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#17 改めて問う、「わかる」の本質

こんにちは、なおきまです。

この記事では「わかるとは何か?」
ということを深堀りしていきたいと思います。

本アカウントでメインにしている英語学習に限らず、仕事や日常生活、その他の勉強でも応用できると思います。

「わかった」と言ったとき、人によってその理解度は本当に様々です。文字や音声に含まれた情報をなんとなく掴んだだけで「わかる」と言う人から、自分の持つ知識と対照したり、新しく本や文献を調べて背景まで理解して初めて「わかる」と言う人までいます。

同じ「わかる」という発言(実感)の裏にあるその深さの違いが、例えば勉強では同じ教材を使った後に出る成果の差にも現れてしまうのは言うまでもありません。

この記事の狙いは、インプットした情報をどの程度の解像度で自分が理解しているのか、改めて意識してみようというものです。自分の躓いているポイントを明確に理解できるほど、それに対処することも容易になるからです。

まず「わかる」を、

  1. 文字・音声の認識ができること

  2. 言葉の意味がわかること

  3. 内容の意味がわかること

  4. 理解した内容を吟味できること

の4段階に分けます。

そしてこの4段階を、例文を使って辿っていきながら結論に向かっていきたいと思います。

例文はすべて平仮名で書いてある、一見すると意味不明な日本語だと思います。音声情報の理解のことも考えていくためにスタート地点はあえて平仮名にしました。

何度か音読していただき、音声情報としての意識を持っていただいた方がこの先の記事が読みやすいかもしれません。

例文:
えぬしいひがいじょうかつこうどのかくかとがんしんじゅもしやにありへんぺいじょうひがんでこうぶんかとおもわれます

何のことでしょうか?

「ひがい」は何の「被害」でしょうか?
「もしや」とあります。何が起こるのでしょうか?
「ひがんで」は何に僻んでいるのでしょうか?
「こうぶん」は「構文」?さては英語の話でしょうか?

いったんこれ以上スクロールせず、何の話か考えてから読み進めていただきたいと思います。

また、それぞれの段階は英語学習の過程の中でどのような状態なのかも各項の最後に付しました。

1.文字・音声の認識ができる

これは文字通り「情報を文字・音声として認識できる」状態です。

えぬしいひがいじょうかつこうどのかくかとがんしんじゅありへんぺいじょうひがんでこうぶんかとおもわれます

が目に入った or 聞こえてきた状態です。実際は読んだら全てひらがなということはないので、次の2.以降の話になります。

こうした文字・音声として情報が目や耳を介して脳に「正しく」届き、認識できることは「わかる」ためには必須です。ただこれだけでは当然「わかった」ことにはなりません。

英語学習をする中でも、「聞いていて冠詞や前置詞などの短い音が聞こえていない」「ついていくのに必死で個々の単語がすっぽ抜けてしまった」という経験がある方も多いのではないでしょうか?

または「blunderという単語が聞こえたのは認識できたが、意味を忘れてしまって頭の中で意味を成さなかった」ということもあるかもしれません。このように「音は入ったが理解できていない」ということもあるでしょう。

目や耳を介して情報を受信したが、語彙のせいか文法のせいか、リスニングの音の認識のせいか、何のことだかさっぱりわからない。

英語学習でも最初の壁です。

2.言葉がわかる

言葉の意味がわかることは文字通り、受信した情報の範囲だけでわかった状態です。

えぬしいひがいじょうかつこうどのかくかとがんしんじゅもしやにありへんぺいじょうひがんでこうぶんかとおもわれます

という例文が、

N/C比が異常かつ高度の角化と癌真珠も視野にあり、扁平上皮癌で高分化と思われます。

という解像度で情報が入ってくると文の意味がわかると思います。(厳密には文字情報だとこれがまず入ってくるので、1.と2.は同時にやってくることになります。)

さて、漢字と英語、句読点により例文を読むことができるようになりました。癌についての記載であることもわかりました。

さて、これで「わかった」と言えるでしょうか?

N/C比、角化、癌真珠、視野にある、扁平上皮癌、高分化

それぞれ何のことだかわからなければ、この文を「読めただけ」で「理解した」ことにはなりません。

実際、英語学習でも時事問題や抽象的な話、科学的な内容などに触れるとこのようなことが起きます。

「読んで(訳して)みたがいまいちピンとこない」

「文法・構文的には正しく解釈できた(と思う)が、何を言いたいのか分からない」

という状態です。上記の例文のように、日本語だとなんとなく読み進めてしまうかもしれませんが、英語だとそうもいきません。

正しく読めても、訳すことができても、わからないことはわからない。

ここから一歩進むには、背景知識がますます重要になります。

3.内容・背景がわかる

端的に言えば、背景知識をベースに入ってきた情報を咀嚼して腹落ちすることを「内容の意味がわかる」といいます。

例文に戻ります。

N/C比が異常かつ高度の角化と癌真珠も視野にあり、扁平上皮癌で高分化と思われます。

それぞれの用語を、専門的になりすぎないように簡単に説明します。

・扁平上皮癌は癌の種類の1つです。乳癌、大腸癌といった臓器別の言い方と扁平上皮癌、腺癌といった「どんな細胞が癌化したのか」に基づく組織別の言い方があります。扁平上皮癌は、皮膚や粘膜を覆う「扁平上皮細胞」が何らかの理由で癌化したものです。皮膚や粘膜から生じた癌とここではご理解ください。

・N/C比は細胞の核(nucleus)と細胞質(cytoplasm)の比です。正常な細胞に比べて癌細胞では核が大きくなり、N/C比が高くなるのが癌の特徴の1つです。

・「視野にあり」というのはこの場合、顕微鏡でプレパラート(病理標本)で細胞を観察している状況を示しています。病理標本を作る目的は患者さんから採取した組織・細胞を観察して病気を診断することです。

・角化とは、「皮膚の角質がたまる」の角質のようなものだとご理解ください。病理標本上では赤い線のような形だったり、集まって塊になっています。扁平上皮細胞は「皮」ですから、角質を作るわけです。高度とは「たくさんある」ということです。

・癌真珠とは、簡単に言ってしまえば上記の角化が塊になったものです。「高度な角化」の特徴的な所見です。

・分化とは、細胞が役割を持つことを言います。私たちの臓器の細胞は役割を持った(分化した)細胞です。一方、どんな細胞にもなれる(=未分化)細胞のことを幹細胞といいます。ノーベル賞でiPS細胞が話題になりましたが、これも幹細胞です。つまり高分化というのは細胞がしっかりと役割を持っているということです。癌細胞となった後も、扁平上皮細胞の特徴(角質を作るなど)を持っているということです。例えば低分化の扁平上皮癌では、高分化のものと比べて扁平上皮細胞の特徴が少なく、角化の程度が弱くなります。

こう理解すると、

えぬしいひがいじょうかつこうどのかくかとがんしんじゅもしやにありへんぺいじょうひがんでこうぶんかとおもわれます

という文は、

顕微鏡で病理標本を見てみると、正常な細胞に比べて核が大きい癌細胞があります。観察範囲の中には癌細胞とともに角質がとても多く、一部は癌真珠という塊を形成しています。これは癌の中でも扁平上皮癌、特に扁平上皮細胞の特徴が多く残った高分化型扁平上皮癌だと考えられます。

と言い換えられます。

この段階まで理解できるということは、その分野に関する背景知識が一定程度潤沢であることもうかがえます。

4.吟味・検討できる

吟味・検討できるということは、既に持っている潤沢な背景知識をベースに必要な情報をさらに収集し、得た情報の真偽を評価し、その情報を次の何かに応用できることを指します。

「インプットした情報をアウトプットに使えるくらいわかる」

ということになります。

N/C比が異常かつ高度の角化と癌真珠も視野にあり、扁平上皮癌で高分化と思われます。

という文を見たとき、

「免疫染色の所見はどうなのか?」
「この臓器で扁平上皮癌は比較的珍しいな・・・」
「この所見であれば・・・と治療をしていこう」

など、情報+αの内容を検討する、あるいは批判的・建設的な議論ができることを指します。

これが自在にできることが、その分野に対して「専門性がある」という条件の1つだと思います。

5.まとめ

この記事では「わかる」を、

  1. 文字・音声の認識ができること

  2. 言葉の意味がわかること

  3. 内容の意味がわかること

  4. 理解した内容を吟味できること

の4段階に分け、一見よく意味の分からない文字の羅列に意味が宿っていく過程を辿っていただきました。

・日本語でさえ、情報を正しく受け取れなければ意味はわからない。
・何となくわかった状態と背景知識をベースに理解した状態では全く違う。
・情報を正しく受信し、背景知識をベースに理解・咀嚼し腹落ちさせ、自分のアウトプットに活かせるところまでわかるのが理想。

ということを改めて感じていただければ、本記事の目的は達成です。

また「上記でいう3.の段階まで理解していない内容は覚えられないし、議論もできない」こともご理解いただけるかと思います。

そして、英語ではこの「わかる」過程に「外国語であること」が重く、重くのしかかります。

これを克服するためにはどうしたらよいか?

そこで私が普段から"X"や"note"で書いている「英語の基本5項目」があります。

語彙、文法、構文、発音、背景知識

の5つです。なぜこれが大切か。

それは、「外国語での情報の送受信を正確に行うために必要な要素」だからです。

英語の学習方法や目的は様々ありますが、基本的にすべてこの5つを鍛え上げるためにある(それによって目的を達成する)といって差し支えないと考えています。

単語を覚え、文法を覚えても背景知識がない英文は理解するのが難しい。よってわからない。知識がなければ考えられないので発信もできない。

たとえ専門家と言える人でも、英語力が足りなければ英語での情報を処理できず、よって発信もできない。

語学の学習に背景知識は切っても切り離せないものだと思います。

だからこそこの基本5項目を大切にし、読む・聞くときは「どのくらいの解像度で理解できているか?」を常に自分に問いかけることが大切だと考えています。

このように軸を持つことで、理解度が低いときに「自分の何が原因で理解できていないのか?」を突き止めやすくなります。

そして学習が停滞することを減らすことにもつながる。すると成果が出やすくなる。成果がでればモチベーション維持もしやすくなる。モチベーションが上がれば・・・

と好循環が生まれやすくなります。

語学1つを通して、これだけ多くのことを学び考えるチャンスがあるなんて、とても儲け物だと思っています。

この記事が、読者の皆様の今後のヒントになれば嬉しく思います。

以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。







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