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ある受刑囚の手記8・再掲


前にも書いた通り、したいとなったら交渉も同意もあったものでなく、すぐ始まるのが受刑者たちの交尾だ。

たまたま目に留まったとか、体臭が気に入ったとか、始めるきっかけなどどうでも良かった。
場所など当然選ばない。
思いがけないところで突然犯されたことも一度や二度ではない。

人間たちからは忘れ去られたような廃屋をのぞいては、まず屋外であることが多い。
道端や公園の片隅などならマシな方だ。
商店街のゴミ置き場にもぐりこんで食餌を物色しているところを襲われたことも少なくない。
こちらはゴミ袋を食い破って頭を突っ込んでいるところだから、背後に注意は向かないし嗅覚もやられてしまうからまずその瞬間まで気付かない。

そんな風に隙をついてくるようなオスの交尾というのは、まず間違いなくどこかひどい。
それでいて下手に拒絶でもすれば激昂させてしまって、生ゴミの山の中に突っ込まれて犯されることになる。
ただでも精液まみれの小便まみれになる上、別の悪臭にまとわりつかれる。

こちらが食餌に集中している間に済ませてくれるなら、マシな方と思わなくてはいけなかった。

場所を選ばないオスということでは、ドムが筆頭だった。
交尾自体はまずまず以上のものがあって、人間のように娯楽としてセックスを楽しむということのない受刑者のメスたちも、彼にだけは損得勘定ぬきで身体を許していた気がする。
前にも書いた、2匹も3匹も立て続けに相手をするオスというのは彼だ。

想像だが、人間だった頃にはその方面のプロだったのじゃないかと思う。
受刑者にしては性欲に淡白だったジーマでも、彼とはしばしばまぐわっていたようだ。

ただ彼は本当にところ構わずだった。
車道を横切ろうとしていたメスに、道の真ん中あたりで追い付いてその場で始めてしまったのを見たことがある。
通行量の少ない時間帯だったのは幸いだった。
何台か通りがかった車のドライバーたちも、さすがに寝覚めが悪いと思ってか、彼らを避けていったようだ。

受刑者を事故死させても法的に責任は問われないが、人間と変わらない体格を持つ生き物をひき殺せば、自動車の方もそれなりの修理が必要になるということもあるだろう。
それでも、年間の受刑者の死因の何割かは交通事故だそうだか。

ドムに限っては、最低限の身の安全より交尾が優先というところがあった。
私も川で水浴びをしていたところ、彼に出くわしてしまったことがある。
それほど深い場所ではなかったものの、彼も私もたらふく水を飲んだ。
そんな中でもしっかり勃起し続けていたぺニスはたいしたものだったと思うが。
猛暑の時期で川の水も生ぬるかったが、あそこに突っ込まれるドムのものの熱はしっかり伝わってきた。

口と言わず鼻と言わず、身体中の穴という穴から川水が入り込んできたし、川底の石やもっとろくでもないものであちこちを傷つけた。
唯一あそこの穴はドムをくわえこまされていて、彼はといえばあくまで一心不乱に腰を打ち付けてくる。
最初のうちこそとても集中など出来なかったが、やがて私も彼のペースに巻き込まれていった。

最後の頃には全身を包み込む生ぬるい川水も、そこら中の切り傷から流れ出る自分の血液も、そしてあそこへ注ぎ込まれるドムの体液も、区別が曖昧になっていたように思う。
ばしゃばしゃと飛沫をはねあげ、むせかえりながらも、私は絶頂の咆哮をあげた。

ことのあとでしびれきった身体を水の流れに浸してうとうとしていて、気がつくと川の真ん中あたりまで漂ってしまっていた。
人間だった頃、水泳はそこそこ得意だったが、受刑者となって4本の足となった四肢は、以前のようには動かない。
犬かきのできそこないみたいにしてなんとか岸にたどりつくまで、かなり時間を要した。

ある受刑囚の手記


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