小さな風邪をひいて騒ぐ人間は、まず心を鍛えた方がいい

小さな風邪をひいて、初めて健康だったときの素晴らしさを知る。高熱にうんうんとうなされるほどに辛いときは、そんな幸福について考える気力もない。嫉妬、不安、後悔、パニック、負の思考をかけめぐらせ起きるその感情は、"小さい風邪"という、さほど辛くないときにこそ発露する。

二日前に五針縫った顎の傷も、最初は恐ろしくて見ることもできなかったが、ガーゼを変えるたびに鏡で見ているうちに、すっかり見慣れてしまった。動かさなければ違和感もない。

ただ、私は集中していると口をとがらせるクセがあるようで、仕事の最中に何度もとがらせた口に引っ張られた傷口が痛んだ。

"小さな風邪"をひいた人間ほどよく騒ぐのは、当人の抱えている重たさと、他人の対応の軽さとの、残酷なまでのギャップが生み出すものだろう。"こんなにも苦しく"、"こんなにも生きづらいのに"、自分をとりまく環境は何も変わらない。

熱を出したわけでも、吐いてご飯が食べられないわけでもない、鼻づまりの人間に他人ができる施しはなく。ただちょっと、私が、不自由になっただけである。

被害者意識っていうのは、暇人だからできるワザなのだな、としみじみ思う。口をとがらせなければ痛みもしない傷口に、ついつい動揺し続けてしまう自分への自戒を込めて。


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