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【小説】鳴らない着信音
♩〜
バッグの中に突っ込んだままのスマホから、何やらメロディが流れている。私は少しだけ躊躇って、それからスマホを取り出し画面を見た。
予想通り、そこに表示されていたのは見知った名前。つい数週間前まで「恋人」だった男の名前だ。
――今さら何の用よ。
知らず知らずのうちに眉間に皺が寄るのを感じながら、画面に表示された緑と赤のアイコンのうち、赤い方をタップする。途端、「着信中…」の表示は消えて、
ずっと一緒にいようとキミは言った
「ずっと一緒だよ」
いまもキミのそんな言葉が耳に残っている。あれはそう。ボクとキミが入籍する、朝のことだった。
ボクたちは結婚式をしなかった。理由は簡単。お金がなかったからだ。
「アナタと一緒にいられれば、それだけで幸せ」
満開の桜のように微笑んだキミ。それから、ちゅっと軽い音をたてて頬にキスをくれたね。
こんなにも甘ったるく、まぶしく、あたたかい。これをきっと、人は幸せと呼ぶのだと、素
ありきたりな日常のなかで
「それ、楽しいの?」
わたしの耳にはまっていたイヤホンのうち、片方を外して彼が声をかけてくる。ゲームをするときはいつもイヤホンをしているので、用事があるとき彼はこうするのだ。
「楽しいよ」
…とは答えてみたけれど、ホントのところはどうだろう。楽しいとか、楽しくないとか。もはやそういうレベルの話じゃない気もしている。
そう。乙女ゲームは、わたしにとって日々の営みの一つだ。趣味という枠をこえて
妻だけど、母だけど、恋をしました。(その4・最終話)
その3はコチラ。
久しぶりにお酒を飲んだせいだろうか。
全身が熱く、ぼうっとする。
そんなほてったてのひらに置かれたタカの手は、ちょっとだけひんやりとしていて。
なんだか気持ちがいい。
(え、えっ?)
こんな状況、もう何年も陥っていない。
どう反応したらいいのかわからないし、もしかしたら夢なんじゃないの?
彼の手は少しカサついていて、それでいて男の人らしく、ゴツゴツと骨ばっている。