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玖磨問わず語り 第19話 ミンさんの贈り物 その7


ヤムヤムTwitter

わーを見ると「カァー」してくる怒りんぼが、人たらしの夏子なんかぁ。
なんにもしてなくても威嚇してくるんよ。
正直、たまぁにムカッとくることあるわ。
玖磨じぃちゃん、夏子にかぁーされても黙って耐えてたん?

ほいで、不思議なんは、ミンちゃんはだれともケンカしいひん乙女チックアイドルだったやろ?
ほんなのによ、いくらヒトから見て可愛いゆうても、ミンちゃん、なんであんな猫を送ってきたん?
ズズさんもゆうてたなぁ、ミンちゃんと真逆や、って。
ミンちゃん、適当に「いちおう女子」ってことで、間に合わせたんかいな?

ズズさん(奥)とミンさんの白黒コンビ

猫はいらない

そうだすなぁ、オラも夏子さんに思いっきりシャーっとかされると傷つくこともあっただすよ。ときには我慢ならねぇで睨み返すこともあっただすよ。

玖磨ムカつく

どうやら夏子さんは黒っぽい毛色の猫が嫌いなようなんだす。
オラは黒猫なんで当然シャー対象だす。
キジトラだけど全体に黒っぽいわこさんなんかもシャー対象だすな。
夏子さんは桜舎に来るまで、他の猫とは会ったことがなかったので、黒い猫になにかされたとかゆうトラウマがあるとは思えないんだすが……。

まぁ、その原因が分かったところで、シャーが止むとは思えんだすな。
もしオラがブリーチして白猫になっても、たぶんシャーされるだすよ。

ただ、ときどき「ムッ」とすることがあっても、だれも夏子さんに手を出すようなことはなかっただす。

よくよく考えれば、夏子さんだって、これまでのお姫様のような暮らしから、突然オス猫4匹と共同生活させられたわけだすからな。
とはいえ来た当初は、そのうちに態度が軟化するかも、とも考えんこともなかったんだすが、今にいたるまで一向に変わらんだしたなぁ。

しかし、ある意味変わらんちゅうのも強さだすな。
場合によっては変わったほうが生きやすいだろうに、頑固に変わらんちゅうことは余程覚悟がないとできんことだす。
そうする氣力と体力が要るだす。

オラ、夏子さんは真に強いと思うだすよ。
シャーシャーゆうてるわりに、ほとんど病氣知らずだすし。
逆にシャーシャーゆえんかったら、弱かったかもしれんだすな。
「いやー」ちゅうのを表に出せる力があって、うちに貯めんからいいのかもだすな。

ともかくだす、夏子さんがオラたちを見えないものとするように、オラたちも夏子さんになるべく関わらないようにするのが一番いいように思っただすよ。
夏子さんにちょっかいを出さない、知らんぷりしとく、それでずっとうまくやってきただす。
夏子さんは抱き合って温め合うとか、舐めて毛づくろいしたりとかを求めていないだす。そういうことはヒトにやらせればいい、とゆうことだす。

ヒトは下僕よ

夏子の生き方

夏子さんの最大の下僕はナンリさんだす。
「夏子は夏子なりに、最大限頑張ってここでの暮らしに折り合いをつけてきたと思うのよ。そりゃ、顔見るたびシャーフー言われて、みんなもいい氣持ちはしなかったとは思うけど、あの典型的なプライベートキャットがよく何年間も辛抱したわよ。でも年とともに辛抱の限界が見えてきたとき、彼女は聴覚を失うことでプライベート空間を手に入れるという作戦を練ったんだと思う。
ワタシの母親、あの心配症のミョウコウね、彼女が東京から和歌山のネコクス舎に移ったばかりのとき、いろんなことが重なって耳が聞こえなくなったことがあった。もともとが社交的な人だから、誰とも話すことがない状態で精神的に参っちゃったのね。ミョウコウはその後ご近所さんたちと顔見知りになって聴覚も戻ったけど、夏子はたった一人の空間が手に入れば聴覚は必要ないと考えたんじゃないかしら。そして、その通りになった。さっすがなちゅこ、狙ったものは必ずゲットする」

夏子さんは桜舎、ネコクス舎と住む場所は変わっても、基本みんなと同じ空間にいたんだすよ。
でもだんだんと、特にネコクス舎に移ってからは、ナンリさんのパソコン横のバスケットに入っていることが多くなっていったんだす。

きっと夏子さん、このままじゃまずいと思ったんだすな。
あるときから俄然、ナンリさんに対してアピールしだしたんだすよ。

具体的にはナンリさんの目の前で、自分のバスケットにおしっこをする、とかだす。過激すぎて、オラには絶対できそうにないだすよ。
それを見たナンリさんもすぐにピンと来たらしく、
「わかった、なっちゃん、もう我慢できないのね。そういうことなら、母屋に移りましょう。でも日中はワタシはこっちでお仕事するから、母屋でひとりきりよ、いいわね?」
そう言うと、その日のうちに夏子さんは母屋に引っ越したんだす。
その晩からナンリさんは夜母屋で寝るようになったんだす。
「せめて夜くらい、なっちゃんのそばにいてあげたいもの」

そうなっても、オラたちは別段困ることもなかったんだす。

ヒトの言いなりになるのも手玉にとるコツのひとつ。

続く

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