(これもまた)手塚治虫に感想をきいてみたい作品 〜 「復讐鬼」1950年、マンキウィッツ監督

シネマヴェーラ 「復讐鬼」1950年、ジョゼフ・L・マンキウィッツ監督。原題は「出口なし」または「どんづまり」 (No Way Out)。

有名な黒人俳優 シドニー・ポワチエのデビュー作である。ここでポワチエは警察病院で働く有能な黒人医師を演じる。

知る範囲では、他の主演作「夜の大捜査線」(1967年)でもポワチエは優秀な黒人警官の役割で、アメリカ南部で起こった犯罪を捜査するため、黒人差別意識の強い白人警官と成り行き上バディを組むことになる。「招かれざる客」(1967年)では白人女性と結婚することになるエリート黒人医師を演じている。

デビュー作の本作でも、黒人だが有能なインテリであり、いわれなき差別に虐げられるという役柄では共通している。この点、ハリウッドの黒人像として、後に「白人から見た優等生の黒人」という批判を受けたらしい。

その他、シナリオには、黒人/白人、貧困/金持ち、男性/女性、健常者/障がい者、病人/医師などの複数の対立軸が持ち込まれて、うまく料理されている。

しかしこれはほんとうに手塚治虫っぽい!! ポワチエ演じる黒人医師を鉄腕アトムに、その指導医をお茶の水博士に割り当ててみると、まさに「鉄腕アトム」の構図になる。ラストシーンはほんとに「アトム」のエピソードのようだ。

また医療ドラマでもある点、主人公が有能であるがスティグマを負っているというところは「ブラックジャック」にも通じる。

「鉄腕アトム」の場合は、現実に存在する黒人ではなく、ロボットというSF的フィクション上の「階級」を作ることで、ポワチエが受けた人種差別批判はかわされているのかもしれない。これは手塚治虫の手腕であろう。

「夜の大捜査線」も手塚作品に共通する空気を非常に感じたが、手塚自身は映画マニアだったそうなので、こういった50年代〜60年代のアメリカ映画の手塚作品への影響はほぼ確実にあるのだろう。しかし具体的な影響を論じた研究は寡聞にして知らない。

「手塚治虫ランド」(大和書房)などにエッセイが掲載されており、レムなどSF小説へのオマージュはあったが、ハリウッド映画についてはそれほど言及されていなかったような記憶はある。調べ直してみたい。手塚治虫が生きていたらコメントを聞きたかったところである。

手塚作品以外にも「地下鉄のザジ」やヘップバーン主演作品は石森(石ノ森)章太郎の作品と共鳴しているし、ヌーヴェルバーグと劇画の関係などもあるだろう。映画からマンガに表現様式が「浸透と拡散」していった流れが見てとれるが、いずれの場合もきちんとした評価が待たれる。

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