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雨の日に、還る場所

天気予報を見て、雨の予報だとなんだか憂鬱だった。平日にせっかく気力をふり絞って働いたのに、雨の週末が待っていると分かったときはなおさら。思い通りにならない天気を恨みつつ、映画『天気の子』さながら心のなかでひたすらに晴れを祈っている自分がいる。

今年の3月、人生ではじめて伊勢神宮を訪れた。外宮と内宮の二つのエリアに分かれ、さらに周辺には多くの別宮がある。伊勢はまさに神社の街だ。通算13回ほど伊勢神宮を訪れているという"伊勢マスター"の友人にガイドしてもらって、伊勢神宮にゆかりのある場所を2日かけてほぼすべて回った。どこもかしこも「気」がいい。すーっと通る風。太陽の光を吸収して放つ葉をなびかせる新緑の木々。

伊勢神宮の内宮を進んでいくと、大きな橋がある。伊勢マスターによると、「風日祈宮橋」は伊勢神宮のなかでも随一の気の良さを誇る場所だそうだ。その橋を抜けると、「風日祈宮(かぜひのみのみや)」がある。

風と雨を司る神様。級長津彦命(しなつひこのみこと)と級長戸辺命(しなとべのみこと)が祀られている。13世紀にモンゴルが日本に攻めてきた元寇の際、神風を起こして日本を救った功績で、内宮のなかでも比較的大きな区画に別宮を構えているという。

その日、雨は降っていなかったけれど、風日祈宮周辺はほのかに雨の香りがする。ああ、この場所、好きだな。簡素だけど、クリアな声が自分の中から聞こえてきた。お参りをする瞬間は、時が止まっていたかのように自分の中に深く入っていく感覚があった。また戻ってきたい。その場所を去るのが惜しかった。風日祈宮一帯を見守っていた2羽の烏(からす)が、見送るようにこちらを見ていた。

それから、自分でも単純だと思うほど、雨の日が嫌ではなくなった。風日祈宮で過ごした感覚が残っている。魂が還る場所、があるのかどうかは分からないが、こうも鮮明なイメージが残る場所があることは不思議である。だから雨の日は、自分に問いかける日にする。外のレジャーができないのであれば、じっと内にこもる時間を楽しめばいいじゃないか。

Q. あなたの心の故郷はどこだろう?


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