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しなやかにそのまま、そこにいて。プリーツスカートと彼女

自分を裏切らないものはなにか。というか、ずっと好きだったり、相思相愛が永遠だったり、努力が結果として報われる瞬間が継続していくものはなにか。そんな贅沢な嗜好品のようなものがあるとして。それはどの瞬間から自らにとって完全となり、次を求めてしまうのだろう。
そもそも、完全なものなどない、という前提を抜きにした状態で。どこかで分かっていても完全とみなす、というか一定のラインを超えて「満足」とみなして次へいってしまう。それは欲張りと呼ぶのだろうか。

───滅多に動かさない左脳をたまにフル回転させると、待ったをかけるように思い出す彼女がいる。感情も脳をも支配する彼女の存在は、果てしなく大きなもの。

...

彼女は、有楽町の主役だ───ひとめ見た瞬間に、思ったのだ。低めのヒールのかかとは落ち着いていて、でも彼女が足を踏み出す度に、「今日も悪くなかったな」なんて感情が少しずつ積み重なった。いや、今日は最高に素敵な一日だったのかもしれない……静かに高鳴る感情の、音楽を奏でるようなプリーツと彼女の歩みは、夜の有楽町を魅了していた。

街で一番古い映画館から、長めの前髪で涙の跡を隠しながら。黄色いパンフレットを手に彼女は「最悪で最高だ」とつぶやいた。


どうしてプリーツスカートなの。
芯があるけど、同じ動きをしないでしょう。
強さとは、打たれ強いだけじゃない。
しなやかさだから。

そんな会話が聞こえてくる。再びプリーツスカートに目をやると、今度はヒロインのような振る舞いでこっちを見つめた。多面的、ってこういうことを言うんだろうな。違う顔をしているけれど、八方美人ではない。同じ、変わらないものだ。


そりゃあ、強くなりたい。強そうな服、いろいろな動きをするピアス。同じ動きをしない、いつまでも海を眺めていられるような感覚。飽きるはずがないのだ。

...


今真夜中の2時をまわったところ。カランカラン、と整備されていない段差を超える音がした。その瞬間に、きっとこの堕落は終わったし、堕ちていく感覚は闇へと帰る。おかえりなさい、どれだけ揺れてもていねいに仕立てられたプリーツのように。

肯定は甘やかしではないし、肯定は「賛成」ではないし、同意でもない…広義のようで、本当の肯定というものは実はもっと狭く、ただ一点の「信頼」があって成り立つものなのかもしれない。

八方美人ではなく、多面的。期待しないという守り。甘いものと、甘やかすことは、全然違うから。


自分を裏切らないものはあるか。いつまでも、今の自分をすごいって言いながら、超えていくこと。一兎追って、次を追って。その先にしかないのだ、裏切らない結果も、夢も、全部。

一瞬の後悔もなく前に進んだことなんてない。あの揺れるプリーツも右往左往、ためらいのかたまりだ。

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