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だからそうやって、春に浮かれて

夏は海、秋は紅葉、ハロウィン。冬は雪、クリスマスやバレンタイン。デパートの催会場が季節のフェアなんかをはじめて、人々がそこに集う。季節限定なんて言葉にはいつまでも弱く、気付けばそれを手にとって。

街が浮かれていると、わたしも浮かれていいのだと思える。そう、見えない路地ではスキップしたり、目が合ったあかちゃんに笑いかけたりしても、いいのだと思う。

街中がピンクに彩られて気付く。季節はまた巡り、はじまりとおわりの色が背中を押していく。道行くひとの服をみてやっと季節の変化に気付いてしまうなんて、なにをそんなに焦っていたのだろう。

終わってほしくない。でも始めたいなんてわがままをいつも抱いて、この淡いピンクに寄せて、甘えている。桜並木をひとりで歩きながら思う。そう、ここ数年でわかったことは、ひとりで見ても綺麗なものはちゃんと綺麗にそこに存在し、儚く美しく、わたしをつつんでくれるということ。

つよがりなんていう言葉も聞き飽きて、そんなものはこの川に流してしまって。誤魔化しばかりうまくなって、目の前の落とし穴に気付けない。そんな日々もそろそろつかれてしまって、やっと出た弱音はすぐに、やっぱり川に流してしまうから。

大丈夫、なんて言葉の効力はあまりにも脆く。無理しなくてもいいよなんて言っておいて、あなたは言葉だけを残して。無責任な季節ねと、つぶやいて歩きだす。

それでもどうにか誤魔化して立ち上がって、笑わないなんてわたしらしくないと、精一杯上を向いて。上を向いたらこっちを向いてる桜と目があって。そうね、たまには休もっか、と笑ったり。

季節の変わり目だからと言い聞かせ、大丈夫だと笑い飛ばす。ピンクが似合うひとになれないなんて言い訳をして、それでも季節の色を手にとって。かわいい、なんてつぶやいて。だからそうやって春に浮かれて、いつもわたしは。

読んでくださってありがとうございます。今日もあたらしい物語を探しに行きます。