功利主義の長所と短所


1 功利主義とは幸福の追求や社会全体の利益を最善とする考え方をいう。①帰結主義、②福利主義、③最大化原理という3つの要素から構成される。

帰結主義とは、行為の正しさを結果(帰結)から考える立場である。福利主義とは功利主義にとって善いこととは、幸福であることのみとする立場である。最大化原理とは、関係者の得る快楽を加算し、最大にすることが望ましいとする原理である。

2 功利主義の長所

 ①功利主義の理論は、単一の功利原理から構成されているため、あらゆる領域の人間の行為について、整合的に説明できる。

 ②功利原理やそれを構成する「帰結主義」「福利主義」「最大化原理」などの考え方は、それを支持するかどうかに関係なく、単純明快で、広く共有できる考えである。

 ③功利計算によって幸福の総量を測ることができるため、実際の政策の是非などが実証的に検証できる。

 ④人間が直感的に感じる是非、優劣、評価と関係なく行為の正しさが分かるため、直感との合致を評価できる(義務論のような直感と結びついた理論では、人間の直感との合致を評価できない)。

3 功利主義の短所

 ①人間が望むのは快楽だけではないのではないかとの批判がある。実際の人間は、電気信号としての快楽があればいいのではなく、現実の社会との触れ合いを欲している。そのため、快楽のみを価値と考える福利主義は問題点を持っている。

 ②快楽、選好に還元できない価値もある。善には友情、誠実、勇気など単に「快楽」には還元できないものもある。義務論などはこれらについても論じているが、功利主義は善という価値を単純に考えすぎているのではないかとの批判がある。

 ③苦痛に慣れた人間の快楽・苦痛を適切に評価できない。世の中には、たとえば奴隷に近いような状態で働かせられ続けている人々、ひどい貧困地域に生まれ貧困のまま育ってきた人も存在する。そのような人々は、わずかな行為で大きな快楽を感じる可能性がある。苦痛に順応してしまった人に、わずかな便益を与えるだけで、本人が感じる快楽は大きかったとしても、それを「幸福」と呼んでいいものなのかという問題点がある。

 ④人間の直感、常識に反する答えを「正しい」とすることがある。功利主義の場合、1人を犠牲にする方が苦痛の総量を減らせるため、いわゆるトロッコ問題などで1人を犠牲にして5人を救うべきだと言う答えになってしまうが、これは1人を殺すことを是認することになる。功利主義の「帰結主義」という立場は、直感、常識に反する結論を導くことがある。

 ⑤異なる行為の快楽を単純に加算できないのではないか。快楽・選好を加算するためには、無数にある行為の快楽・選好を測る普遍的な尺度が必要である。しかし、実際には一人の人間が牛丼を食べたときの快楽と、読書をしているときの快楽を同じ尺度で測ることはできないし、まして、AとBのそれぞれの異なる行為を、同じ尺度で測ることはできないのではないか。

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