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伝統産業こそ、違う市場で戦いを挑むべきかもしれない。

 いろんな偶然が重なって、100年以上続く伝統産業のデザインの仕事をいくつかさせて頂いている。今回ありがたいことにその一つをとても褒めていただいた。褒めていただいたことでそのプロジェクトを改めて振り返った時に「伝統産業」に対するアプローチの一つとして、タイトルの様な、「市場を変える」ということが有効なのではと思い、まとめておきたいと思う。

バブル期の「伝統産業×著名デザイナー」の座組みが生み出した負の遺産

 伝統産業の仕事をする時に、よく聞くのが
「昔、すごく有名なデザイナー先生に頼んだんだけど、お金ばっかりかかった割に全然売れなかったんだよねー」
という言葉だ。見せてもらうと、確かにすごく尖ったデザインで、デザイナーのネームバリューも含めてPR効果が非常に高そうだったし、実際にかなりメディアに取り上げられたらしい。しかし、うまくいかなかったのはなぜだろうか。

その市場自体がシュリンクしていることが課題だった。

 うまくいかなかったのは、現代の生活習慣に合わなくなって、その伝統産業がものを提供している市場自体が小さくなってしまったのではないかと感じた。だからどんなに尖ったデザインを出しても、シュリンクしている市場の中なので、そこにはそんな尖ったデザインを手にする先進的なユーザーも少ないし、その中で目立ったとしても、売り場自体が小さくなっているので売り場の確保もできない。売り場に置かれたとしても高い単価の商品があまりに不自然で売れない、ということになったのではないだろうか。

市場がシュリンクしているからこそ、その商品を売る市場自体を変える

 市場がシュリンクしているのであれば、その商品の特性を生かし、商品を持ち込む市場を変えたほうがいいのではないかと思っている。例えば、自分の仕事では、筆の繊細な書き味を肌触りの繊細さという特性として活かして、小さな子供の肌を優しく洗える極上の洗顔ブラシとして「筆記用具市場からギフト市場に、置かれる市場を変える」ということをした。筆記用具としての筆の市場に対して、大きな市場と売り場、高い単価を設定できるギフト市場に変えてそこに合った商品をデザインした。繊細なブラシ作りに、職人の卓越した技術がマッチして、とても素晴らしいものができたし、結果的に生産が間に合わないほど売れている。

市場を変えることで、職人の技術が差別化のおそるべき武器になる

 通常は商品の企画があったとしても、それを高い水準でプロダクトとして実現するには大変な技術が必要になることが多い。しかし、伝統産業の職人さんは100年以上もの長い間洗練されてきた技術と気概で達成できてしまうことが多い。(もちろん決して簡単ではないが。)さらには、市場を変えることで他のプロダクトに比べて、その技術による恐ろしい精度が、圧倒的な差別化にすらつながることもよくある。

 市場を変えることで、伝統産業が培ってきた高い技術や美意識はまだまだ強い価値をもちうると思っている。そして同時に、新しい市場に挑戦することが、伝統を繋げ、さらには新しい1ページを生み出す可能性もあるはずだ。

最後に余談だが、市場を変えるというアプローチには職人さんの全面的な協力が不可欠なのはいうまでもない。そしていい職人さんであればあるほどそんな難しいお願いを達成した後には、
「いやー。大変だったけど、すごく面白かったよ。」と仰ったりするので、ますます頭が下がる。


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