ヴァサラ戦記二次創作/ジンチョウゲの里

これはヴァサラ軍に入る前のラスクの故郷での物語

ここはジンチョウゲの里、生まれた頃から皆が戦士であり、戦うための訓練をしている里である。独自の文化を築き様々な優秀な戦士を傭兵として輩出している

ラスクはその里の一般的な家庭で育った。朝起きて朝飯を食い、父親の仕事である漁を手伝いそれが終われば自分だけの秘密の滝の近くで修行をする。そして家に帰り夜飯を食べ、眠りにつく。そんな日々を繰り返していた

ある日ラスクは里長に呼ばれた、その場所へ行くと大人から子供まで大勢集まっていた

「よくぞ集まってくれた!有望なる戦士達よ!」
里長がよく響く覇気のある声で叫ぶ

「今日集まってもらったのは他でもない!後日開かれる戦士大会についてだ!」

『戦士大会』それは里の伝統的な大会であり、ジンチョウゲ最大の祭りでもある。優勝者には里の宝の武具を一つ与えようというのだ。参加しないはずは無い。
だが今回はいつもより活気がない。いつもの戦士大会ならばこの召集の時点で大盛り上がりのハズであるが…

「今回はやめとくか…」
「僕達じゃ貴公子に勝てっこないよ〜…」
「俺はいいかな……」

何故か皆、気分が落ちている。十中八九さっきから皆が口にしている「貴公子」が原因だろう。容姿端麗、成績優秀。里長の親戚でその実力も里内で大人も含めほぼトップクラスなのである
そんな中ラスクは参加届を里長に提出し、自分に自信のある戦士達、そして貴公子と呼ばれていた青年が参加する

「(そんなに強いのかな…)」

ラスクがこう思うのは2つの理由からだった
1つは貴公子の活躍をラスクは1度も見た事がないから怖くないということ
もう1つは単純に自分よりも弱く見えるからである
そんな事を考えながら帰路に着く

「ラスク、よく大会出ようと思ったなぁ」
夕飯を食べていると父が聞いてきた
「だってやっと17になって初めて出れるし、楽しそうっすから」
「そうだそうだ!お前は俺の息子だからな!ばっちり優勝してこい!」
「わかったっす!おやすみなさい!」
「ほら2人とも楽しみなのはいいけど早く寝なさい!」
「「はいっ!!」」

そして数週間後ついに戦士大会の幕開けとなる
里中はお祭り騒ぎでこれ以上ないほどの盛り上がりを見せている
そんな中ラスクは

「え〜っとこっちっすから…あっちっすね」

ギリギリまで修行をしていたのか森の中でうろうろとさまよっていた
ラスクは方向音痴で、その方向音痴っぷりは素晴らしく、誰かと一緒にいても気づいたら別の道に逸れるほどである

「しししっこっちだぞ、ラスク」
「あっティラミ、そっちだったっすか?」

木の上からぶら下がり、鳥の羽の装飾を施されたカチューシャをつけ手足が普通の人よりも長く見える。そんな男がのんびりとした声で話しかける

「相変わらずの方向音痴だなーもう開会式始まるぞーー?」
「……!案内おなしゃすティラミ!」
「いいぞーオラもラスクがいなくなったら張り合いねーしなー」
「えっ?てことは」
「オラも出場(で)るぞー当たり前だろー?」
「戦うのを楽しみにしてるっす!」
「だなー……あっ着いたぞー間に合えー」
「間に合えぇぇぇええ!!」

2人はギリギリのところで会場に間に合い開会式に出ることができた

「それでは、バアムさん。宣誓を」
ざわざわ
「優勝候補の貴公子だ…」
「大人も敵わないらしいぜ」
「かっこいい〜」

今回の大会の優勝候補の登場に会場はいっそうざわめき、盛り上がり
「宣誓、僕達戦士は、培ってきた全てを使い、戦士としての誇りを持って━━━━」
「ティラミ、あの人そんなに強いんすか?」
ラスクは小声で眠そうにしているティラミに尋ねる
「んぁ〜?あぁちゃんと強え〜ぞ、今も実力隠してっしな〜知らね〜けど」
「そっか、隠してるってこともあるんすね」
「まぁオラが1番危険視してるのはラスク、オメーだけどなー」
「頑張るっす!……1回戦目はレースっぽいっすね」
「オメー大丈夫かー?迷わねーか?」
「1位の人追っかけてれば大丈夫っす!多分」
「んだなー」

戦士全員が障害物レースの入口に集結する
「始めいっ!!!!」
里長の体の芯に響く宣言同時に開始を知らせる力強いドラの音が鳴り響く
すると戦士達は一斉に走り出す
『さぁぁぁあ↑!始まったぁ!第1種目の障害物レェェェーーース!今回もぉ!実況はぁ!このクレイプが務めていくぜぇええ↑!』

もはや名物と化したクレイプのハイテンション実況
クレイプは祭りあるところに我あり!と言わんばかりに乱入してくるジンチョウゲのならず者である
少々喧しいが非常に盛り上がる実況として近年、正式に実況役に任命された
彼は飼育している怪鳥の背に乗り拡声器で祭りの様子を伝えていく

『遂に始まった戦士大会、その第1種目!会場の周りを一周する障害物レェース!最初に1位に躍り出たのは〜?やはりこの男だぁ!貴公子バァァム!』
「うっそ、速いっすね!迷わずについていけるかな…」
ラスクも迷わないように必死にバアムに食らいついていく
「えーっと…これはぁ…」
バアムの足が突如止まる
『さぁここで貴公子の足が止まったぁ!それもそのハズ!ここから先は断崖絶壁の崖を登り遠回りをするか!それとも暗〜い洞穴を直進するのか!この2択!貴公子はどちらを選ぶのかぁ!』
バアムは少し迷ったあと前を向き
「こっちだ」
『貴公子バアム!迷わず洞穴へ一直線だぁ!この度胸!正に戦士!しかし洞穴内は実況しにくい!困る!』
「こっちの風のが不穏だべねぇ、上だな」
「ティラミが言うなら違いないっすね」

ラスクとティラミは安定を取り崖を登る
洞穴の中は絶対にラスクが迷うからである
「へっわざわざ登るなんてご苦労なこったな」
「お先に失礼!」
他の戦士達は次々とバアムを追って洞穴へ走っていく

『おっとぉ!?あの3人以外、次々と洞穴に飛び込んでいくぞぉ?そんなに実況させたくないのかあ!?!』
「よいっしょっと、ほらティラミ。手」
「ん〜、ありがと」
「ふぃ〜登ったなぁ〜」
「ウイロ!いたんすか」
いつの間にかティラミとラスクの隣には別の模様を頬に施した少年がいた
「ウチ影薄いからなぁ〜ラスクが気づかんのも無理ありまへんわ〜」
「ごめんって…じゃ、行くっすよ」
「ほーい」「承り〜」

崖を登った3人は崖の上をただただ真っ直ぐ進んでいく
『さぁさぁさぁ!崖を登った3人はぐんぐん進む!未だ洞穴の突破者は見えなァい!』
「おれらが1位っぽいすね」
「んにゃあ〜そうは行かなねぇらしいべなぁ〜」
『え、あれ?おぉう!??な、な、な、なんとぉ!崖の上の3人に気を取られて気づかなかったが!!既に貴公子洞穴を抜けていたぁ!!ぶっちぎりで1位として君臨しているぅ!!』
「マジかいな…ウチら追いつかれへんのとちゃう?」
「そ、そんな事ないっすよ!追いついてみせるっす!!」
「やられっぱなしは癪だしにゃ〜」
「やね〜」

バァムに追いつくためそこらじゅうに生えているツルや木を足場にするが追いつける気配がない
バァムの走ったあとはとてつもない加速の跡が残っている

「…やっぱ貴公子は使えるんやねぇ、極み」
「んなぁ、なら追いつけないのも納得だべ」
「だからって2位でとどまりたくないっす!」
「「2位はオラ(ウチ)だ(でっせ)!!」」

『さぁさぁさぁ!!4人以外も続々とレースに復帰したところで貴公子の前に立ち塞がる第2の壁ェ!沼地…ってぇ!貴公子止まらなーーい!!!沼地に突っ込むぞ、何か考えがあるのかァ!?』

バァムはけんけんばのように片足で進み出しその足にチカチカと赤い光が灯り始める
それは闘牛が突進をする際に足を何度も地面に擦る助走のようで、擦る度に光は大きくなっていく

「行けそうだ…っなぁ!!」

バァムが両足を揃え地面を全力で踏み抜くと地面の底から炎が爆ぜ地面ごとバァムは吹き飛び一気に沼を越える

『あ、あ、アッッッッメイジィーング!!!流石は貴公子!華麗に飛び越えたァ!!!!!』

「「「…なんっっっだアレやっば」」」

その後地道に大きな葉の上を走る3人は尊敬半分ドン引き半分のような顔でバァムを見ていた

「この後の闘技試合であれに蹴られるかもっての考えてまうと……はぁっ、鳥肌立つわぁ…」
「ぜってーやり合いたくないっすね…」
「どーせ次の次の最終戦で戦うんだぞ〜分かってんのかお二人さーん」
「「あぅう…」」

その後3人は障害を協力しながら突破していくもののバァムはそれよりも早くするすると障害を越えていきそのまま1位でゴールした

「…はぁ…よし…2位、うちが2位やろこれは…」
「オラだろ、絶対に…」
「おれっすよ!…ぜぇ…」
『HAHAHA!!!なぁんでかあの4人の2位争いの方が盛り上がっちまったが!!1位は皆さんの予想通り貴公子バァム!2位はティラミ!3位ラスク、4位メレ、5位ウイローー』

淡々とクレイプが順位を発表していくその裏で3人は次の闘技試合の組み合わせを決めるためのくじ引きへと向かう

「2人とは当たりたぁないなぁ」
「どうせやるなら最終戦でっすね!」
「5位…5位やったんかぁ……ほうかぁ…いつの間に…えホンマにいつの間に抜かされたん?ちょっと離れたとことかで4人で2位争いしとったん?うせやろ〜…」

『以上8名が次の闘技試合に出場だァ!今回は通過が8名と少ねぇ!最終戦では4人!だがしかし!どんな状況でも盛り上げるのがこのクレイプの……うん?なに?あ、くじ引き終わった?あーはいはい組み合わせも決まったのねおっけー……さァさァ!!!!戦う組み合わせが決まったようだぞォ!組み合わせはこの通りDAAAAAAA!!!!」

クレイプが運営から受け取った用紙を上空から降ろす

第1ステージ ティラミVSバァム
第2ステージ タルトゥVSウイロ
第3ステージ カロンVSラスク
第4ステージ ブラウVSメレ

「オーマイガーだなぁ…くじ運悪ぃ…」
『なお!全試合同時進行で行くぜ!今日は日が落ちるのがはえぇからな!!あと書ききれねぇからな!!!!HAHA!!」
「「「「「「(書き……???)」」」」」」

それからしばらくして会場が用意された
その周りには賑やかな歓声が飛び交っており
戦士達も準備を済ませている

『そんじゃーまー毎年やってるが見てるみんなの為にルール説明するぜえ?まず!基本的になんでもあり!はいルール破綻!で次は場外or気絶で敗北!シンプル!最後!死ぬ危険があったらすーぐ審判が止めるからなちなみに勝者は殺しかけた方な、何故って?そっちのが強えから。はいルール説明おしまい!戦士たちの様子を見てみよーう!!』

「負ける気はねーべ」「お互い全力でやろう」

「前大会2位と戦えるとは光栄ですわぁ」「…よろ」

「すぐ泣かしてやる」「よろしくおなしゃす!」

「よろしくな坊や」「舐めてると痛い目を見る」

『準備は出来たようだーなーぁ!?!?それじゃ。んっんー…あー…レディー??………
スゥーーーーーーーー
FIGHT!!!!!!!!!!!!!!!!!』

クレイプの爆音の開始宣言を皮切りにそれぞれの会場で戦闘が始まる

ラスクは槍を持っていない方の手で暗器を飛ばし隙を作ろうとする
カロンは盾の形をした腕に装着できるハンマーでそれを弾き返しながら向かっていく
「タイマンじゃ定番だよなぁ!飛び道具で隙作るのはァ!!んでテメェは長物ときた!」
その勢いのままショルダータックルで防御の構えをしているラスクの槍を飛ばし、裏拳のようにハンマーを使いラスクの脇腹を殴る
ラスクは身体を捻ることで体の中でも防御力の高い背中で受け衝撃を軽減する
「っつぁ〜〜危ねぇ…っておうぉぉ!」
「余所見しながら避けんなよ凹むだろ」
「そっちこそ俺の事をあんまり熱烈に見つめられると照れるっす、よ!」
ラスクが握りこぶしを後ろに引っ張るジェスチャーをするとカロンの膝裏を暗器が襲う
「(ワイヤー付けてやがんのか、落とされること前提飛び道具ねこざかしい)」
「貰ったっす!」
「まぁ近接主体だからって飛び道具仕込まねぇわけじゃねぇよな」
踵を地面にうちつけたカロンの靴のつま先から針が飛びラスクの左肩へ刺さる
「あっこれ痺れるやつっすね退避退避」
「まだまだ負けるわけにゃいかねぇからなどんどん戦り合おうぜ楽しいし」
「っすねぇ」
そこから武器同士の打ち合いへと発展するが左腕が痺れる分ラスクの方が不利になる。が技術面でラスクは巻き返した
ハンマーを地面に抑えその槍を軸にポールダンスの要領で蹴りを顎へクリーンヒットさせる
「っし!」

『FOOOO!!!ラスクのビューティーキックが炸裂したァ!!!芸術点があるならきっと満点だろう!』

「あークッソうめぇなぁ真っ向勝負な顔して意外とテクニシャンかよ」
カロンはふらつきながらも舞台の中央へ向かうとハンマーで舞台を叩き割る
舞台の残骸があちこちから隆起し不安定な足場が出来上がる
「場外に出しゃ俺の勝ちなんだずるっこいが恨むなよ!」
更にふらつきながらも全力で走り体全体を使い足を取られているラスクにハンマーの重さを使いタックルをする
「残念ながら俺ぁこれの5倍不安定な船の上で手伝いしてんすよぉぉぉ…!!!!」

ラスクは槍を捨て痺れて使い物にならない左腕を思い切り振り抜きカロンの顔面に叩きつけ右腕に全力の力を込めカロンの腹を押さえ踏ん張りをきかせ後ずさりながらもタックルの勢いをどんどんと殺していった

「あーくっそ止まっちまった」
「揺れも収まったとこでふりだしっ、すよ!!」
ラスクは蹴りで距離を離しつつ槍を拾い自分の間合いを作り出す。
「そこでもういっちょ!」
舞台を壊したことでばらまかれたワイヤー付きの暗器を蝶の様に舞わせ波状攻撃を仕掛けるがハンマーで弾かれる
だが更にその隙を逃さずラスクは槍で確実にダメージを与えていく
トドメの一撃といわんばかりに力を込め槍を振り抜く寸前で膝をつく
「…っあ!?……えーいつぅ…??」
「ド無策でタックルしねぇだろ針仕込んでんの忘れたんか」
「…あーーあん時…全体的にダメージ与えるタックルで誤魔化しながら刺す…はースゲェ…」
「そりゃ降伏宣言っつー事で合ってるか?」
「どうっすかねぇ」
カロンがハンマーでラスクの頭を撃ち抜こうと腕を上げた時カロンがピクリとも動かなくなる
「ーえぇ?」
「ワイヤー付き武器使うやつがワイヤー単体使わないわけなっすよね忘れたんか?」
「こんなもん振り切って…」
腕を振り抜こうとするがワイヤーがめり込んでぷしっと血が飛び散る
鋭い痛みに一緒固まったカロンの腕を掴み膝をついたまま身体を捻り放り投げる
「…ちくしょう」
カロンの背中は舞台とは感触の違う地面をしっかりと認識していた

『第3ステージ決着ゥゥウウ!!勝者ラァスク!!』

「っしゃああっ!!!」
「てめぇ優勝しねぇと呪うからな」
「もちろん優勝するっすよ、ひとまずは…」
ラスクはカロンの前へ行き手を差し伸べる
「いい勝負だったっす!」
「……はっ」
カロンはラスクに全力のアッパーをかましラスクをぶっ飛ばす
「体毒と麻痺で動かすのもギリなくせにかっこつけんじゃねぇよウゼェな!!!とっとと負けちまえバカが!」
「酷いっす…」
「オラ医務室行くぞ立てコラボケコラ」
カロンはラスクの首根っこを掴み医務室へ連れていく

『さーーぁ!他のステージも見ていこ…あっれぇ第4ステージ終わってねぇ?!!?あっえと、あの、勝者!メレ!!!!!』

第4ステージ
「君すごいな、若いのに」
「戦いに歳は関係ない、生き残ったものが勝者」
「……完敗だ」

第2ステージ
「いやぁ流石は前大会2位ですなぁ…中々厳しい…」
「今回こそは勝ちたいのでな」
「そらウチもそうなんですわ、ウチは初出場ですけども」
第2ステージはタルトゥのブーメランによって抉られた跡が幾つもありウイロの体にも血の滲んだ痣が現れている
「あっウイロ、頑張れー!!」
医療席から声を上げるラスクを見てウイロは微笑む
「まぁああいう事なんですわ、つー事でここから大逆転させてもらいまっせ」
ウイロは腰のホルダーからとてつもない長さの鎖を10数本取り出し構える
「…油断はしない」
タルトゥの剛腕から再びブーメランが放たれる
しかしそれはウイロに直撃することは無かった
ブーメランの軌道上に鎖を敷きブーメランを捕らえた勢いのまま回転し勢いと速度の増したブーメランを跳ね返す。その行動を1秒もしないうちに行った
それに加えタルトゥの両腕は既に鎖に繋がれ微動だにしなくなっている
「…避けきれんっ」
タルトゥは何とか耐えるが目の前には既にウイロが迫っている
「必殺  鎖十」
10本の鎖の先端に付いている鈍器が体の急所それぞれに打ち込まれ遂に膝を付かせることが出来る
「トドメっ!」
頭を掴み眉間へ膝蹴りを食らわせ気絶させる

『なんと勝者っ!!!意外にも意外!ウイロォ!!!!!!!!!』
「意外て…えらい傷つくなぁ……」

第1ステージ
「ぜぇー…あーつっら……何してもオラに風が向かねぇべ……どうなってんだ…」
ティラミは戦闘しながら分析した事を振り返る
「(バカみてぇにテクあるダガー捌き、弾いても互角以上のフィジカル、極めつけはこの……)」
ティラミの足元から連鎖的に火炎の爆発が起こる
それを軽やかなステップで避けていくが火炎を振りきれず吹き飛ばされる
「地面貫いてきてるわけじゃねぇし……とんでもねぇ極みの早撃ちだべな…」
ティラミは全力でバァムへ向かっていく、火炎をものともせずに囲うように羽根型のクナイで攻撃を仕掛ける
爆発が起き、バァムが宙に浮く。ティラミはバァムに向かって蛇腹剣を向け拘束をする、空中では避けようがないと思われたこの攻撃だがバァムは再び火炎で爆発を起こしティラミの頭を地面に叩きつける
「…あが……」

『ティラミ気絶!よって勝者貴公子バァァァァム!!!!!!!という訳で2回戦終了!!最終戦のバトルロイヤルは昼休憩の後だ皆休めよ!ひとまず解散!!!!』

「…負ぁけちまったーー」
医療席でラスクの隣に運ばれてきたティラミはそう呟く
「俺らが仇を打つっす!」
「最後ちょっ…としか見れんかったけどとんでもない強さやねぇあの貴公子様は」
「でもあれ…多分最終戦はあそこまで圧倒されないと思うっすよ」
ラスクは運ばれてきた飯をつまみながらそう言う
「ずばりその根拠は」
「だって多分最初っからステージに極みか爆薬仕込んでたんだと思うっすよ、舞台妙に粉が上がってたし」
「なんでもあり…罠仕掛けるなんて戦場じゃあ当たり前なのになんで分かんなかったんだかな〜」
「そら1戦目の沼のパフォーマンスがあったからなぁ、あれで爆発の印象ついとったらウチでもラスクでもそういうの疑わずにただの極みの早撃ちやと思うやろなぁ…」

「Hey最終戦にて活躍しそうなお二人さん、食ってる?」
少しシンとした席にクレイプが来る
その手には大量に骨付きチキンが盛られている
年中無休で怪鳥と共に遊び仕事をしているのに食用種とはいえ同じ怪鳥を食べるのに抵抗はないのだろうかとラスクは少し思った
「別に抵抗ねぇよ?というか俺も食う為に飼ってるし、なんならバディのクリィムのが積極的に食おうとしてるし」
心を読まれたのかとラスクはビビった

「しっかし残念だねぇ、貴公子が相手とは…。ココだけの話実況偏らねぇようにすんのすっげぇキツい、みんな貴公子見てるし取り上げないわけにいかねぇし、だからといって貴公子の事ばっか話したら偏りがあるだろ?って感じで…」
「「悩んでるところ悪いけど最終戦は俺(ウチ)が勝つよ」」
「oh………HAHAHA!そりゃ楽しみだァ!期待してるぜ!そんじゃ最終戦までカットで!」
「あ、ところで最終戦ってどこでやるんすか?」
「ん?えっとねー…」

最終戦概要
・戦士は1人1つ玉を持つ
・玉を奪われた時点で戦闘不能となる
・始まる場所はバラバラ
・その他はなんでもあり
・勝者にはトロフィーが贈られる
・舞台は森(障害物レースの崖と沼地付近)

『さァ!!戦士諸君の配置が済んだ、これより最終戦!勝者はこの里の秘武具を手にすることができる!!それでは始めようレディー…FIGHT!!!』

「えっと、どこっすかここぉ!!」
「ラスク迷っとらんかなぁ…いやまあ勝ちは譲るつもりないけども」
「高所を狙うのが定番」
「範囲か索敵か…」

『各戦士の位置を観客の皆様にお届けするぜェ!!ウイロは沼地付近、バァムは森林、メレは沼地に近い森林、ラスクは障害物レースの洞窟近くの平野だァ!!ウイロとメレがかなり近い距離!早速マッチアップするかァ!?!』

図解

クレイプの予想と反しメレはラスクの洞窟上の崖へ向かっていき、ウイロは罠をしかけつつ森の中央で待ちの体勢を取る

「誰か来る」

弓矢がラスクの髪をかすめる

「あー崖…通す訳にはいかねぇっすね、矢がある限り無双されちまう(ウイロは鎖だし貴公子かメレさんっすね、んで貴公子なら極み纏わせるはずだから多分メレさんすね)」
ラスクは砂塵を舞わせ自身の身を隠し射手を探す
「まぁ平野にゃ出ねぇ〜っすよねぇ」
「(矢的に射手は沼地の方向…好都合っすね)」
ラスクは沼地の方の森林地帯へ進む
矢が何度も放たれるが避け、叩き落とす
地帯に入るタイミングでラスクは棒高跳びの要領で飛び上から探すとこちらに矢を向けるメレの姿が見えた
「そこっすね」
「見つけても遅い、撃ち落とす」
刹那、メレがラスクに矢を放とうとした瞬間、弦が千切れ矢はあらぬ方向へ飛ぶ
「あらら残念な偶然っすねぇ」
ラスクは着地と同時に地面を抉り砂利と泥で攻撃を妨害を同時に行う
「想定済み」
メレの弓はガチャリと音を立てると如意棒の様なものへ変化し武器の打ち合いへ進展する
ラスクは槍を短く持ち距離を詰めていく
「そぉーんな棒の捌き方じゃ俺は倒せね〜っす〜よ!」
片手で持った槍で相手の棒を抑え右手で鳩尾へ拳を叩き込む
が右腕へ足を絡められ地面に押さえつけられる
そのまま右腕がミシと音を立てるがメレの動きが止まる。体には蜘蛛の糸のようなものが絡まり動きを制限している
「メレ、戦闘不能」
髪を後ろで2つ結びにした男がそう言う。その男は審判と雑な文字でデカデカと書かれた看板をぶら下げている
「何故でしょう」
メレは問いかける
「玉、盗られてっから」
そう言われた瞬間身体を探るが玉は見つからない
するとラスクが右腕の袖から玉をふたつ取り出して見せびらかす
「倒すんじゃなく玉取りゃ勝ちなんすよ」
「……降伏する」
メレは両手を上げラスクの上からどき退場する
「っし、まず一個目。(気絶するまで戦闘するルールなら負けてたかも…まだまだだ)」

「おやおや、今大会の主役さんがこんな華のない男の元へ来て下さるなんて光栄ですわぁ」
「そんな事はないだろう、少なくとも僕は貴方達を前に慢心することは無い」
「そらありがとさん」
ウイロがジャラリと鎖を鳴らすと同時に2人は戦い始める
バァムの抜刀斬りをバックステップでウイロは避けそのまま仕掛けていた鎖を足場にバァムの周辺を跳ね回りつつティラミから預かった羽根のクナイを放つバァムは足元に仕掛けられたブービートラップに気を取られ避けきることができず空中に逃げようにもクナイの吊り下げられた鎖が邪魔をするため逃げられない
「(攻撃用の鎖が少ない分ここから逃がすと不味い、クナイ術じゃ勝てない。鎖を少し回収しつつ罠で神経をすり減らす)」
すると突然バァムがうずくまる
好機とばかりにウイロは足場にしていた鎖2本を回収しつつクナイと鎖で攻撃へ転じる

「火の極み "爆蝉"  地響き」
 
バァムがそう呟くと地面が爆ぜ罠と鎖を一掃する
ウイロは即座に追加で回収した鎖で防御しようとしたが平野まで吹き飛ばされてしまう

「なんちゅーバカ火力しとりますねん」
「何がなんでも勝ちたいからね、どんな手段でも使うって決めてる」
「そら普通のことですわい」

両手にダガーを握りしめ猛攻を開始するバァム
鎖でいなすが先程の防御の際のダメージでマトモにいなしきれずダメージを受け受け続ける

「秘技"爆鱗連鎖"」
バァムの手から鱗粉のようなものが放たれ風に乗りウイロに向かう、バァムが手を握る時それは一気に発火し地面ごとウイロを吹き飛ばす
吹き飛ばされたウイロは玉を落としてしまう
バァムがそれを手に取ろうとした時、里全体に響くほどの怪鳥の鳴き声が轟く

『What happened!?!?なんだなんだァ!?』

その場の全員が空をむくとそこには実況役の乗っている鳥の数倍ほどの大きさの怪鳥が飛んでいる
その怪鳥は数回何かを探すような仕草を見せると動きをピタリと止めて地上へ急降下して行く

「あ、あっぶね。玉回収…つってもなんなんやあれ…」

怪鳥は景品であるトロフィーを奪って再び空へ飛ぶ
審判の近くに座っている上着にファーを縫いつけた服が特徴的な男が「…落とす?」と訪ねるが審判はそのままにする
里長はクレイプを呼び耳打ちする

『えー…ルール変更だ野郎共!!!!これより!あのクソ鳥が奪ってったトロフィーを奪還した者を優勝者とする!らしい!!さぁどうする戦士たち!!』

「随分むちゃ言い張りはりますなぁ…」
「今よりは難しくなくなったな」

「ひぇ〜まじっすか!?遠いって…」

三者はそれぞれ怪鳥を追いに走る

「この距離なら鎖を飛ばせばっ!!」
ウイロの鎖はトロフィーに勢いよく飛んで行くが怪鳥がはばたく風圧で狙いがズレ怪鳥のトロフィーを掴んでいない方の足に絡まった
「うおっとっと!…このまま降りてこい〜!!」
ウイロが引っ張るが鎖がピンと張るだけで怪鳥は意に介さない
その張った鎖の上をバァムは走っていく
「あっ利用された」
十分な助走をつけてトロフィーを掴むが怪鳥が足を振るったことで地面に叩きつけられる
「惜しい…」
憤りを感じた怪鳥は吠えながら鎖を千切り旋回してからバァムとウイロの2人を翼で打つ
「うぐっ!」「がほっ」

バァムはすぐに立ち低空にとどまっている怪鳥に向かっていく
ウイロはバァムから与えられたダメージが響いてうずくまっている

「あっ!いた!ウイロ、大丈夫っすか」
「大丈夫に見えるならさすがに能天気すぎ」
「でっすよね」
「とりあえずアヤツ落としましょかァ」
「おっし任せろっす」

2人は共に走り出す
ウイロはクナイを付けた鎖を投げつけ羽にダメージを与えつつ足を絡め取る
ラスクはワイヤーで反対側の羽を畳み、首に足を絡め締め上げる

そこへバァムが炎を纏わせたダガーで胸を貫き爆裂させると怪鳥は倒れ動きを停止した

「あっぶね燃えるとこだったっす」
「狙ったんだから当たり前でしょ」
「なぁっ」

バァムがトロフィーへ手を伸ばすがラスクが横から脇腹を蹴り阻止する
ウイロも争奪戦に参加しようとするが体が限界なのか気絶してしまう

「さらっと取ろうとしてたっすねぇ今ァ!ずっこ!」
「勝てるなら勝ちに行くだろ」
「そらそうっすね!!」
お互い少しハイになりながら戦闘をしところどころでトロフィーを取ろうとしている
「火の極み"爆蝉"…」
バァムが手の中にチカチカと火花を散らせそれをラスクの顔面にぶつけようとする
「やっべ…」
すんでのところで避け後ろへ下がるが足元で爆発を起こしすぐに詰められる
「紅葉花火!!!」
ラスクの胴体に打ち込まれた掌底が爆ぜてラスクは吹き飛ばされる

はずであったがバァムはカウンターを食らっている
爆発によって起きた土煙が晴れるとラスクは沼地の水を纏ってバァムの攻撃を打ち消していた

『な、な、な、なぁんとぉ!!!今大会、極みを使えるのは貴公子だけでは無かった!!それとも今発現したのか!?まさかの展開だァァァ!!!』

「使えねーたぁ一言も言ってねーんすねぇコレが」
間合いを作り、槍を構える
「水の極み"天蒸水舞"  水刃っ!!」
体に纏った水を槍に移動させそのまま刃にしてバァムに斬撃にして放つ
「極みがあるとしても練度が違うっ!!」
バァムは火の壁を作り出し刃を蒸発させその勢いのまま火の玉を投げつけ爆ぜさせる
「アッツアツアチャチャ…」

「やーやっぱ強えっすねぇ貴公子様は」
「まだだ、君は何かをまだ隠してる。だから最低でも両腕へし折るまで僕は油断しない」
「容赦ねぇ…慢心してくれりゃ楽なのに」

2人の動きが止まる
風の音だけが孤独に流れ
汗も砂塵も虫も実況も彼らの耳には届いていない

刃が重なり、火花が散る

お互い1歩も退かぬ戦いを繰り広げる
武器を弾かれようが体術で応戦し押されれば極みを駆使し打開を目指す
2人の思考は勝利するということで染まりきっているだろう
刃が砕け散る

「やっべ」
ラスクの槍の全体が爆ぜラスクは主な攻撃手段を失っい更に追撃を受け尻もちをつく
「とどめ…!!」
バァムがダガーを構えた瞬間、大きな影がバァムを包む
バァムの背後にはあの巨大な怪鳥がたたずんでいる
「まだ生きて…!」
怪鳥は死んでいた。ただたたずんでいるだけだった。
しかしその一瞬、ラスクから目を離した一瞬が
バァムの勝敗を分けた

「水の極み"天蒸水舞"…蒸大苦猛じょうおおぐも・紅!!!」
極みで生み出した水に自身の血液を混ぜ一気に蒸発させ生まれた蒸気、それを推進力とし体ごと拳をバァムに叩き込んだ
バァムは背後の怪鳥ごと吹き飛ばされても、なんとか再び立つが一歩、2歩進んだところで倒れてしまった

ラスクはふらつきながらも歩く、一歩一歩しっかりと進みトロフィーを掴み。そして高く掲げた

『……っっっつ!!!終!!!!了〜〜!!!!!今大会優勝者はぁ!!!!激しい戦いを制し!乗り越え!勝利を手に収めた者の名はぁ!!!!!!!!ラスクだぁぁぁぁぁぁあ!!!!!』

歓声が響く、巨大怪鳥の鳴き声よりも大きな歓声が里全体に響き渡る
倒れそうになるラスクをバァムが支える
「…やれる事は全部やった、使えるものは全部使ったし小細工もしてそして負けた。……優勝おめでとう」
「………あざっす!」
するとラスクは電池の切れた人形のように眠ってしまった



その後医療席で目を覚ましたラスクはあくびもする間もなくティラミとカロンに押され里長のいる壇上へ無理やり立たされる。ウイロやバァム、大会に出場した戦士達もそこにいた
「はは、ラスクよ優勝おめでとう。体の方は大丈夫か」
「…まだ寝たいっすね正直」
「まぁそう言うでない、これが終わったら好きなだけ寝るが良い。」
里長は無数の武具をラスクの前に並べる
「優勝賞品じゃ、どれでもひとで好きな物を選び、名をつけよ。それでこの大会は閉幕とする」
「そんじゃこれで」
ラスクは全ての武具を見る前に少し奥に置いてあった槍を手に取る
「それで名はどうする」
「名前…名前……うーーん…」
しばしの沈黙のあとラスクは口を開いた
「アメンボで」

・・・
ドッ!!!っと周囲から笑いが起きる
「アメンボ??いやwそりゃないべww」「えぇ……」
「ダッセー…」「さすがのセンスですなぁ感動でw涙出るわwホwンwマww」
ラスクと里長以外は笑い転げたり困惑したりと様々な反応を見せている
「え、えぇ?なんか変すか??」
「いやいや、良い。良いぞラスクよ、良い名じゃ…では、これにて戦士大会を閉幕とする!!」
その言葉の後、戦士たちは各々家へと帰っていく

「疲れたっすねー…」
「べなー」「なー」
ラスクはティラミ、ウイロと寝そべってダラケている
「ちょっと失礼」
そこへバァムが座る
「ねぇラスク、最後の怪鳥…どうやって動かしたんだ?アレは君がやったんだろ?」
「え…あぁアレは…槍がぶっ壊れた時に急ごしらえで作った策なんすよ」
「というと?」
「いやダガー相手に素手で勝てる技術は無いんで、ほらあのー水の刃を蒸発させられた時の蒸気。アレを水に変えて、なんとか怪鳥引きずったんすよ。本当はのしかからせようかなと思ったんすけど結構硬直進んでたんであの結果になったんす」
なるほどなーという顔でバァムはラスクを見つめる
「すごいな…あの場面じゃ何もできないかと…」
「運が良かっただけっすよ、怪鳥が来なくてルールがそのままだったら負けてた」
「オラァラスク!てめぇ!」
カロンがラスクに後ろから飛びつく
「ホントに優勝しやがって…だが!来年は俺が勝つからな!覚悟してろ!!」
と宣戦布告する
「いーんや次勝つのはオラだべ」
「いや僕だ(ウチや)」
と各々が意気込んでいる中ラスクは気まずそうに手を上げて衝撃の言葉を放つ
「えと……俺、半年後にはここ出る予定…なん……すけど……」
4人の顔が固まり一斉にラスクに言う
「「「「勝ち逃げする気かぁ!?!?」」」」
そしてそれぞれにまくしたてられラスクはとても申し訳なさそうな顔で謝り続ける
「いや…ごめん、ごめんす…ホントに……言うタイミングずっと逃してて……いや、はい俺が悪かったっす」
そしてこう提案する

「〜〜〜っじゃあ!5年後!!5年後戻ってくるんで!そん時決着つけよう!うん!それがいい!」
4人は顔を見合せため息をつくと諦めたように言う
「じゃあそうすんべ」「どーせ止めても里出るやろしなぁ」「絶対だぞ!絶対戻ってこいよお前ぇ!!」「強くなって待ってるからね」
「…うっす!!!」

5人で約束を交わしジンチョウゲ最大の祭りは幕を閉じたとさ


おしまい

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