レンタカーでN-BOXに乗ってみた

大手レンタカーでは一番安いクラスでもBセグメント車なので敢えて軽自動車を選ぶ理由がないが、大手レンタカーの無い所で車を借りたのと、どうせ島なので大して走らないだろうという理由で今回はN-BOXのクラスにしてみた。下手なAセグメント車よりもN-BOXの方がよくできているかもしれないし、こんなことでもなければ軽自動車に乗る機会がないためである。

今回は島ということもあり、郊外と市街地のみである。高速道路は走行していない。

あてがわれたのは2022年登録の2代目であり、最近登場した3代目ではない。3代目ではもっと改良されているかもしれないが、乗ったことがないのでわからない。

【第一印象】
見た目はミニバンそのもの。リアハッチが大きくて開口部が低く、軽自動車サイズのミニバン。

【ドライビングポジション】
着座位置高く、これもミニバン。座面の高さを下げたかったのでレバーを探したのだが、そもそも座面の高さを調整する機能が無かった。天井が高いので、座面を高くしてアップライトに座らせたいようである。また、座高の低い人が運転しても前が見えるように座面を高くしているのかもしれない。小柄な日本人女性を想定しているようである。調べてみたら、フィットと同じくセンタータンクレイアウトなので、それでは座面の高さを調整しようがない。

【運転操作】
ブレーキの操作感は良くない。アクセルペダルとブレーキペダルの高さの差が大きく、アクセルからブレーキに踏み変えるたびにつま先を大きく上げる必要があり、しばらく運転しているうちに脛がつってくる。もっとシートを後ろに下げた方がよいのかもしれない。

【視界】
前方と後方の視界は広々としている。しかし、軽のトールハイトワゴンなので側方下側の視界が悪く、小さいのに車幅感覚をつかみにくい(軽自動車があおりハンドルをするのはおそらくこのためだろう)。そのためN-BOXには左側サイドミラーの裏側と左側Aピラーに小さい鏡がついていて、左下が見えるようになっている。うまく見えれば秀逸な機能なのだが、ドライビングポジションが合わないとよく見えず、シートを後ろにずらすと鏡にはピラーしか映らない。

レンタカーということもありバックモニターがついていないので、左右はサイドミラーで確認できるとして、どれくらいまで下がれるかがわかりにくかった。あまり下がりすぎるとリアハッチを開けるときに他のものに当たってしまう。

しかしよく見るとリアハッチの窓ガラス上部に鏡があり、後方の地面が見える。ルームミラーの視界に入っていないと気がつかない。しかし停止しなければならない位置までの距離はわからないので、バックモニターでは見えないギリギリの場所を見るためのものであり、これがあればバックモニターが不要というわけではない。

【パワートレイン】
車検証の型式を見たところ、ターボなしの4WDだった。

路地を30km/hくらいで走る分には静かで快適。1500回転くらい。60km/hくらいで巡航する分には快適だが、それ以上速度を上げようという気にならない。自動車専用道でない一般道を走る分にはそれでも問題ない。もっとスピードを出すこともできるのだろうが、エンジン回転音がうるさくなり快適でない。なにぶん排気量が660mlしかないので、登り坂ではエンジンがうなり、4000回転くらいまで上がる。タコメーターは8000回転まであり、レッドゾーンは7500回転からである。さすがホンダである。

速度計は他の軽自動車同様に140km/hまで。しかし、軽自動車で120km/hも出したら怖そうである。

CVTなのでシフトレバーはDの下はSしかない。一応、いまどきのAT車と同様に下り坂でフットブレーキを踏むと自動でエンジンブレーキがかかっているようである。

【操縦安定性】
広い道をまっすぐ走る分には申し分ない。ホイールベースやトレッドが小さい割によくできている。車体剛性で不利なミニバン車体でまっすぐ走るのはさすがホンダである。しかし、カーブを曲がると重心が高くて運転しにくい。もちろん重心が高い割には踏ん張ってくれるのだが、運転していて落ち着かない。

車体が小さいから狭い道や曲がりくねった道でもいすいすい走れるかというと意外とそうでもない。そのような道を走るうえで効いてくるのは操縦安定性能と車幅感覚である。物理的に狭い場所なら小さい車の方が有利だが、物理的な制約がなければもっと大きい車でも車幅感覚をつかみやすくコントロールしやすい車の方が走りやすい。狭い道や曲がりくねった道を走るならヤリスやスイフトの方がもっと走りやすい。

【装備】
いまどきの車なのでオートハイビームやオートライトがついている。電動パーキングブレーキやオートホールドもついている。どうやら追従型クルーズコントロールがついているようだが、この車を高速道路を走ろうという気にならない。

レンタカーなのでナビはポータブルナビだった。バックカメラはついていたが、バックモニターが無い。

死角が多く見通しの良くない車なので、周囲を見渡せるモニターがほしいところで、レンタカーにはついていなかったが、市販の上位グレードにはついているようである。トールハイトワゴンの車幅間隔のつかみにくさを補ううえで重要な装備なので、なるべくつけた方がよいだろう。

いまどきの車なのでドアノブはタッチセンサー式で、鍵を持っていればドアノブの裏側に触れると解錠でき、ドアノブの黒いボタンを押せば施錠できる。鍵を取り出さなくてよいのは楽。売れる車は高くても売れるから装備にもお金をかけることができ、ますます売れるようになる。

【室内】
後席を倒さないと荷室はさほど大きくなく、国内線用キャリーケースは横向きにしか入らないが、後席を前に倒すと荷室がフルフラットになるのは秀逸。センタータンクレイアウトの賜物である。天井が高いこともあり後席も広々しているが、何を犠牲にして後席を広くしているのかを考えると、本当にこれでよいのだろうかと思う。後席を倒して荷室として使う分には便利だろうが、果たしてN-BOXの荷室を最大限に使うような場面がどれほどあるのだろうか。大きなものや背の高いものを積みたいのであれば軽トラの方が扱いやすいのではないか。この手の車には自転車を積むというニーズがあるようだが、自転車を積むなら軽トラの方が簡単だし軽トラの方が安い。軽トラには2人しか乗れないが、N-BOXだって後ろに自転車を積んだら2人しか乗れない。

リヤハッチは天地寸法が大きく開けると後ろに当たりそうになる。これでは軽自動車の小さいサイズを活かせない。後席のスライドドアを開けて後席スペースを荷室として使い方が扱いやすい。後席を後ろに畳めばまとまった量の荷物が入るし、出し入れも容易である。

【燃費】
満タン給油で約15km/L。4WDであることや走行条件を差し引いてもBセグメント車よりも燃費が悪い。排気量の制約のため、熱効率の良い領域から外れた領域を使わざるを得ないのだろうか。特に上り坂での燃費の悪化が著しい。平坦な道を走れば18km/Lくらいで、JC008モード燃費が25km/Lなので、実燃費20km/Lくらいが精一杯である。カタログ燃費ではターボ付の方が数字が悪いが、山がちな場所のようにエンジンに負荷のかかる場所ではターボ付きの方が実燃費が良かったりするのだろうか。ターボ付きにはまだ乗ったことがないが、1L相当になれば車重に対して釣り合いそうに見える。

燃費が悪くても走行距離が短ければ燃料代はさほどかからず、むしろ車両価格が安い方が有利だが、N-BOXは安い車ではない。

燃料タンク容量が25Lしかないので満タン給油での航続距離は350km程度。高速道路を走ればエンジン回転数が上がってもっと燃費が悪いだろうからそうなると300kmくらい。街乗り用としては十分な航続距離だが、登録車の代わりに長距離走る用途には使えないのではないか。

頻繁に給油しなければならないが、田舎ではガソリンスタンドまで遠いし、しかもガソリン価格が高いので、給油もままならない。やはり田舎の足車は自宅で充電できる電気自動車の方が向いているのではないか。

【他車との比較】
N-BOXは軽自動車としてはよくできていると思うが、4WDで950kg、FFでも890kgもあり、これはBセグメントのスイフトよりも少し軽い程度である。重い車体を排気量の小さいエンジンで走らせるのだから燃費も良くない。値段もスイフトと同じくらいであり、なぜ敢えて軽自動車を選ばなければならないのかよくわからない。車庫が物理的に狭くて軽自動車以外に選択肢がないならN-BOXは良い選択肢だろうが、そうでなければ同じ値段のスイフトの方が走りも燃費も良い。パワートレインを重視しないのであればヤリス1Lも操縦安定性が良いし、しかも安い。室内が広い車がほしければフィットの方がいろいろ便利だし、売れ筋のN-BOXと異なり現行型フィットは不人気なため安い。軽のトールハイトワゴンといえば今や日本の国民車だが、どうしてこのような車体剛性でも操縦安定性でも車幅感覚でも不利なのに安くもない車ばかりが売れるのか理解に苦しむ。

同様の疑問はルーミーにもあって、トールハイトワゴンのパッケージ以外に何も良いところはないのに、なぜかよく売れているが、他のあらゆることを犠牲にしてでもトールハイトワゴンのパッケージが必要なのだろうか。

軽自動車ベースのパッソやルーミーとの比較では、N-BOXはとてもよくできているので、ルーミーよりもN-BOXを選ぶというのは理解できる。

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