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自由と束縛。さよならを許してくれない秋の空

ホームのはしっこで降りる。階段まで向かう途中で、うしろを走っていたはずの電車が追いつき、わたしを追い越していく。

何両もある電車が横を通り過ぎていく。数分に1本くる電車は、せわしなく今日も街を走っている。

追い越されることは、心地いい。そんなことを言うと、悔しくないの?と聞こえる。向上心がないと思われるらしい。いやむしろ、わたしは負けず嫌いだし。誰よりも勝ち気だった。

未だに地域には、レールにのって走ることこそ幸せだ……なんて幻想があって。というか、それもわりと正解なのだ。ただ、わたしにとってのそれは幸福の象徴ではなく、むしろ苦しいことだったのだと思う。

いい高校に行って、いい大学に行って、いいところに就職する……

その、「いい」って何?その多くはレベルとか、学歴とか、評判で。自分で判断するよりも先行するのは実力という評価のみ。自分が思う、いいってなにか。そんな主張を、もっとはやく持つべきだった。まあ、今のわたしは知っているからいいんだけど。

特急列車を降りて、引き返すでも、各駅に乗るでもなく、わたしはそっと改札を出た。誰かにとっては進むことを諦めたともとれるその選択が、最高に幸せだった。幸福とはこれだ、と思ったのだ。

たまにレールにのったり、降りたり。ふらふらと自由で寂しがり屋の秋は、どこか遠くへ行きたくなる。

まあ、それでいいんじゃない。

秋の空は、さよならを許してくれない。でも、だから好きだ。自由なままで、きみはわたしを離さない。

読んでくださってありがとうございます。今日もあたらしい物語を探しに行きます。