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駆けっこ

久しぶりに全力で駆けっこをしたら転けた。転けるのも久しぶりだった。

先週、近所の友達のお誕生日会があり、ご近所のお仲間たちと美味しいレストランに集まってお食事会をした。飲んで食べて飲んでとワイワイしていると、幼稚園や小学生の子どもたちは外へ出て駆けっこを始めていた。

どうやら小学生の男の子が速いらしい。私はもともと陸上部だったから、とはいっても高跳びが専門で飛びきり足が速かった訳ではないのだが、それでも駆けっこと聞くと腕が鳴るし脚も鳴る。走りにはちょっと自信がある。

「私も速いよ!」と言うと、「う〜速そうだなあ〜」と男の子は弱腰。でも幼稚園の女の子たちは「勝負してよ!」「一緒に外で走ろ!」「どっちが速いかな?」と囃し立てる。いくら最近走っていないとはいえ、流石に小学生と幼稚園生には勝てるだろう。「負けても泣かないでね?」と挑戦状を叩きつけ一緒に外へ出た。圧勝してしまったら楽しくないから、他の大人も、うちのパートナーも誘った。幼稚園の女の子も呼び寄せて、みんなで競争することにする。


位置について、ヨーイ、ドンッ!

あっ、あの男の子もう前へ飛び出してる!
パートナーには負けたくない!
いま私、何番だ?
スタートで出遅れたけれど、ここから一気に加速だ!
脚よ、回転せよ!

と思った瞬間、両足がぐにゃりとふやけたように柔らかく感じた。力が抜け、地面がスッと無くなるような、フワッとした浮遊感がある。

と思った瞬間、目の前はもう地面だった。膝にバァーンと痛みが走ると、遅れて右肘を石畳みへ打ちつけた。

自分が転けたんだと理解するまでに時間がかかり、転んだんだと分かると情けなくなって、そのままバタリと地面にへばりついた。誰かに心配してもらわなきゃ起き上がれない。

ゴールしてようやく1人欠けたことに気づいた男の子が、大丈夫?と駆け寄ってくる。パートナーは驚いたり笑ったりしながらやってくる。お店の人が心配して出てきてくれる。

「痛いよ〜」。パートナーに腕を取られて起き上がると、ズキズキする右肘を確認するべく袖をそうっとめくった。案の定、赤く擦りむいて血が出ていた。
本当は左膝が1番痛いのだけど、何が起きてるのか恐ろしくて見られない。とにかく昨日買ったばかりのジーンズが破れていなくてよかった。そのまま大丈夫、大丈夫、と言いながら何事もなかったかのようにお店へ戻った。


それからまたしばらく、レストランでみんなでお喋りをした。その間もずっと左膝はズキズキにぶい音を立てている。痛みが止む気配はない。意を決して話の輪からこっそり抜けると、トイレへ行って恐る恐るズボンを下げてみた。膝を見てみたが、血は出ていなかった。それから2、3日経つと膝全体が真っ黒な紫色になるのだけれど、とにかく血さえ出ていなければ大丈夫だと安心してしまう。


歳をとったら準備運動なしで走るのは危険だ。いや、お酒を飲んで走ったのがいけなかったのか。

全力疾走するのも久しぶりだったけれど、転んで擦りむけるというのも随分と久しぶりのことだった。肘の擦り傷はまだ治らず、膝は相変わらずズキズキしている。


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