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「悔しい」の原点分析。何と生きるかの選択について

体温と景色の相性が悪い夜が不思議と続いた今年の冬。

コンビニおでんの容器を、まっすぐ保つことすら危うい。わたしのバランス感覚は、あまりよくない。だからこそ、それを何度も思い知ることのないように、不安定な坂道ばかり選んできたのかもしれない。

ちいさい頃から、音楽が大好きだった。絶対音感があって、相対音感もあって、難しい曲も弾けた。ピアノは北の部屋にあって、寒い冬の日もハロキティーの“はんてん”なんかを着て、迫るコンクールに向けて必死に練習した。苦に思った記憶は、あまりない。誰かが現在にのこした有名な曲が、自分の手から音として生まれていくことが誇りだった。自分が有名になったようで、勝手に鼻が高かったのだと思う。


「きみには才能がある」
何度も言われたその言葉も、少しずつ離れていく。本当にそうなのか?そう自答しながらも、「才能とは、なにもしなくてもできることを指すのだ」などという甘い持論を振りかざし、有名な曲とはあまり向き合わなくなった。聞こえてくる音と、感情の表現のためだけにピアノを弾いた。


ピアニストか、音楽の先生になること。
仕事としてピアノを続ける方法は、その2択だと思っていた。だから、わたしは音楽と生きる道を捨てた。今思えば絶対にそんなことはないが、田舎で育った情報に疎い若者の判断としては精一杯だった。クラシックでなくとも音楽を作品でのこし、その手段としてピアノを使う方法なんていくらでもある。今ならそう思うし、今でも「その選択をした先が気になる」とは思うが、今からなればいいと言われるとそれは少し違う。音楽の道を選ばないと決めた瞬間からの蓄積のほうが、はるかに多い気がしているからだ。


なんにでも興味があって、大抵のことはある程度までできた。簡単に、ではなくてもできるという謎の自信も存在した。でもその度にどこかから聞こえる「才能がある」という言葉に苦しめられていたようにも思う。才能の有無については実際のところわからないが、その言葉には同時に境界線が存在して、自分という存在はそのひととは違う道にいるのだと言われているようだった。トップではない、でも違うところにいる。なにをしてもその孤独感がつきまとって、なにをしても「自分はなにをして生きていくのか」と思うことをやめられなかった。


興味があって、好きなことをしているだけなので、それに関しては頑張っているという感覚はない。だから、なにかのレースが発生しても自分の順位はどうでもよかった。そんなことより、毎日最大限の自分かどうかが大事だという謎の最上志向と達成欲があり(ストレングスファインダーでもそうだった)自分と他人は別だった。わたしの場合、「悔しい」という感情は誰かとの対比ではなく自分との対比で発生することが多い。


でも、1つだけそうではないことがある。それが、文章だ。読書が大好きで、小学5年生から高校卒業まで図書委員を続けたくらいには本(というか物語)が好きなのだが、素敵な表現があったときには「してやられた!」と思った。


それに、わたしはあまり話しながら自分の思考を整理できない。話し合いの場では、言いたいことが思うように言葉にならなくて涙目になることも多かった。考えていない、ともとれるそれは時に弱い立場へとまわされて、苦しかった。唯一苦手意識をもっていることが「その場で自分の主張を整理しながら伝えること」であり、それを補うためにわたしは書いているのだとも思う。


世の中は、甘いものでてきている」という文章を書いて、世界が変わった。大きな仕事が来たとか、そういうことではない。自分なりの意思表明として存在する文章になった。話しながら言えない主張は書けばいい、そんな自信を持てたのだ。


ぼやけていた自分の人生の輪郭に、ピントをあわせるようにひたすら書いた1年だったな、と思う。向いているとも思ったし、向いていないとも思った。でもやっぱり他者との比較で悔しいと思うのは「書くこと」に関してだけだということは、変わらなかった。


将来の夢は、ピアニスト。そう言うのをやめてから、自分がともに生きていきたいツールがなくて、さみしかった。でも今なら自信を持って言えるのだ。わたしは言葉と生きていく。


他者との比較は辛い。苦しい。他にもできそうなことはあって、それをして生きていけばつらさは軽減されることも分かっている。でも、絶対にそうしたくはないのだ。苦しみもさみしさもわからないわたしから生まれた文章が、誰かに寄り添えるわけがない。多分、そのエゴは消えない。


楽をしたい、とも思う。でも、頑張ることをやめた先に待っているのはきっと退屈な世界で、わたしはその世界にはフィットしないのだ。


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