もし宮崎まで新幹線を作るなら

宮崎までの新幹線を日豊本線経由で作るのは遠回りなので、新八代から人吉えびのを経て宮崎に至るルートが提唱されるようになった。福岡へのアクセスはそちらの方が有利だし、現に高速道路はそのルートである。ルートを比較検討して定量的に評価するのはこれからだが、定性的には、いつ延岡まで到達するかわからない日豊本線ルートよりも、新八代まで建設すれば確実に福岡への直通ルートになるえびの経由のルートは魅力的に見える。

えびの経由のルートは、暗に肥薩線の八代吉松間と吉都線吉松都城間が廃止になることが前提となっており、JR九州にとってはこれらの路線を並行在来線として放棄できるうえに、福岡から宮崎まで競争力のある路線を獲得できるというメリットがある。どのみち肥薩線の八代人吉間を現状ベースで復旧しても都市間輸送機関としては機能しない。これから復旧するなら災害に強い鉄道であることが必須で、そうなると新幹線になってしまう。吉都線もJR九州の中でトップレベルに輸送密度の低い路線である。

新八代から人吉までは、肥薩線に並行するルートではなく、距離の短い高速道路に並行するルートではないだろうか。しかし、人吉市内のどこに駅を設置するかが難しい。現在の人吉駅は村山公園の南側にあり、新幹線の駅設置には向かない場所である。どうせ在来線を廃止にするなら人吉駅にこだわる必要はない。ただし、くま川鉄道との接続は考慮する必要があるだろう。市街地の西の外れのくま川鉄道と交差する場所にそれぞれ新駅設置だろうか。えびの市内の駅設置場所も難しい。えびの盆地は東西に長く、西は吉松辺りまであるし、小林に駅を設置するとなると駅間距離が短くない方がよいだろうから、えびの駅よりも西の国道268号と交差するあたりだろうか。現在のえびの駅は市街地から外れているので、必ずしもえびの駅に新幹線駅を設置する必要はない。小林に駅を設置するなら現在の小林駅の場所でもよいかもしれないし、その南側でもよいかもしれない。

都城を経由するかどうかは悩ましい。小林と宮崎の間を最短で結ぶ方が距離が短いのだが、人口の多い都城を経由する方が集客では有利である。また、小林から宮崎まで直接結ぶルートだと、宮崎駅と十字に交差する形になり、そこから先への延伸が難しい。高速道路のように都城盆地の北の外れに駅を設置すれば、迂回を最小限にできるが、日豊本線と接続できない。もし日豊本線との接続を諦めるなら、ベッセルホテルのある辺りの国道10号と交差する場所に駅があれば便利そうである。都城の市街地を南に迂回する形にすれば距離が長くなるが、西都城駅で日豊本線と接続できる。ただし西都城駅は高架駅なので、新幹線の高架橋はそれよりもさらに高い所になる。いずれにせよ、都城経由のルートにすれば、宮崎市内に南側から入り込む形になるので、将来延岡方面に延伸するのに好都合である。

宮崎市内の駅の設置場所も難しい。市街化された場所に線路を引くのは難しいので、日豊本線に並行するルートになるだろう。宮崎駅の南側から日豊線に沿って高架橋を建設するなら都城方面から線路を引くのが有利だろう。遠回りだが、西都城駅から北東方面に線路を伸ばして清武に至るルートだと市街地を避けることができる。清武の手前から西に向かう場合には、都城インターよりもさらに北に駅を設置することになり、距離は短いものの、都城市内からのアクセスが悪い。

宮崎空港に新幹線駅があったら便利そうだが、宮崎空港を終着駅にするためには宮崎駅に北側から入り込んで、田吉駅から空港までの路線を新幹線に転換するルートが必須で、そうなると都城を経由できない。南側からアプローチして宮崎空港の地下に駅を設置する場合、河口の軟弱地盤に地下トンネルと地下駅を設置することになるし、空港直下にシールドトンネルを掘る必要があるし、そこから先宮崎駅までのルートを取るのが難しい。宮崎の市街地の東側は西側よりも寂れているので、新幹線の駅があっても不便である。唯一メリットがあるとすれば、延岡宮崎空港間を新幹線化するときくらいである。

ルート設計以上に難しいのは、熊本県が同意するような方法にすることである。熊本県を通過するからには熊本県にとってメリットのある方法でなければ実現可能性がない。熊本県にとってのメリットは、唯一人吉までの鉄道アクセスが確保されることである。肥薩線は被災前から都市間鉄道として機能していなかったので、人吉への公共交通機関でのアクセス手段は高速バスしかない。そこに新幹線ができて、熊本や福岡まで直通できればかなり便利になる。また、人吉から最も近い空港は鹿児島空港だが、宮崎空港へのアクセスも便利になるだろう。あいにく熊本空港へのアクセスは有利にならず、公共交通機関で行くなら高速バスに乗って益城インターで空港行のバスに乗り換える必要がある。

新幹線ができたら代わり肥薩線は熊本県で引き取らざるを得なくなる。球磨川沿いのルートはもともと人家が少なく地域交通機関としては機能しないので、嵯峨野観光鉄道のような観光客向けのトロッコ列車くらいしか思い当たらないが、嵯峨野観光鉄道が成り立っているのは京都という超有名観光地にあるからであり、いくら新八代と人吉に新幹線の駅があっても、果たしてそこまで集客できるのか。眺めの良い区間に限定して保存鉄道的に最小限の労力で維持するのが精一杯ではないだろうか。では肥薩線をJRに維持してもらうために人吉に新幹線が来るのを断念するかというと、さすがに肥薩線よりも新幹線の方が価値があるだろう。逆に新幹線と引き換えでなければ熊本県はそう簡単に肥薩線を諦めないのではないだろうか。

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