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旧正月の妙な夢 Happy Lunar Year

ピンクのタイル地、隣のパーテーションから漏れる眩し照明、勢いよく出るシャワーの音。意識は湯気で微睡みだし、体がどんどん湯の底に沈んでいく。
すると耳元で若い女の子たちの声がエコーする。
「先に上がるね~。」
その声で私は飛び起き、バスタブは飛沫を上げる。カーテンを開けてその場を去ろうとする。ふと隣のバスタブが気になりカーテンを開けてみる。そこには、なんと長い黒髪を昆布のように漂わせた少女が湯に浸かっていた。湯気の中で水蜜桃の様にほのかに染まった彼女をみて、私は何かを告げた。そしてカーテンを閉めて、今度こそバスルームを去る。

私はすぐさま、他の少女たちを追ってドレッサールームへ行く。
そこには女優の控室の様な、照明付きの鏡台が数台程並び、手元には必要最低限の化粧品が並べられていた。壁紙は深紅だろうか、注意してみないとわからない繊細な金の絵柄がみえるが、とにかく眩しく甘ったるいこの空間は何処か異様である。ここで少女たちは髪を乾かし、それぞれ部屋着姿でケータイをいじったりおしゃべりしたりしている。その間をぬって、さっきの黒髪の少女が後追いでドレッサーにくる。彼女の傍にはグレーのセーラー服がかけてある。何処かで見たことがある懐かしいデザインだった。

一段落し、私たちは傍にある中庭付きの大広間へと行く。みたところ16畳くらいあるだろうか、襖がすべて取り払われた日の差す大広間に6人用の立派な一枚板のテーブルがある。近づいてみると、大小様々な小鉢とお重、器が並べられている。どうやら彼女たちの晩御飯らしい。
「すごーい!」「でもこんなに(お腹に)入らないわね。」
少女たちの無邪気な感動をよそに着物姿の女性2人がせわしなく食器類を並べている。女中だろうか?

しかし立派なお屋敷だ。漆黒の大黒柱、一つ一つに技巧を尽くした欄間、緑が茂る中庭からの午後の日差しで、新調したての畳が映えている。格式高いこの屋敷を貸してくださったのは恐らく政界の有志だろう。

これから大変なことになる。「世界平和」と「未成年の美少女」と「政治利用」、更に枝分かれして尽きない課題。今この瞬間は思案すべき時ではないと頭でわかってはいるが、何も知らず目の前で小鳥のように騒いでいる彼女たちの姿が美しく尚更私を焦らす。一先ずこれから彼女たちに夕飯を食べさせたところで、ところで………私は何しに来たのだっけ…?




というところから場面が一変二変し、気づけば布団の上にいた。数分間ぼーっとした後、よくは分からないが余りにも優美な時間を超えてきた気がして、すぐ夢を反芻したくなった。日本庭園のある漆黒のお屋敷と豪勢な料理、着物の女性、旅行に行った夢だったか?でも旅館にしてはファンシーな風呂場だった。そして、常に何故かひとまわり年下の少女たちを帯同していた。そうういえば華やかなドレッサールームと、その壁にかかる制服も思い出した。グレーの制服、確か風呂場で会った長い黒髪の少女のものだ。しかし馴染みのある懐かしい制服だった…。不思議と、私には心当たりがあった。ネットで検索をかけてみたら、多少の差異はあるものの間違いなくこの制服だというものがヒットした。




そうだ、あれは火野レイの制服だ。
火野レイとは、セーラーマーズのことである。夢の中の、あの長い黒髪の少女は火野レイだったのだ。なら他の少女たちは…。

どうやら私は「セーラームーン」の夢をみたのだ。私の周りにいた少女たちは、たぶんセーラー戦士だったのだ。

しかしまだ違和感が残る。私は何者だったのだ?彼女たちと常に一線を画し、目線も会話も上からの立場だった気がする。彼女らの尻を叩くように次の場面へ移動させていた気もした。最も、私自身がそのドレッサールームで身支度をした場面はなく(風呂には入っていたが)、食事もなんとなく自分の分はなかった気がする。彼女たちの親でもなく、姉妹でも友達でもない私はその束の間の平和をいとおしくも警戒していたような気がする。「世界平和」、「国の後ろ盾」…。

ここで閃いた。もしかして、私は(夢の中で)セーラームーンを集めちゃったんぢゃない?!(急にアホ)

要するに、私は政府の誰かに任じられ日本全国から条件の揃った少女たちを厳選し、彼女たちを専用の屋敷で教育、指導、そしてそれを逐一上の人間に報告する役目を負うエージェントだったのだ。(せやせや、そんな感じやった!)

風邪で数日寝込み気を若干病んでいる分大変嬉しい出来事だ。何故なら、これが「セーラームーンになった夢」じゃなかったからだ。大体考えてみてほしい。セーラームーンになる夢をみれるのはせいぜい小学生までである。中・高学生はまだ許されるが、私は1992年生まれ、元祖セーラームーン世代の30代。子供の時の七夕の願い事は必ず「セーラームーンになりたい」だった。誰に知られることが無くともあの格好で闘う夢をみた後、何となくではあるが会社でまともに仕事ができない気がする。永遠に目覚めずそのまま逝ってくれた方を願うだろう。

改めて何に感動したかって、夢の中の私がちゃんと、自分を30歳の立派な成人ミドル女性として受け入れてくれていたことだ。時々自分の精神年齢の低さに不安になるが、今朝の夢は、「あなたは、これからの未来を担う若者たちを束ね、教育し、世に送る人間となった」という謎の天啓のだったような気がした。なにせ私が世界平和のためにヒーローを全国から抜粋、招集して指導教育するなんて、これほど光栄な夢はないのではないか?

しかし、短冊に毎年「セーラームーンになりたい」と書いていた私も、いつの間にかセーラームーンくらいの年の子の将来を案じる親心を持つ年齢になったのだ。夢にしては鮮明過ぎて、なんだか感慨深い体験をしたよ。

起き上がり朝の支度にとりかかる。数日続いた咳は若干治まり体も心なしか軽い。ついででTVをつけてみたら、中国の騒がしいお祭り騒ぎのニュースで更に目が覚めた。そうか、今日は旧正月だった。すると、さっきみたのは初夢ってことにしてもいいのかな?

“Happy Lunar Year!”





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