かよ

自分に対する"焦らしプレイ”がやめられない理由。

文章を書くことを生業としていると、"いきなり書き出さない"ということがどれだけ大切なことかというのを身を以て実感する。文字数が3000字〜の記事を、一文字も書かずに資料集めをしている時の、ストレスたるや。とにかく終わらせたいから文字を埋めていきたい。不安だ。納期近い。怖い。しかし、我慢。書きたくてウズウズするところを、耐えて耐えて、もう限界というところで書いたときの筆の滑りの良さったらない。つっかえていたものが一気に抜けていくようで、この快感があるからこそ匙を投げずに仕事を続けていられるとしみじみ思う。

今日は、録画していたアニメ「昭和元禄落語心中」を観ながら朝ごはんを食べた。原作のファンで、アニメが放映される日を心待ちにしていた。声優陣も大御所ながら、ほとんどがオーディションを受けて通過してきたという、ダブルの意味で猛者たちで、それはそれは期待値が上がるというもの。

そして、いざ作品が始まり、開始15分あたり、すっかり拍子抜けしてしまっていた。なんだかテンポが遅い。「……期待しすぎたかしら」。原作が好きすぎるせいでハードルが上がっていたかな、と反省していたのも束の間、結果から言えば、私はすっかりアニメの世界に引き込まれ、朝ごはんを食べるのも忘れて見入ってしまっていた。まさにひとつの噺を聞いていたかのようで、ストーリーが進んでいくにつれてテンポは加速、音楽も転調し、声優陣による落語の素晴らしさに感動。EDに入ったときにはすっかり鳥肌が立っていた。こりゃあ、すごいや。最初のテンポのゆるさも、むしろ観ているひとをどっぷりと引き込むための巧妙な技のようにも思えた。

アニメを堪能した後は、みうらじろうギャラリーの「栴檀は双葉より芳し」へ。それぞれの作家のデビュー当時の作品が展示されており、ファンにとってはその変遷を感じながら、その作家のスタイルの片鱗を見ることができる展覧会だ。ここで特に好きだった作品3点を。

橋爪 彩『百合』日本特有の偏ったアートからの殻を破るという目的もあり、渡独したそう。肌の質感、その下に感じる肉質、最近の作品にも通じる扇情的で独特な肉感を見ることができる作品。女性の匂い立つ色気がムンムンであった。

原 久路『A study of the "oil on canvas 1939"』バルテュスの作品をもとにした作品。ちなみに元になったバルテュスの作品は以下。

『長椅子のテレーズ』という作品。

最後は、川原直人『KAYO』。こちらもなんだか汗の匂いを感じるような、艶やかな作品。これくらい可愛い寝顔で世の男性をノックアウトしたい人生だった。

「いちについて!よーい……」というあの時、沸き立つ思いを焦らしながら、爆発的なスピードを出すことを思い描きながら、体に全神経を集中する。「ドン!」で、駆け出すその瞬間、自分が思っていたよりも早く走れないことを知る。仕事をしていると、そんな小学生の運動会の記憶が何度も蘇る。しかし、足を前に出し続けている限り、いつのまにか”思っていたよりも早く走れていた”と感じる瞬間がくる。焦らして焦らして、がっかりして、でも走り続けて、気づかぬうちに自分の予想を超えたり、新しいスタイルが生まれていたりする。だから、やめられない。

みうらじろうギャラリーの「栴檀は双葉より芳し」は1月24日まで。ギャラリーをやっている三浦次郎さんご自身もとても穏やかで聡明な方で、なんとも幸せなひとときであった。


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