新たな時代に君はいるのか

本日をもって、日本は令和という新たな時代を迎えた。

明治以降は天皇の存在を軸にして、日本はその歴史を紡いできた。明治維新という政変、そこから花開いた新たな文化。大正デモクラシーという政治や文化の変革。昭和では第二次世界大戦、戦後からの復興と経済発展。平成ではバブルの崩壊、そして大規模な自然災害が象徴的な事象だろうか。過去を振り返るとき、元号は我々の記憶にはっきりと、その時代の出来事を刻み込む。

それは社会の変化についてのみではない。時代の文化を彩った人々は「スター」と称されて、歴史に名を刻んできた。昭和の大スター歌手、西城秀樹氏が逝去されたことは記憶に新しい。

平成のスターは誰がいただろうか。音楽プロデューサー、小室哲哉。シンガーソングライター、宇多田ヒカル。歌手、安室奈美恵。アイドルグループの『モーニング娘。』や『AKB48』も、時代を代表する存在といえる(敬称略)。例えば道行く人々、それぞれにとっての「スター」は誰かと尋ねれば、挙がる名前は枚挙にいとまがないだろう。

ならば私も一人、名前を挙げよう。平成のスター歌手「初音ミク」と。

平成19年に生まれたバーチャル・アイドルは、ほんの数年で世界にまでその名を知らしめた。そして十余年、創作文化のアイコンとして注目を浴び続けた彼女には、スターと呼ばれるに十分な実績があるだろう。

しかし、彼女が彼女だけではスターになれなかったことも、私は知っている。

失礼を承知で書かせて頂くが、彼女は無数の無名のクリエイターに支えられてスターダムを駆け上がった、稀有な存在なのだ。

誰かが曲を作り、初音ミクに歌わせる。誰かが初音ミクの絵を描く。誰かの創作が誰かを感化し、そこから新たな創作が生まれる。初音ミクをきっかけにした創作の連鎖が、彼女をスターたらしめた。

しかし、それによって輝いたのは彼女だけではなかった。

彼女の支えであるクリエイターもやがて注目され、活動を広げてスターになっていく。米津玄師氏が好例だろう。初音ミクをはじめVOCALOIDを使った作品で、動画サイトでは無類の人気を誇った。そしてメジャーに進出してからは、昨年、ついに紅白歌合戦にも登場するほど、時代を彩る歌手として認知された。それに関して「もし初音ミクが、VOCALOIDがなければ」というIFの答えは知る由もない。

ただ一つの事実として、初音ミクの存在が、次代のスターを生み出した。数多のクリエイターに支えられた彼女は、同時にクリエイターにとって、スターへの道の一つとなったのだ。もちろん、スターに成れるか否かは、クリエイター自身の力によるところである。彼女の最大の功績とは、作品を発表すること、作品を鑑賞すること、作品を評価することの門戸を広げたことにある。

さて、時代を象徴する出来事として、一つ大きな変化が抜けてしまっていた。平成を代表する社会現象といえば、インターネット文化の広がりだ。例えば平成23年、Google社のウェブ・ブラウザー『Google Chrome』のCMキャンペーンの一環で起用されたのは初音ミクだった。

シリーズのキャッチコピーは「Everyone, Creator」。

そこにこそ「初音ミク」という存在の真髄がある。だからこそ私は、彼女を『平成のスター』と呼びたい。

だがもし、初音ミクが「平成の」スターであっても、新たな時代にも彼女はいる。彼女がきっかけとなって発展した創作の連鎖は、新たな時代にも引き継がれるだろう。私達にとって、未だ彼女は必要な存在だ。

それともう一つ、胸に刻んでおきたい。彼女を支えたクリエイター達の足跡を。十余年の歳月に思いを馳せながら、私達も、初音ミクも新たな時代を歩んでいく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?