第12話「見栄比べ」
「なっ!? なんだその腕は!?」
「やる気か貴様ァ!?」
「その腕を戻せェ!」
戸口で男たちが口々に叫ぶ。
白い髪や髭を蓄えた男たちは、全員革製の鎧を着こんでいて、手には剣や短剣を持っている。例に漏れず、小柄だが屈強な体つきだ。こいつらもドゥエルガルなのだろう……。
奴らは完全に臨戦態勢だ。まずは落ち着かせないとヤバい。ちょっとだけヤバい。
「安心しろ。お前たちが手荒な真似をしなければ、俺も戦う意思はない。まずは話を」
「うるさい! 早くその手を戻せ! さもなくば殺す!」
奴らはそう言うと武器を構えた。一人は弓矢を持ってやがる。狭い部屋で弓なんか使う奴があるか? 馬鹿なのか!?
「チッ!」
話にならない。なんて知能の低いザコどもだ。
なんで俺はいつもいつも無能とばかり出会うんだ。くそっ!
「なんの騒ぎだ」
焦る俺の耳に、廊下から落ち着いた男の声が聞こえた。
「ヒッ、ヒッポグリフの兄貴! この部屋の商品が反抗を」
「殺せばいいだろ。何を手間取っている」
「それが、腕が変なんです!」
「腕? 何を……」
声と共に、一人の男が入り口から顔をのぞかせた。
他の奴らと同じように皮の鎧を着こんでいるが、堂々として落ち着いている。こいつなら話がわかるかもしれない!
「おい! 話を聞け! お前たちが大人しくしていれば、俺も戦う気はない! まずは俺の話を聞け!」
「下がれ、お前たち。――要求はなんだ」
そういうと男は馬鹿どもを後ろに下がらせ、前に出てきた。やっと話の分かる奴が出てきた。遅いんだよ!
「要求というほどのことはない。見ろ! 俺の右手はドラゴンの手だ。俺にはドラゴンに変身するスキルがある。お前ら程度では知らないかもしれないがなぁ、カオス・ダーク・ディープ・ドラゴンという強力なドラゴンの力だ。俺をこのまま丁寧に扱うなら、何もしないでやる。だが、もしも少しでも気にくわないことをしてみろ? この建物ごとお前たちを吹き飛ばしてやるぞ!」
「……ほう」
男――さっきヒッポグリフとか呼ばれていたのがこいつだろう――はそう呟くと、側にいた男一人になにやら耳打ちした。
「なっ! そっ、それは……しかし……」
「今すぐ死にたいか?」
突然、ヒッポグリフが懐から短剣を取り出し、男の首筋に当てた。
「はっ、はい! やります」
「最初からやれ」
やると言った男は剣を握りしめ、俺の方へやって来た。
後ろでヒッポグリフが言う。
「お前、盗賊舐めるなよ」
「は?」
剣を持った男は俺の目の前に来たかと思うと、大きくそれを振りかぶった。
「なっ! 馬鹿! やめろ! さっきの話を聞いていなかったのか!? この建物ごとお前たちを吹き飛ばして」
「構わん、やれ」
「はっ、はい!」
「うっ、うわぁー!」
男の剣が勢いよく降ってくる。俺は自由に動く左手を前に出して、目をつむり顔をそむけた。
馬鹿な! 馬鹿な! なんでそうなる! やめろ! やめろぉー!
「……」
鈍い音がして、沈黙が流れた。
恐る恐る目を開けると、剣は俺のすぐ脇、ベッドの上に深々と刺さっていた。
「よし、退け」
「はっ、はい!」
男はそそくさと下がり、ヒッポグリフの後ろで控える集団の中に溶け込んでいった。
「確かにお前の腕はすごいが、見たところ制御できないんだろう。フッ。ずいぶん舐めてくれたなぁ」
ヒッポグリフはそう言うと、俺の方へ向かってきた。その手が俺の顎へと伸びてくる。
「やっ、やめろ!」
「綺麗な顔だ。傷つけちまうには惜しいが、所詮は商品。変えはいくらでも利く。だが、盗賊は舐められたら終いなんだよ」
「わっ!」
乱暴に顔を放り捨てられ、俺は声を上げる。
くそっ! なにしやがる、この野郎!
「ハッ。身のほど知らずの目をしてるなぁ。待ってろ。今、お前の立場をわからせてやる」
ヒッポグリフはそう言うと、仲間を引き連れて姿を消した。
「……くそっ!」
俺は左手でベッドを殴る。
なんなんだ、あの野郎! 舐めやがって! なにが盗賊は舐められたら仕舞いだ! ただのコソ泥集団だろ? ァア!?
「くそぉ! くそがァ!」
俺はベッドを左手で殴って叫んだ。
我慢ならねぇ!