旅人の

旅人の愛の物語

誰かを追いかけるために、
旅を始めた人がいた。

全速力で走り回った。

全力の愛がそこにあったから。

その愛はいつしか終わっていた。
愛し疲れたのか、
愛するものに会えなくなったからか、
分からない。

それが本当に終わったかどうかも、
分からない。

愛のために走り回っていた時、
旅人は周りが見えていなかった。

今、自分がどこにいるのかも
分からなくなった。
どうしていいのか分からずに、
旅人は今進める
同じ道を歩くことにした。

だが、同じ気持ちで
歩くことはできなかった。
どういう気持ちで歩いていたのか、
覚えていなかった。
そもそも、それが本当に同じ道なのか。
それすらもよく分かっていない。
それが、正しいことなのかも
分からない。

今歩んでいる道を、
ゆっくり歩いている。
どこか見覚えのある道を、
懐かしく、真新しい気持ちで。

一歩一歩を踏みしめている。
この道と、自分自身とで
向き合っている。

何故、旅を始めたのか。
何故、愛するようになったのか。
そもそも、何を愛していたのか。
本当に、愛していたのか。
何処を、愛していたのか。

改めて考えて、考え抜いて。
旅人は愛を思い出した。

しかし、また別に
愛を続けることへの難しさを知った。

見覚えのある道の中で、
全く新しい景色が見えた。

その景色を旅人は、
上手く愛することが出来なかった。

そこに愛を見出せなかった。
見出せるはずなのに、
見つかるはずなのに、
何故か向き合えなかった。

そこに、愛の重さが
違うことを気付いた。
そこで、愛する力量が
違うことに気付いた。

同じように愛を捧げられなかった。

旅に出たことも、
無意識で行っただけで、
実は相当な覚悟が
必要なことも気付いた。

今また改めて旅立てるかと問われると、
自信がないと
答えてしまうかもしれない。

旅人は以前の自分を、恐ろしく感じた。
そして、羨ましく、嫉妬すらした。

この旅人に影響を受け、
また別の旅に出た人がいたことを、
道中に知った。

知らぬ間に、
何人かの人生を変えていた。

今の旅人に、
誰かを変えられる力はあるのだろうか。

今の旅人は、
どこに向かうのだろうか。
何を目指しているのだろうか。

向き合った道が
ぐねぐねと曲がりくねった。
曲がりすぎて、
先がもっと見えなくなった。

それでもと、
旅人は止まることだけはせずに
歩み続けていこうと決めた。

羨んでいるのも、嫉妬しているのも
自分だから。
またその自分になれる時が
必ずくるから。

この旅人は、愛も知ったし、
自分も知った。
彼は、彼のままで大丈夫だ。

以前と同じように愛を、
捧げられるようになる。

旅人はこれからも、旅を続けるだろう。
その顔はきっと、
とても楽しんでいるかのような、
とびきりの笑顔で。









#この物語はノンフィクションです