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ネコザメのスケッチ

私は水族館のタッチプールにやって来た。

狭い部屋の中で、監視役のお姉さんが一人立っている。
子供たちが、魚類たちに酷いことをしないか見張っている係らしい。
「はい、海の動物は優しく触ってくださいね。持ち上げたり、水の中から出したりしないでください」
室内には家族連れが何人かいて、思い思いに海の生き物にタッチしていた。

私は両手を洗って、並んだ水槽の間を値踏みするように歩き始めた。
こども用に造られているので、水槽の背丈は低い。
中にはヒトデや何かの貝がいるようだが、あまり目を引く生き物はいないようだった。

しかし、次の水槽にはサメがいた。
子猫ぐらいのサイズの、ネコザメである。
私はそれに触ってみることにした。

私は右手でカバンを持っていたので、左手をプールに深く突っ込んで、サメの背中の部分にちょっと触れてみた。
触ったサメはサメ肌で、思ったよりもザラザラしていた。

サメは逃げるかと思ったけど逃げなかった。
大人しいか、弱って死にかけているのだと私は思った。
私はさらに大胆にサメに触ってみることにした。

背中の部分は骨格があって、硬かった。
腹の部分に指を這わせてみると、背中と違って柔らかかったので、私はびっくりした。
えらの部分には、斜めに4本ぐらいの線が入っていて、ヒクヒクと呼吸していた。
そこに触ったら流石に逃げるかと思ったが、それでもサメ逃げなかった。

腹の部分をずっと触っていると、サメの鼓動が伝わって来た。
どくどくと、人間と同じぐらいの速さで動いている。
それともこれは、サメに触っている私の鼓動なのかもしれなった。
サメは冷たかった。だからサメは私のことを、熱いと感じているのだろうと思った。

プールから手を出すと、サメに触った部分の手が少しだけヒリヒリしていた。

今でもヒリヒリしている。

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