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今シーズンの開幕も「真面目にふざけた」選手名鑑と共に

「良かった。今年も買うことができた」

つい数時間前、近所の書店で「エルゴラッソ Jリーグプレーヤーズガイド2021」を手に取った瞬間の感情である。

Jリーグの選手名鑑は毎年、何種類か発売されている。出版しているのはサッカー専門誌(紙)やスポーツ新聞などだが、いずれも各クラブを担当する記者が、責任を持って選手たちの情報を集めている。

情報といっても、昨シーズンの出場試合数や過去の得点数などはググればわかる。もちろん、その手のデータも一覧にし、並べて見ることで新たな発見があるものだが、僕はそうした定量的なデータを目当てに選手名鑑を買うわけではない。

選手名鑑を「読み物」に昇華させているのは、各選手への寸評である。寸評には、その選手の今季の役割や展望、本人の意気込み、新人であれば簡単なプレースタイル紹介が掲載される。

そして、この寸評において、「エルゴラッソ Jリーグプレーヤーズガイド」のアプローチは一味違う。

「小ネタ重視」なのだ。

「遊び心100%」の選手名鑑

世の中には2種類のサッカー記者しかいない。

選手名鑑で遊ぶ記者と、遊ばない記者だ。

僕も数年前にサッカー記者の端くれだったが、間違いなく前者だった。ただし、媒体はスポーツ新聞。サッカー専門誌ではないため、掲載すべき情報はマニアックなものよりも、王道で教科書的なものが求められた。

それでも僕は選手名鑑で遊んだ。というか、遊ばずにはいられなかった。選手名鑑の編集は、Jリーグ開幕前のただでさえ忙しい時期、普段の取材や執筆作業にプラスアルファして発生する。

選手一人ひとり、過去の実績など細かな数字を間違えられないプレッシャーを伴う作業だ。編集作業を少しでも楽しいものにするため、寸評に「小ネタ」を忍ばせて遊んでいた。

振り返っても大丈夫そうな例を一つ挙げる。2014年の柏レイソルで、まだリーグ戦未出場のプロ2年目・小林祐介選手(2021年はジェフ千葉)に「女優・多部未華子似」と書いた。

今でこそ、柏サポ問わずそこそこ有名なネタであり、後にクラブの公式プロフィールにも載せていたはずだが、当時、この情報がメディアに露出したのはこれが最速だったのではないだろうか。本人とも笑い合った記憶がある。

情報をいち早く届ける使命を持つ記者としての、この仕事は僕の誇りである。もちろん、誇るべき方向性は完全に間違っている。

「小ネタ」の裏に

そんな僕が、Jリーグ開幕前にいつも読んでいるのが「小ネタ重視」の選手名鑑「エルゴラッソ Jリーグプレーヤーズガイド」である。

実は今年、この“愛読書”が発売されるのか不安だった。

というのも、「小ネタ」を引き出すには、各クラブの担当記者による日々の“小さな”取材が欠かせない。

練習や治療を終え、クラブハウスから帰宅する選手の手にマンガ本が握られていれば、当然、取材するだろう。それが今ハマっている漫画なのであれば、好きなエピソードから共感するキャラクターまで話を広げていく。サッカーとの意外な共通点を話す選手もいる。

「小ネタ」のほとんどは現場でしか見えてこないものである。

それが昨年、奪われた。新型コロナウイルスの影響で、多くのクラブがメディア取材をオンラインに切り替えた。パソコン画面越しの取材では、「こぼれ話」は極めてこぼれにくい。

「小ネタ重視」の選手名鑑の編集は、過去にないほど厳しい戦いだったと思う。だからこそ、クスッと笑ってしまう「小ネタ」を読むたび、その裏側にある担当記者の方々の努力を思わずにいられない。

そんな感謝を込めて、サッカー観戦の相棒として、今年もたくさん使い倒そうと思う。

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