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申し訳なかった

中3の春、背番号13をもらった。
でも、その大会から僕は、ファーストのスタメンで出ることになった。

僕はずっと、サードの控えだった。
小学校の野球経験がなく、特に希望ポジションもなかったので、「2番手になれるところ」という理由で、絶対的にうまい同期がいたサードの控えの座を手にした。2番手は、練習試合のダブルヘッダーや紅白戦で必ずスタメンになれた。我ながら賢い戦略だったと思う。

最上級生になった中2の冬の時点で「内野の控えで一番うまい」というチーム内認知を得られていたように思う。その頃、エース争いも佳境に達しており、セカンドもできるエースより、ファーストのレギュラーが先発することが増えてきた。彼が登板している間、ファーストが空く。

「お前、ファーストの練習してみたら?」
チームメイトの声を、どこかで待っていたような気がする。
しれっと、ファーストの練習にも参加してみた。監督には、レギュラーメンバーから口添えしてもらった。

その頃ファーストの控えだったのは、キャラクターは愛されていたが決して野球の上手さでは評価されていない男だった。
彼が念願の背番号3を手にした時、小さなどよめきと、若干の笑いが起こった。

僕は控えメンバー特有の、いつ呼ばれてもおかしくないがいつまでも呼ばれないかもしれないという緊張の中、いつもより少しだけ早く、13番で呼ばれた。それは僕が、サードではなくファーストになったことを意味していた。

その時に確信していた通り、試合では僕がスタメンだった。
別に僕が格別上手かったとは思わない。少しだけずる賢かったのだと思う。
彼のこだわりや思い入れを何も知らないまま、こだわりのない僕がポジションを奪ってしまったことを、申し訳なく思っている。

高校進学後、また空きポジションを求めて外野手に転向したのはまた別の話。

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