戯曲が選ばれるなら、平田オリザの『東京ノート』の可能性が高いと思います。芝居好きで平田さんのファンなんで、ちょっと星井さんにお教えしたくなって書いてしまいました。お目汚し失礼しました。
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