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【小説】蝶はちいさきかぜをうむ その14


お機械さまの草原の上におおきな光の花が咲きました。
青空の真ん中に虹色に輝く花はお日様の光を浴びてキラキラとゆらめいています。

「…なんて、美しいの…。」

あまりの美しさに少女は息をのみました。

「あんなにも美しいものに、いままで気がつかなかったとは…。どうやら私も目の前のことにばかり気を取られていたようだ。」

街長も、その一瞬の美しさに呆気に取られています。



ひゅぅぅーーーーーー


森の木々の枝と遊んでいた風が、ハッとしたように光の花を見てうずうずと駆け出して行きました。
風たちはすり抜けざまに少女の髪の毛をひゅおっと巻き上げて楽しそうにお機械さま目指して走り出します。




「か、ぜ、が、、、、く、る、、、ぞ、おーーーー!」



遠くから風飼いの少年が叫ぶ声がします。

見ると、お機械さまの草原から少年が風に乗って戻ってきています。



「お機械さま、動かせたのね!」


「もっちろん!こっちの準備はどう?もうすぐ、大きな風が来るよ!」


「こっちも準備万端だよ。風ソリも完成してる。
さあ、間欠泉を避けるルートを確認してくれ!

まず、風に乗ったら、右だ。そして、右前方に間欠泉が上がるのが見えたら、すぐ左へ。
左の遠くに間欠泉が上がるのが見えたら3つ数えてから、右だ。

右、左、いち、にぃ、さん、右だよ。」

「右、左、いち、にぃ、さん、右、ね。」

「みぎ、ひだり、いち、にぃ、さん、みぎ!」


みんなで声を合わせて、いざ出発です。


ベンチにおばあさんと少女が乗り込みます。
右側の操縦縄を少女が握り、左側の操縦縄をおばあさんが握りしめます。
はしゃぎながら転がるように草原を駆け抜けていく風たちが風ソリの翼や街長たちの髪の毛をバサバサとはためかせます。


「いくぞっっっ! ふぅぬむむむっ うぉー!」


街長が風ソリを崖に向かって押しながら走ります。少年はその後ろから風ソリの翼を持ち上げて走りながらついていきます。
洗い屋の少女が洗ったソリ板はつるつるするすると草原を滑り、どんどんスピードが上がります。
だんだんと風を受けた翼が持ち上がっていきます。



「いっっっっっけぇぇぇぇぇ!」



ばびゅんっ

ぶぉわっ



勢いよく崖に飛び出した風ソリはお機械さまに向かって吹く風の気流を捉え、翼を大きく広げました。


「よっぉし!あとは、頼んだよ!それから、また是非この街に来てくれたまえね。君に頼みたいことがあるんだ。」

街長が見守る中、少年はぶんっと頷いて風に乗りふたりのあとを追いかけました。



「おばあちゃんっ!まずはこっちよ!」

少女は手をぎゅっと握ったり開いたりしておばあさんに合図を送り、自分の持っている操縦縄をぐいっと引っ張りました。


風ソリはガクッと傾き、右側へ急旋回しました。
少女は慌てて少し縄を緩め、なんとか翼を安定させました。

「よ、よしっ!うまくいったわ!」


「だ、だいじょうぶか?!ま、まあ、いいぞ!つぎは、ひだりだな!」


風に乗ってきた少年も追いついてきました。



ど どぉーーーーん  ぶわぁあぁぁっ


右前方で間欠泉が噴き上がりました。
熱気を帯びた風が頬まで届きます。


「おばあちゃんっ!いまよ!」

少女がおばあさんに指を挿して縄を引くジェスチャーをして合図を送ります。
おばあさんはこっくんと頷いて操縦縄をぎゅぅぅっと引っ張ります。


風ソリは少しずつ左へ傾き、きゅぅーーんと弧を描いてゆっくりと左へ旋回しました。


「さすが。おばあちゃん、やっぱり気球商団の人だっただけあるわ。」


「よし!よし!いいぞ。その調子だ!次は、タイミングを間違えるなよー!」

療養所の奥の草原では街長がまるで自分が操縦しているかのように握った両手を上下させながら見守っています。


「つぎは、いち、に、さん、で右ね!」


少女は左側の遠くに目を光らせます。


どーーーーーん  ぶわぁぁぁ


「来たわ!」
「いまだ!」

「いち、に、さん!」
「いち、にぃ、さん!」



少女は操縦縄をぎゅうっと引っ張りました。
「ああっ!は、早すぎる!」


風ソリはきゅぅーーーんと右へ旋回していきます。



どぉっ   ぶばばばばばば  
どごーーーーーーん


「きゃああああああああああああっっっ!」



少しだけ、ほんの少しだけ早く右側に旋回してしまった風ソリは、その後方で上がった間欠泉を避けきれず、大きな風を受けてしまいました。







作 なんてね
  ちょっぴりあんこぼーろ

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