エミレーツに乗ってみた

欧州まで格安に移動すべく、エミレーツを利用した。羽田発の深夜便に乗ると翌朝にドバイに到着し、各地への便と接続している。ドバイからはヨーロッパ、アフリカ、アジア、オセアニアへの便が出ており、相互の乗継に便利である。北米や南米への路線もある。エミレーツで行けないのはハワイ等の中部太平洋くらいであり、人口ベースで世界中のほぼすべてを網羅している。まさに世界のハブである。とはいえ、乗継需要が多いのはやはり東南アジアやインドとヨーロッパの間である。

【機材】
エミレーツの長距離路線はA380が主流だが、羽田便は777-200LRである。これは羽田の滑走路が短いためで、D滑走路は2500m、延伸されたばかりのC滑走路は深夜は2860mで運用されている。C滑走路からならA380でも離陸できるものの、D滑走路は距離が短いだけでなく重量制限もあり、A380はD滑走路からは離陸できない。万一C滑走路がクローズされたらD滑走路しか使えないので、777-200LRを就航させているのだろう。777-200LRでも、C滑走路が利用できる場合にはC滑走路から離陸する。羽田を離陸すると東京湾を旋回しながら横田空域の上へと急上昇していく。国内線では見慣れた光景だが、燃料の重い国際線機材には負担になる。エンジン推力の大きい777-200LRだと国内線と同じように上昇していく。

成田線もかつてはA380が就航していたが、羽田便が就航したこともあり、現在は777-300ERである。機内が快適なのはA380、777-300ER、777-200LRの順である。ビジネスクラスの座席は、A380と777-300ERがANAのビジネスクラスと同様のスタッガードだが、777-200LRのビジネスクラスは座席が前にせり出してほぼ水平になるタイプである。また、777は大推力のエンジンが胴体近くにあるので音がうるさいが、A380は四発機だし、しかも2階席はエンジンから遠いので静かである。

しかしそれでも羽田発は便利だし、ドバイでの接続も良い。成田は深夜に発着できないため羽田便よりも発着時間帯が早めであり、ドバイ到着時の接続時間が長くなる。羽田発は夕方まで仕事をしてからでも乗れるので人気が高いが、羽田着は到着が遅く、行先によっては終電に間に合わないことがある。成田便なら夕方に成田到着するので、こちらの方が便利かもしれない。

【マイル】
世界中に路線網を網羅しているため、他社と組む動機が乏しく、大手航空会社のマイルにつけにくい。大手航空会社のマイレージプログラムにつけることができるのはJALくらいだが、運賃種別によってはJALのマイルを加算できないため、毎回エミレーツを利用するのでない限り、マイレージプログラム上のメリットは無い。日本から欧州までビジネスクラスで往復すると2万マイルくらい貯まるし、電子マネーやポイントへの交換も容易なので、2万円分に相当する。エミレーツの方が安いとはいえ、マイルの金銭価値の分は割り引く必要がある。JALもANAも閑散期にはさほど高くない。

【羽田でのセキュリティチェック】
スターアライアンスとワンワールドに加盟している航空会社の上級クラスの乗客は優先レーンを利用できるが、エミレーツはそのいずれにも属していないので、優先レーンを利用できない。ただし、エミレーツのチェックインカウンターも搭乗ゲートも北側にあり、中央のセキュリティチェックが混雑しているのに対し、北側のセキュリティチェックは空いているので、特に問題ない。

【ラウンジ】
羽田でのグランドハンドリングはJALが行っているので、ビジネスクラスの乗客はJALのサクララウンジを利用できる。

【機内の内装】
飛行機の内装なんてどこも代わり映えしないが、木目調パネルやオレンジ色の照明や花がアラブを感じさせる。夜間には天井に星が映し出されて、これもアラブ的である。機内の音楽にもアラビア音楽がある。

【機内食】
羽田発の便はおそらくTFKによるものだろうが、さほどうまくない。一方、ドバイ発の機内食は機内食なのになかなかおいしい。ドバイにはインド人が多く住むので、インド料理がうまい。ビジネスクラスだと温めたパンのおかわりを提供してくれる。機内食はハラールとのことだが、たしかにハムの代わりにビーフパストラミを使うなど、豚肉は使っていないようだが、どこまで本当にハラールなのかはわからない。ムスリム以外が普通に食べる分には特にハラールかどうかを意識することはない。

【ドバイ空港】
第1ターミナルから第3ターミナルまであり、第3ターミナルがエミレーツ専用である。巨大なターミナルにA380がずらっと並んでいるのは壮観である。エミレーツの輸送人員はルフトハンザやユナイテッドといった欧州や米国の大手の2倍でダントツのトップであり、その乗客が世界中からハブであるドバイに集結するので、ドバイのハブの利用者数も圧倒的である。

第3ターミナルにはサテライトAからCまであるが、それでも足りないので、沖止めになる場合がある。沖止めの場合には、クラス別に案内され、バスもクラス別である。ファーストクラスやビジネスクラスは前方の扉から、エコノミークラスは後方の扉から出入りする。広大な空港なのでバスでの移動にも時間がかかる。ターミナルビルは広大な割には動く歩道が無く、通路は狭く人が多いので、移動は大変である。ターミナルビル内を歩くよりもむしろバスで移動する方が楽かもしれない。

世界中いろいろな国の人が広大なターミナルの中でひしめきあっていて、まるで宇宙ステーションのようである。乗客のみならず乗務員も世界各国の人がいる。これを見るだけでも一度はエミレーツに乗る価値はあると思う。ラウンジはサテライトの中央にある。アラビアはアラビカ種のコーヒー豆の本場なのでコーヒーがうまい。ナッツ類もうまい。

【乗継便かノンストップ便か】
日本と欧州の間だと、ノンストップ便で所要時間12時間前後なのに対し、ドバイ経由だとドバイでの乗り継ぎ時間を含めて18時間くらいかかる。感覚的には日本から北米に行くのにハワイを経由するようなものだろうか。エミレーツは安くてサービスが良いので利用するが、運賃に差が少なければノンストップ便の方がやはり楽である。エミレーツは世界主要都市に就航しているが、欧州の就航地には日本からもノンストップ便が飛んでいる。

【国策としての航空事業】
ドバイ政府がエミレーツを育成しているのはドバイを通商都市とする政策の一環だが、エミレーツはサービスが良くて便利なので、アラブに良いイメージを持ってもらうことに貢献している。エルアル航空に乗ってイスラエルを好きになる人よりも、エミレーツやカタール航空やエティハドに乗ってアラブを好きになる人の方が圧倒的に多いのではないだろうか。人は好意的な相手に戦争を仕掛けたり攻め入ったりすることはないので、外国人に自国を好きになってもらうことは安全保障に寄与している。たしかにドバイ政府の補助金はそれなりの額で投入されているとはいえ、兵器を購入するのに比べれば圧倒的に安い費用で安全保障を確保しているのではないだろうか。

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