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文章修行は終わらない

書庫の整理をしていたら、かつての仕事が掲載された古い雑誌がいっぱい出てきた。

なかには、読者として大好きで、同時にライターとして憧れの仕事先だった雑誌もあった。
作り手にまわってみると、憧れが強かったぶん、自分の文章に自信が持てなくてずいぶん悩んだ思い出もあるが、久しぶりに開いて自分が書いた記事が目に入った瞬間、あまりのはずかしさに「ギャッ」と叫びながら反射的に本を閉じた。

その猛烈なはずかしさは、照れではない。過去の自分のもがく姿を見たくないという苦い気持ちだ。迷いながらも、その雑誌たちはごっそり処分した。手がけたページを切り取ってスクラップするなんてことは、もちろんしない。

ファッションページを担当することが多かった20代と30代のころ、ページの主役である写真に合わせて、服やコーディネートの特徴を伝えるコンパクトな文字数のキャプション原稿をたくさんたくさん書いていた。
そのとき、各雑誌の読者層に合わせて、文章に独特のカジュアルなノリを出したり、カタカナのファッション用語をふんだんに取り入れたりして文章を書き分ける必要があったのだが、文章を書くことが好きというのとは別に、このファッションのキャプション書きには苦手意識をもっていた。
たった100文字程度のキャプションをウンウン唸りながらなんとか書いて、先輩や編集担当者に読んでもらうときもどこかはずかしく、OKをもらっても達成感はなかった。

そんな日々から20年近くも経っていれば、そうした原稿もよい思い出として笑いながら読めるかと思ったら、とんでもない。たった100文字を最後まで読み通すことができないほど、むしろはずかしさは増していた。

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暮らし・仕事・おしゃれ・健康を題材としたエッセイ(平均2000字)が28本入っています。

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