建物抵当権設定前後の賃借権

問題 建物に設定された抵当権が実行された場合において(1)抵当権設定前に抵当建物に設定された賃借権、および(2)抵当権設定の後に抵当建物に設定された賃借権は、それぞれどのような取扱いになるか。

一 抵当権設定前の賃借権
 抵当権実行の競売により建物を買い受けた取得の場合、抵当権実行の競売により建物を買い受けた取得者とその建物の賃借人との関係は、抵当権設定登記の時期と建物賃借人が当該建物の引渡しを受けた時期の先後により、優劣が決まる。

 したがって、抵当権設定前に賃借権が設定された場合、抵当建物の買受人は、賃借権の負担を引き受けなければならない。また買受人は、賃借人に約定賃料の支払いを請求できる。そして、買受け人は、前所有者の地位をそのまま承継したと考えられるので、敷金についても返還義務を負う。

二 抵当権設定後の賃借権
 これに対して、抵当権設定後に賃借権が設定された場合、原則として買受人は、賃借権の負担を引き受ける必要はない。ただし建物賃借権を抵当権者に対抗できない場合でも6か月間の引渡し猶予が認められる(民法395条)。この場合、買受人は賃料の請求はできるが、賃貸人の地位を承継したわけではないので、敷金の返還義務はない。

 もっとも抵当権者の同意により賃借権に対抗力を与えた場合(民法387条)、買受人は賃貸人の地位を承継することとなり、賃借権の負担を引き受けなければならず、賃借人に対し賃料を請求することはできるが、敷金の返還義務を負う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?