ボカロ曲と過ごした10年間を振り返る

ソレに出会ってから、もう十年近くが経った。
十年という歳月を「あっという間だった」とは言えない。ずっとソレを見ていたから。
十年前の出会いを「ずいぶん時が過ぎた」とも言えない。ずっとソレに魅せられていたから。

いつの間にか訪れた『十年目』だった。
ただただ曲を漁り、聴き続けた身としては、そういう実感しかない。

とはいうものの、せっかくの十年という節目の年だ。ここはひとつ、まとめをしておこうと思う。

───

これから書くのは、2007年12月のとある日の話だ。僕がソレと出会った日。

初めてその声を聞いたのがこの動画だった。残念ながらこの動画は、もう削除されてしまっているが。
https://www.youtube.com/watch?v=tGYWiBP0naY
そして僕は、ソレが何なのかを知る。

ソレは『初音ミク』と呼ばれていた。

新人アイドルか。その年はちょうど『Perfume』という音楽ユニットが人気を博しだした頃。
しかしながら、その歌声が加工音声だとしても、違和感はあった。
その不思議な歌声に興味が湧いたので、すぐ調べてみた。

分かったことは、『初音ミク』が『VOCALOID』というシンセサイザー・ソフトだということ。

Youtubeで「初音ミク」を検索すると、既にたくさんの動画がアップされていた。
J-POPやアニメソングをカバーしたものから、自作曲まで様々な作品が公開されていた。

普段見ていた動画は、J-POPや洋楽くらいだったので、アニメ系の動画はサジェストされなかったのだろう。

いくつかの動画の説明文から、これらは『ニコニコ動画』というサイトからの転載だとわかった。
面白フラッシュなどを知っていながら、ニコニコ動画というサイトを知らなかった僕。
さっそく会員登録しようとしたが、残念ながら、その頃は新規登録が停止されていた。
募集が再開するまで待つとしよう。

───

ここからは、2008年3月頃からの話だ。ニコニコ動画を見始めた頃。

凄い。大量のボカロ作品がアップされている。

「ぼからん」の首位は、minato(流星P)の『Soar』だったと思う。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2700265

さて、初音ミクに出会った、あの曲を再び聴こう。fatP(Harmonia)の『saturation』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1237688

この曲に出会えて、本当に良かったと思う。
正直な話、初めて出会ったのがこれでなかったら、僕はボカロ曲を聴いてなかったかもしれない。
ボカロ調教の出来、サウンドの出来において玉石混淆も甚だしい場所だった。
ともすると僕はボカロ曲を「大したレベルではない」と思って、興味を失っていただろう。
少なくとも、あの時点においては。

「ぼからん」上位曲にも当然、自分の好きな作品、嫌いな作品はある。
ただ、幾らでも新曲が投稿されるボカロ界隈だ。探せば自分が好きと思える作品はたくさん有るだろう。
そう思って、僕は新曲チェックを始めた。

───

時は進んで、2012年9月頃からの話になる。

ボカロ関係の情報は「初音ミクみく」というブログで得ていたのだが、ある日の記事が目に留まった。

『出た!ネット作品のレビューサイト「DAIM」が公開』
http://vocaloid.blog120.fc2.com/blog-entry-12831.html

作品批評。思えばそうしたものをボカロ界隈で見たことはなかった。
動画へのコメントのような淡泊なものでなく、読ませる類のもの。

ずっと、新しい曲を聴いてはマイリストに入れ、それだけを繰り返してきた。
僕は作曲できない。作詞もできない。動画も作ることができない。
ボカロ界隈で、僕が誰かに何かを伝える手段は無いと思っていた。
細やかな手段として、僕はマイリストを毎日更新していた。

そんな自分が呟いた一言。

〝DAIMでレビュー書くのは凄く面白そうなんだが、
 なんか定期的にポストしないとならないような気がするんで、
 気軽に「レビュアーになりたい」なんて言えない…
 あと俺にはきっと文才が足りない。〟
https://twitter.com/naoh_aq/statuses/244461664861302784

これを、DAIMの主催であったしまさんに拾って頂いて、それから僕はレビューを始めることになった。

レビューを書くのはとても楽しかった。
やっと、自分の「好き」を伝えられたと思ったから。

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自分にとっての大きな出来事を3つ上げた。
ネット上の存在、ディスプレイの中の世界だと思っていたボカロ界隈。
それをもっと身近に捉えられるようになったのは、こうした出来事があったから。

僕の世界は変わった。
初音ミクとの出会いによって。
今ならそう言える。

だからいつか、たとえ光と音が鎖されようとも、網膜に、鼓膜に刻み込んだ君の姿はずっと忘れない。

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