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ひかりの歌の感想(ネタバレあり)

出町座にて舞台挨拶付きで鑑賞。監督の演出方法など凄い興味深い話が多くてとても良かった。

登場人物の背景についてかなり情報が少ないし、一つのエピソードが数十分くらいなのでそこまで深く掘り下げられる事もない。片思いの恋だったり、家族に対してのものだったり、誰かが誰かを思ってる人達を愛おしく描いた映画。

こないだ感想を書いた「美人が婚活してみたら」の様に、何か決定的に関係が崩れてしまう瞬間とか、立ち直れない程に登場人物が傷つく様なシーンはなくて、もっと僕らが日常生活で誰かを思ってる時に静かに感じる、関係性が決定的に決まらない瞬間の美しさみたいなものを大切にしてる映画だった。

短編集にしない優しい作り

光をテーマにした短歌コンテストをネットで開催し、その中から選ばれた4首をタイトルにした4つのストーリーを繋げて長編映画にするという変わった経緯で作られた映画。

僕は完全に4つの短編作品になっている訳ではないのがとても良いなぁと思った。それぞれの話に別の主人公がチラッと登場するんだけど、その時に別のエピソードで重要だった事がサラッと行われてたりする。映画の目線が変わってもそれぞれの話は繋がっていて、彼女たちの人生はずっと続いているとじんわり感動してしまう。

そのほかにも直接繋がっている訳じゃないのに同じ仕草が繰り返されたりするのも面白い。特に僕は第二章で今日子が重要な愛情表現としてやってた「ハグ」が第三章で別の登場人物が行った時に「あっ、、、」って色々腑に落ちると同時に凄く切なくなったり何気ない伏線が実は結構多かった。

締めになる第四章だけちょっと毛色が違う感じがした。他の三章は全部片思いの恋や愛が宙ぶらりんに終わるエピソードなんだけど、第四章だけ色々あっても本来あるべき場所に戻っていく様なラブストーリーになっていて、他のエピソードの主人公たちに「想い想われる事が出来る」と希望を語る様な美しい終わりになっていて、とても構成も上手いなぁと思った。これが最期にくることで、とても優しく映画が終わっていく。

写真集みたいな美しさ

あと撮影が本当素晴らしくて全カット何処を切り取ってもすごく美しい。

なんというか1シーン1シーンバッチリ絵的にキマっていて、どこで止めても一枚の写真としてのカッコよさがあって映画を観てるのに写真集のページをめくっている様な快感を感じた。
僕は写真学生の時、中判フィルムカメラでよく撮っていたのだけど映画を観ていてこういうのを撮れる人に憧れてたなぁ、っていう感覚が蘇ってきた。

日常描写の切り取り方が映画を撮りやすい様に小道具などを取り揃えて撮っている感じがあまりしなくて、どちらかというとその場所にあるものを出来るだけそのままに1番美しく撮れる構図を考え抜いてる気がした。その場所にある雰囲気を都合よく捻じ曲げない様に気をつけてる感じ。

人物に対するアプローチが何を考えてるのか明確に説明されず、こちらも深追いして登場人物の事を考える事が出来ない感じとかも、写真集で知らない人のポートレイト集を見てる時の距離感に近い気がした。かなり強引な気もするけど、僕は映画を観てるという感覚と同時に写真集見てる時の脳みそも動かしながら観てた。

あと卒業制作写真を北海道まで中判カメラとデカい三脚を持って撮りに行ったりしてたので、父が撮った写真を手掛かりに色んな所に行く、第三章の雪子のパートでその時の記憶をちょっと刺激されたのもある。

現実と地続きな日常描写

あと4つの話が繋がっている事で、それぞれの苦悩に対して「一人じゃない」と言ってくれてる様に連なってる気がした。
それを僕らの世界とも地続きに感じる様な自然な日常描写として切り取る事で映画を観てるこちらにも「あなたは一人じゃない」と言ってくれている様で本当に優しい映画だなぁと思う。

アベンジャーズエンド・ゲームみたいな濃口で山盛りな映画を追いかけるのも大事だけど、こういう映画も見逃しちゃいけないな、、、と改めて。

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