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MHSW(メンタルヘルスソーシャルワーカー)という名前は本当に時代にマッチングできるのか?

MHSWという呼び名とPSW

PSW(Psychiatric Social Worker)は日本では「精神保健福祉士」や精神障害者の支援にかかわるソーシャルワーカーのことを指しています。

それが今回公益社団法人日本精神保健福祉士協会が「MHSW(Mental Health Social Worker)」に英語表記部分の名称を変更しようという動きが出ています。

これはPsychiatricはいわゆる「精神科」を指す言葉であり、国際的にみてもPsychiatric Social Workerは使われていないとのこと。精神保健福祉士はいまや「精神保健福祉」に関わるソーシャルワーカーとして「精神科」だけに関わらず国民の「精神保健福祉」全般に関わるソーシャルワーカーであるべきであり、精神保健福祉士は「精神科」に関わるのみではないことを意味しているのだということが「MHSW」なのである、ということであると私は解釈しました。

MHSWにしたいことは理解できたが疑問がいくつか出てきた(あくまでも個人としてですが)

「なるほど、その意気やよし」ということでいいんだろうか・・・、といくつかの疑問があり、今回このような形でまとめてみました。果たしてMHSWはこの21世紀にこの名称でマッチングできるのか、私の個人的見解であり、公的なものではありませんが、少し自分の考えをまとめてみました。

疑問①MHSWという名称は国際的なのか?

まず1点目、国際的にみてPsychiatric Social Workerは使われていないということですが、それが本当であったとしても、ではMental Health Social Workerは国際的であるのか?ということです。国際ソーシャルワーカー連盟はありますが国際メンタルヘルスソーシャルワーカー連盟はあるのでしょうか。知っている人がいたら教えてほしいのです。そしてそこにはどのようなソーシャルワーカーがいてどのような活動が国際標準なのだろうか……そんなことも知りたいと思います。

疑問②なぜソーシャルワーカーをメインの名前にしてはいけないのか?

2点目としては「なぜ今更Mental Healthを頭に持ってくるのか?」という点です。今ソーシャルワーカー(というか福祉全体)は人手不足であり、ケアマネージャーなど近接職種がとても増えています。「ソーシャルワーカー」という枠組みで社会福祉士も精神保健福祉士も医療ソーシャルワーカーも団結していくことが必要なのではないか?という議論も出ています。その最中になぜ「ソーシャルワーカー」という統一した名称を選ばずにわざわざ「MHSW」と名乗るタイムスケジュールまで用意して表記を変更しようというのでしょうか。私は協会の英語表記名称を変えるのであれば「Social Worker in Mental Health」でよいのではないかと考えています。これは医療ソーシャルワーカーの専門職団体である日本医療社会福祉士協会が名乗っているやり方と同じです。日本医療社会福祉士協会は「Social Worker in Health Services」としています。ただ名乗りたい人、協会は従来のMSWを名乗っています。「ソーシャルワーカー」という表記を大切にしている形であり、従来から使われている「MSW」も否定するものではないと考えられます。

もちろん、これでは「SWHS」と「SWMH」で紛らわしいという議論もあるかもしれませんが、「ソーシャルワーカー」の分野別なので紛らわしくてもさほど問題はないと捉えますが、いかがだでしょうか。それとも同じように「in」を使った表記では後追いのようで日本精神保健福祉士協会はいい気がしないのでしょうか。もし、それを気にするのであれば「器量が小さい」としか言いようがないと考えてしまいますが、おそらくもっと違う何か理由があるのでしょう。それ以上にMHSWと名乗ることのメリットが大きいということなのでしょうか。

疑問③精神保健福祉士の対象は誰?何?なのか。

3点目は法律の問題にもなってしまう問題です。精神保健福祉士法という精神保健福祉士の法律では「精神保健福祉士」とは、第二十八条の登録を受け、精神保健福祉士の名称を用いて、精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術をもって、精神科病院その他の医療施設において精神障害の医療を受け、又は精神障害者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設を利用している者の地域相談支援(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 (平成十七年法律第百二十三号)第五条第十六項 に規定する地域相談支援をいう。第四十一条第一項において同じ。)の利用に関する相談その他の社会復帰に関する相談に応じ、助言、指導、日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行うことを業とする者をいう」となっています。これはいわゆるメンタルヘルス問題を抱えている人たちや国民全体を指しているものではありません。「精神保健福祉士」が対象にしているのは「精神障害者」であってメンタルヘルス問題を抱える国民や人々を表していません。つまり協会が現在目指しているものは法律を変えなければ「名乗るのはそれでいいけど君たちが支援するのは「精神障害者」ですよ」と言われてしまう可能性が高いことを指しているように思えてなりません。まず法律を変えてからでもよいだろうし、変えることを前提にして政治的な動きをしているのでしょうか。動いていたとしても、前述した「Social Worker in Mental Health」であっても何ら問題はないとも思いますので、それであれば2点目の問題に戻っていくことにもなります。

「私はソーシャルワーカー」、そしてソーシャルワーカーがダイバーシティであるためには……

私自身、現在は基本的に「ソーシャルワーカー」と称して仕事をしています。しかし「PSW」と名乗ったり、「精神保健福祉士」と名乗らないわけではありません。「Social Worker in Mental Health」にしたとしたら「SWMH」と自分を名乗ることはまずないだろうと思います。「MHSW」も名乗るのかどうか分かりかねますが、ますます「ソーシャルワーカー」と名乗る機会が増えるだけのように思います。これは私の個人的な意見ですが……。

さて、一方「PSW」であることが協会の会員数を増加させないという問題もあるとのことなのですが、これは本当に「PSW」だからなのでしょうか,「MHSW」になれば協会に入るという人がどれくらいいるのかアンケートを取った結果なのであればそれを示していただきたい。私自身はそういう問題ではないように感じています。地域で協会に入らないが頑張っている方々の中には「ソーシャルワーカー」すら名乗らない人もいます。ソーシャルワークをしているにも関わらず、です。このような人たちが「私はソーシャルワーカーだ」と名乗る事をおこがましいとかそんないいものではないですよ、と言ってしまっていることがもったいないと感じますがそれは「MHSW」となれば解消できるのでしょうか。それよりも社会福祉士も精神保健福祉士も「ソーシャルワーカー」と名乗って仕事をしようと各協会が進めていき、協会に入っていない相談支援専門員や職業指導員などの資格はあるが名乗っていない人にも「ソーシャルワーカーであるのだ」と自覚してもらう動きをするほうが遥かに「ソーシャルワーク」「ソーシャルアクション」であると考えてしまうのですが……。

現場では精神障害者だけでなくメンタルヘルス問題を抱えた人たちがソーシャルワークを求めてくることも多く存在しています。そこに対応するソーシャルワーカーはメンタルヘルス専門でなければならないわけではないと思います。別にこれはメンタルヘルス専門のソーシャルワーカーを否定するものではないし、必要と考えていますが、やはり土台であるソーシャルワーカーは様々な社会問題に対応していくべきだと考えます。そのためには「MHSW」と協会が名乗り、会員に名乗らせるのではなく、協会は広く精神保健福祉分野のソーシャルワーカーが活躍できるようにサポートしていくべきであると考えます。それはある人にとっては「PSW」であり、ある人にとっては「ASW」であり、ある人にとっては「相談支援専門員」かもしれない。「サービス管理責任者」かもしれない。「MSW」だが精神障害者に対応している人だって多く存在しています。そのような人たちが名乗りたい名称を名乗りつつも「私はソーシャルワーカーでもある」と名乗れるような形を作っていただきたいと思います。それこそがダイバーシティを包括できる21世紀のソーシャルワーカー像であり、協会であればいいなあ、と思っています。

蛇足

と思うのは私の個人的見解であり、協会やMHSWを支持する人を批判するものではありません。だって協会がそう決めてしまえばそれには従うつもりだからです。あ、でもMHSWは名乗る事はないだろうなあ、と思っています。

こんな風に思うのは私だけでしょうかね?

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