ある町の出来事

ここはとある町、治安があまり良いとは言えないが日常的に悪事が起きるのかと聞かれればそうでは無い、なんの変哲もない少し治安の悪い町。
そんな町には、なんというか、当たり前というか、荒れた輩も存在する。

そんな輩が今日も金を奪おうと胸ぐらを掴む。
胸ぐらを掴まれているのは首元にマフラー…とはいえぬボロボロの布を巻き付け、顔を鬼かトカゲか、あるいは御伽噺の龍のような模様が施された紙のような仮面で隠した小柄な、不思議な雰囲気の男性。
その男性がギラギラとしていながら汚い金髪の輩にお前がぶつかって来て怪我をした、金を出せ。と脅されている。面倒なのか、勇気がないのか、あるいは自分に矛先が向くのを恐れているのか。多くの人が野次馬となっているが当然、男性を助ける者はいない。
すると男性が口を開いた。
「すまない、急いでいたし我は目が見えぬのだ。どうかそこをどいてくれないだろうか」
男性は輩に優しく問いかける。輩は機嫌を悪くしたのか、男性を殴る。男性は胸ぐらを掴まれているので、派手に吹き飛ぶことは無かったがそれでもその鈍い音と男性の殴られた時の頭の揺れから、相当な威力である事が分かる。だが男性は続ける
「…気は済んだろうか、気が済んだなら手を離し、道を開けて欲しい」
輩は男性を路地裏へ投げ飛ばす。
ここで1つ訂正を入れておこう。先程男性を小柄としたが、あれは誤りであった。男性の身長はおそらく170はある、では何故小柄だと思ったのか、輩がデカすぎるのだ。輩の体躯は確実に2mを超えている。故に男性が小柄に見えたのだ。
投げ飛ばされた男性はほんの少し、毛ほどの怒気を込めて口を開く
「道を、開けてくれ」
輩は眉間に皺を寄せるがすぐに戻しこう言う
「いいぜ、但し…」
少し間を開けて輩は言う
「俺を殺せたらな」
そう言うと輩の姿は消える、その場にいる誰もが輩の姿を認識出来なくなった。
だが、次の瞬間。1秒も経たぬ正に刹那、その場にいる全員…いや男性以外が輩を視認する。

輩は、地面で寝転がっている。
赤い液体が辺りに飛び散り、白い骨が背中から露出し、目は虚ろになっておりその瞳には何も映っていないだろう。
男性は、輩の体と血を避けて道に出ようとする。
すると1人の男…輩の後ろでニヤついていた男にまたしても掴みかかられる。
「テメェ兄貴に何しやがった!!」
声を荒らげて叫ぶ
それに男性はこう答える
「何も分からん、なぜなら我はこの手を振り解けぬ程に貧弱で、盲目の弱者なのですから」
その通りだ。仮にもし男性が輩を殺したとして、どうやって殺したというのか。その場の野次馬は全員見ていた、輩が殺してみろと言った瞬間消えたのを、そしてその時男性はピクリとも、いや動いたとしてもほんの1歩程しか動いていなかったのを。
「そろそろ離してくれないか?我はいかねばならん。それにまだ生きてるやもしれんぞ、お前の兄貴は」
その言葉を聞き男が咄嗟に輩のいる場所に目をやると、輩の手はほんの少しだが動いている。生きているのだ、奇跡的に。
男はすぐに輩を病院へとおぶっていく。
その時既に男性は、透明にでもなったのか、その場の誰にも見られることなく去っていた。

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