見出し画像

アメリカン・アニマルズの感想(ネタバレあり)

今回は「アメリカン・アニマルズ」のネタバレもありますが比較の為「美人が婚活してみたら」のラストにも触れています。そちらのネタバレを踏みたくない方もご注意下さい。


MOVIX京都で鑑賞。まあまあ混んでた。
ドリンクの買う度に無料鑑賞券を狙ってQRコードを出すけど今日も全然当たらない。

実録犯罪映画という情報しか入れてなかったのと、ポスターのおしゃれな感じとかもあって軽快な映画なのかな?と思いきや、かなりドスンと胸に来る青春映画だった。

というか数年前位まで自分の中にもあった欲求や弱さを見せつけられる様でキツかったし、それでも最終的に何もないかも知れない自分と折り合いをつけて生きていくしかないという当たり前の結論に至る所で自分でもビックリする位ぼろぼろと涙が止まらなかった。

物語としての面白さとドキュメンタリーのバランス

もう既に最大の事件は終わっていて、現在の登場人物から過去を振り返る形で物語が進んでいく形式の映画で、最近だとアイ・トーニャを思い出すんだけど、この作品が一味違うのは現在パートを語っているのが事件を起こした本人達が実際に出演してる所。これには本当にビックリした。

監督がドキュメンタリー出身らしいけど、ここまでフィクションとドキュメントを融合させるような手法は初めて観た。特にエヴァン・ピーターズ演じるウォーレンと現実のウォーレン本人が一緒の画面に映り「これで合ってる?」って回想の確認をする場面とか観ててクラクラする。

それとラスト本人達がインタビューが終わり立ち上がって現在の生活に戻っていくカットが、現実から地続きでフワッと飛躍していく様な素晴らしい演出で涙が出てきた。

ここで全員が小説や映画製作やアーティストになって何かを生み出す仕事を目指しているのが救いになっている気がする。
特に主人公がモザイクアートで「フラミンゴ」をモチーフにした作品を製作していた所にグッとくる。
自分にないものを求めて奪おうとしたフラミンゴという象徴を彼が自分なりに作り上げているのを優しく切り取ったラストシーンにまた泣いた。

人生「やる」か「やらないか」で「やる」を選んだ人達の話

「何か分からないけど何かが起こりさえすれば俺は変われる」というスペンサーの言葉。
自分自身でも何を求めているか分からないんだから当然何もやってきてないんだけど、「何かきっかけが欲しい!」というセンサーだけが過敏になっているタイミングにあの画集に出会ってしまった事で歯車が狂っていく。
ただあの絵の凄さを感じ取れたのは本人がちゃんと絵を描く事を愛してる証拠でもある気がして、転がり方が違ってたらもっと良い形で彼の人生に力を与えたかも知れないとか考えてしまった。

彼らの行動は愚かで間違いだらけなのだけど、それでも「このままじゃ俺は駄目になってしまう」という意味の分からない焦りは痛い程伝わってきた。

スペンサーがウォーレンに計画前日にやめたいと伝えに行く所で、ウォーレンの「10年後にあの時やれば良かったと思いたくない!」って言う切実な想いが苦しくて、ぼろぼろ泣いた。
行動自体は間違っていても、芯にある想いには共感してしまうので最初から最後まで彼等の事を嫌いになれない。

普段よく観てる映画(特にロッキーなどのアメリカンドリームモノ)などのフィクションに対する憧れから行動を起こしてしまった面もあるので、映画好き的には心の底から彼らの事を笑ったり出来ないんじゃないだろか。
途中に「だったらいいな」的に入る明らかに「オーシャンズ」シリーズを意識した華麗な強盗シーンが意地悪。
「10年後に後悔したくない!」もよく考えたら映画とかでよくありそうなセリフを言ってるだけな気もして、「あぁあ、、、ウォーレン、、、」って気持ちにもなる。

尋常じゃない緊張感の強奪シーン

計画実行場面の目も当てられないドタバタ演出が映画としてめちゃくちゃ上手くてウォーレン同様、吐きたくなる位お腹痛くなった。

ここで1番凄いのはこれまで色んな映画で腐る程観てきた「誰かが誰かに暴力を振るう」という事の怖さをこれでもかと伝えてくる所。

スタンガンで気絶させるという普通の映画で観たらヌルい暴力が本当に恐ろしくて、肉体的なダメージより被害者側と加害者側お互いに「これからどうなってしまうのか?」か分からない精神面の恐怖をこそ強調してくるような演出が怖すぎた。なんていうか「暴力は本当良くないんだなぁ、、、」という当たり前の感想しか出ないシーン。

「気づき」が救いで終わるエンディング

冒頭の「自分がどういう人間か?」という質問に答えられないスペンサー。
こういう「自分はまだ何者でもない」焦りは大小あれど誰しもが抱えている葛藤だと思うけど、この映画の登場人物はそういうものに縛られておかしくなっていく。
僕は学生の時はもちろん、就職した時も、転職した時も毎度自我の無さを感じる事が多いし彼ほど深刻には考えられてないけど、めちゃくちゃ共感してしまう、、、
彼らの地獄めぐりを観ていて他人事と思えず、どんどん辛くなってくるのは、「起こったかも知れないあの時の自分の姿」を観る様な気持ちになってくるからだと思った。

でも最後に「自分の空っぽさに気付ける」という事はそれだけで価値があるんじゃないかと最近色んな映画を観ていて思う。
例えばこの前観た「美人が婚活してみたら」も迷惑度に関しては今作の非じゃない程小さいとは思うけど、周りを巻き込み自分自身を深く傷つけ、それでも「自分が自分が思ってる程の存在じゃない」ということに「気づく」事が主人公への光になって終わっていた。

僕は何かが劇的に解決する様なラストより、こういう展開の方がより胸に刺さりやすい気がする。(もちろん作品のトーンにもよるけど)


というわけで、ニュースで見たら何やってんだよ!としか思えないアメリカの学生の話にこんなにも心を揺さぶられるとは、、、1日1回上映でスルーしそうになってたけど、無理してでも観て本当に良かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?