福島民報サロン8/6掲載

「コメディアン村本大輔」

ウーマンラッシュアワー村本大輔の一線を越える独演会を初めて見たのは今年の4月。それまでの彼に対するイメージはテレビで見たことがある売れた芸人さんで、面白くてちょっとかっこいいなぁ、ここ最近はテレビじゃ見ないけど…くらいであった。私はいわきの駅前をはしご酒するのが好きで、4月に仲の良い友人を飲みに誘ったところ、その友人がもともとファンだった村本さんの独演会がいわきであるから行く、と。私は独演会が終わるのを飲みながら待ってるつもりだったのだが、一人酒はさみしいので付いていくことにした。これがすごかった。何の気なしにノーガードで行ったものだから衝撃の嵐を浴びまくった。論理的に避けられているタブーを風刺して笑いとして昇華する。ドキッとする言葉が飛んでくるが全部面白い。彼のネタには愛がある。そして内容だけではなく、話術、熱量、頭の回転の速さ、これがプロのお笑い芸人なんだと心底驚き、感心した。その後7月にもいわきで2回目の独演会があり地元の友達を誘って再び行った。独演会のあとに、彼女が「すごく笑った!笑ったんだけど涙が流れた」と。これは笑い過ぎて出た涙ではなく、心の奥にある絶対に表には出せない感情に触れたのだと思った。双葉郡、福島県の人にはこの感情を持っている人が多いではないかと思う。東日本大震災、原発事故、この日から10年経っても言えないこと、言わない方がいいだろう、出せない感情、それを胸にしまいながら生活することに慣れている。かく言う私もそうである。でもそんなことに慣れてしまっていいのだろうか。次世代の子供達にもそうさせるのか、どんな未来のバトンを渡すべきなのか。私にはなんの正解も分からないけど、誰もが言いたい意見を言えて、気持ちを吐き出しても批判されることなく「あなたはそういう意見なんだね」「私はこう思うけどね」そこには空気を読んだり、誰かに気を遣う必要もなく、声を出す権利をそれぞれ認め合う世界で、日本で、福島で、双葉郡で、楢葉町であって欲しい。7月の独演会後に村本さんとみんなで一緒に飲む機会があった。結局夜中3時くらいまでいたが、彼は色んな人の話に耳を傾け続けてた。不思議だったのは、みんな村本さんに心の内を話すことだった。うんうん、と聞いてるだけなのに話す話す。夜とお酒の力もあるかもしれないけど、酔っぱらいながらも鮮明に覚えている。村本さんはビザが下り次第アメリカへ行くことが決まっているので、もう会うことはないんだろうなと思っていたら、ひょんなことから8月16日(水)に楢葉町で村本さんの独演会を主催することになった。たくさんの人に見て欲しいと思いつつも、彼のネタを知ってる分、双葉郡で開催することが非常に怖い。でもこの独演会を見て大笑いして、笑い終わった後に心に何か残るような体験を是非みんなにもして欲しい。声を出して笑ったり、手をたたいて笑ったり、大きくうなずいたり、時には真剣な眼差しになったり、ただマイク一本で話しているコメディアンにどんどん引き込まれる。真夏の夜のひんやりとした熱いエンターテインメントを。


楢葉町上繁岡 おかしなお菓子屋さんLiebe 代表

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