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《前編》アルマーニ/シーロスにて開催、建築家・安藤忠雄の軌跡をたどる特別展: "Tadao Ando. The Challenge" in Almani/ Silos


2019年4月9日から7月28日までの期間限定で、ミラノに位置するジョルジオ・アルマーニによる文化複合施設「アルマーニ/シーロス」(Armani/ Silos)にて、世界的な日本人建築家・安藤忠雄にフォーカスした特別展が開催されている。

これまでも、写真家のサラ・ムーン(Sarah Moon; 1941-)パオロ・ヴェントゥーラ(Paolo Ventura; 1968-)などの特別展は行われてきたものの、「建築」にフォーカスした特別展は初めてとのことである。

そのテーマ名は、「Tadao Ando. The Challenge」(安藤忠雄展−挑戦−)

世界的に有名な建築家・安藤忠雄は、1941年大阪生まれ。

1995年、プリツカー賞(Pritzker Prize)受賞、2002年、ローマ大学ラ・サピエンツァ(La Sapienza)建築学部より、名誉学士(Laurea honoris causa)授与など、国際的な賞を数多く受賞し、日本の伝統と現代建築を調和させた個性的なスタイルを確立した。

イタリア人ファッションデザイナーのジョルジオ・アルマーニと日本人建築家・安藤忠雄

この2人の天才の邂逅は、2001年にさかのぼる。

もとより、本質を追求したシンプルな安藤忠雄の美学に惚れ込んでいたアルマーニは、ファッションショーのための多目的空間の設計を安藤に依頼。

2001年、アルマーニのミラノ本社の一部としてベルゴニョーネ通り(Via Bergognone 59)にアルマーニ/ テアトロ(Armani/ Teatro)が完成した。

この建物は、「グリッド」を基本とした安藤の感性とグレーを基調としたアルマーニの美学の結集である。

(後述するがこのアルマーニ/ テアトロの模型は、今回ミラノで初公開されたもの)

以降、ジョルジオ・アルマーニと安藤忠雄の親交が深まっていくことになる。

お互いをアーティストとして認める2人の親交はもちろん今も続いており、つい先日、2019年5月24日に東京博物館で行われたアルマーニのクルーズコレクション2020の場に、安藤忠雄の姿もあった。



今回の特別展「Tadao Ando. The Challenge」は、安藤忠雄、安藤忠雄建築研究所、Centre Pompidou(ポンピドゥ・センター)が共同で企画しており、2017年に東京・国立新美術館で、2018年にパリのポンピドゥ・センターでそれぞれ開催された展示がミラノにやってきた形になる。

アルマーニと安藤忠雄の関係を考えると、来るべきしてミラノに来たというか...

アルマーニは、安藤忠雄の建築について、次のように述べている。

「安藤忠雄の建築には、金属やセメントのような重い素材を詩的で心を沸き立たせるような何かに変える特別な力がある。空間の特色を構築する上で根本的な要素である、光の使い方が好きだ。」(Nell’architettura di Tadao Ando vedo la straordinaria abilità di trasformare materiali pesanti, come il metallo e il cemento, in qualcosa di poetico ed entusiasmante. Mi piace come usa la luce, un elemento fondamentale che contribuisce a definire il carattere degli spazi. – Giorgio Armani)

「私は、伝統的な建築を現代に適応させながら、シンプルなものを文化的なものに変える彼の能力を尊敬している。それは、まさに私がファッションで行おうとしている。(中略)初めて私たちが会った時、私は彼になるべくシンプルなものを、でも価値は失わないでということを頼んだが、彼はそれをやってのけた。始めた会った時から、鉄筋コンクリート使いとしての彼の伝説は、私を魅了しており、今日もそれは、私を感銘させるような建築を彼が考える上での方針となっている。」(Ammiro lo sua grande capacità di mutare ciò che è semplice in un figerimento culturare, adattando l'architettura tradizionale al presente. è quello che anch'io cerco di fare con la moda [...]. Quando incontrai Tadao Ando per la prima volta, gli chiesi di creare qualcosa che fosse il più semplice possibile, me dal valore duraturo. E così è stato. E se all'inizio della nostra conoscenza, ad affascinarmi fu il suo leggendario del cemento armato, oggi è il suo ragionamento sull'architettura a farmi riflettere.)


本展は、「空間の原型」(Forme primitive dello spazio)、「都市への挑戦」(Una sfida urbana)、「風景の創造」(Genesi del paesaggio)、「歴史との対話」(Dialoghi con la storia)というメインテーマに分けられる。

安藤による50以上のプロジェクトをもとに、スケッチ画、建築模型、映像資料、旅の手記、安藤自身の写真などの展示によって、建築家・安藤忠雄の軌跡をたどる展示となっている。

まず、4つのメインテーマに入る前に、本展の序章というべきブースがある。

ここでは、建築家・安藤忠雄という人間を知ることができる初期の作品やスケッチ、写真がメインに展示されている。

こちらは、安藤の拠点でもある大阪事務所「大淀のアトリエ」(Atelier in Oyodo II; Osaka, Japan. 1989-91)の模型。


5層吹き抜けの建物となっている。

次に、安藤忠雄の世界旅行をたどる展示。

安藤が旅行中に描いたスケッチは、どれも鮮やかな色彩である。



この世界中の建築を見て回った体験が、後の彼の感性を作ることとなる。

安藤忠雄が1973年から2014年にかけて撮った写真。

また絵も。

こちらは、神戸にある4m×4mの家(4×4 House; Kobe, Hyogo, Japan; 2001-03)の模型。

最上階にある部屋の縦、横、高さがそれぞれ4mになっているという造りである。


そして、最初のメインテーマ「空間の原型」(Forme primitive dello spazio/ Primitive Shapes of Space)。

安藤忠雄によると、極めてシンプルな滑らかなコンクリートの壁が光によって息づき、見る者を空虚な気持ちにさせるという。

そのような空間こそが、建築という物理的で感覚的な経験を身体に宿すのである。

安藤の初期の代表的作品である「住吉の長屋」(Raw House; Azumo House in Sumiyoshi, 1976)から、「間」を体現する上で重要な光と水を使った1990年代のプロジェクトまでがここでは展示さている。

まず、「住吉の長屋」(Raw House; Azumo House in Sumiyoshi, Osaka, Japan, 1976)。



大阪の住宅がひしめく下町に、解体費を含めわずか1000万円という予算で建てられたコンパクトな建築物である。

この長屋を作るための街の資料や手書きの地図など、徹底的に街の構造を理解した上で作られていることが分かる。


次にこちらは「コシノ邸」(Koshino House; Ahiya, Hyogo, Japan, 1979-81, 83-84)。

あのコシノ三姉妹で有名な長女コシノヒロコ氏がアトリエとして安藤に依頼した作品である。

偶然にも、著者は2018年8月に福井県鯖江市で行われたコシノヒロコ氏の講演を拝聴していた。

そこでコシノヒロコ氏は、この芦屋の建築について言及しており、

「日本の自然を感じながら日本人の感性を生かして創作活動をするためのアトリエが必要だった。そこで安藤忠雄に依頼したのだけど、山奥に建てたことで、住むには不便だった。」

と、お互いの親交もあってか、辛口に、しかし明るくコシノ邸について語ったコシノヒロコ氏であった。

しかしながら、彼女ののびやかな絵画や書道を見ると、ファッションという本業を離れ、女の望む創作活動を行う場として、確かにこのアトリエは機能していたに違いない。

なおこちらは、現在もKHギャラリー芦屋として公開され、コシノヒロコ作品を鑑賞することができる。

こちらは、城戸崎邸(Kidosaki House; Tokyo, Japan, 1982-86)。

世田谷にある3組の夫婦のための3世帯住宅である。

それぞれの夫婦がプライベートのスペースを守りながら、結びつきを感じることができるような配慮がなされている。


またこちらは、竹中工務店と安藤忠雄が共同で作ったマンション「六甲ハウジング(パラマウント六甲)」(Rokko Housing I, 1978-83/ II, 1985-93/ III, 1992-99, Kobe, Hyogo, Japan)。



坂の多い街、六甲の特性を活かした造りとなっている。


中からは、大阪湾や神戸の町並みをのぞむことができる。

3期に分けて建設されたこちらの集合住宅は、今も入居可能らしい。


そして「光の教会」(Church of Light; Ibaraki, Osaka, Japan, 1987-89)。

こちらの正式名称は、日本キリスト教団 茨木春日丘教会であるが、前方に十字架を置くという教会の常識を打ち破って、コンクリートの壁を4つに分けることで、光で十字架を表している。

コンクリートのシンプルな建物であるが、中には木の椅子とパイプオルガンと基本的な教会の機能は失っていない。

★参考:Casa Brutus「〈光の教会〉の「光」は、なぜ美しいのか。」(2017年11月11日付記事)


こちらは、「水の教会」(Church on the  Water; Simukappu, Hokkaido, Japan, 1985-88)。


北海道の星野リゾート内にあるチャペルである。

十字架は、水深15cmの水の真ん中にあることから、人間が脚を踏み入れることができない神聖な場所を表現しているという。

続いて、「水の寺(本福寺 水御堂)」(Water Temple, Awaji, Hyogo, Japan, 1989-91)。

真言宗御室派の別格本山である本福寺は、平安時代後期に創建された歴史あるお寺。

その中にある本堂「水御堂」(みずみどう)の設計を安藤が担当し、鉄筋クリートの楕円形の蓮が浮かぶ池の下に本堂がある。


お寺が続くが、「光明寺」(Komyo-ji Temple; Saijo, Ehime, Japan, 1998-2000)。

光明寺の再建プロジェクトとして建てられたこの建築物。

構内には湧き水があり、木の素材との組み合わせがとても美しい仕上がりとなっている。


1つ目のメインテーマの最後に、「渋谷プロジェクト」(Shibuya Project, first project, unbuilt Shibuya, Tokyo, Japan, 1985)。

こちらは実現されなかったプロジェクトであるが、迷宮のように地下に向かって空間が作られている。まるでアリの巣さながらである。


ここまででかなりの写真の分量となってしまったため、《後編》で残る3つのテーマの展示を紹介したい。


★参考:Vogue Japan(2019年3月25日付記事)

    Casa BRUTUS(2019年4月22日付記事)

    architetti.com(2019年4月10日付記事)

    io.donna(2019年4月11日付記事)

    


Armani/ Silos

住所:  Via Bergognone, 40 Milan, Italy

開館時間:木、土:11:00 – 21:00(木曜・土曜)、11:00-19:00(水金日曜)、月曜火曜休館

公式サイト:armanisilos.com(日本語対応ページあり)

公式fecebook: armanisilos


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