最近みた映画リスト(成瀬巳喜男作品)

1.女の座(1962年・111分・東宝)
監督・成瀬巳喜夫
脚本・井出俊郎、松山善三
製作・藤本真澄・菅英久
キャスト・笠智衆、高峰秀子、司葉子、星由里子、淡路恵子、草笛光子、三益愛子・杉村春子、他

父親の危篤の知らせで渋谷(当時はのどかな住宅地)の実家に集まる子供達。小津安二郎の「東京物語」と似た設定(年老いた父親は同じ笠智衆)ながら、東京オリンピック前で様変わりする東京の町の様子や、加熱する受験戦争など、時代の空気とそれぞれの子供達のエゴがより描かれている感じ。
画面を見ながら、老夫婦が暮らす日本家屋や、普段着として着物を着る生活様式の良さに目がいったが、最後に老夫婦が「今の家を売って今風の建売住宅でも買って夫婦だけでのんびり暮らそうか」というセリフに、この延長線上に今の令和の時代があるのだなあ、と残念に思った。
「いいじゃない、今流行ってるのよ、イカスじゃない」というセリフに、古き良き日本の面影が失われていく様が要約されている感じがした。
しかしそれぞれの女優さん(高峰秀子、司葉子、星由里子、淡路恵子、草笛光子、三益愛子・杉村春子)の美しさには感嘆。


2.晩菊(1954年・101分・東宝)
監督・成瀬己巳男、原作・林芙美子
脚本・田中澄江、井出哲郎
製作・藤村真澄
キャスト・杉村春子、沢村貞子、細川ちか子、望月優子、上原健、小泉博、有馬稲子、加東大介

芸者上がりの女性(杉村春子)が年を取り、今は金貸し商売をしながら生計をたてている。ギリギリの生活を送っている昔の芸者仲間からも度々頼りにされるが、取り立てが容赦ないため、逆に陰口をたたかれている。
そんな時、昔の恋人(上原謙)が訪ねてきたことにときめくが、恋人は単にお金を借りたいだけであった。独身の女性の老後について、身につまされる思いがした。
女優陣の美しさもさることながら、上原謙のイケメンぶりはやはり別格。


3.妻よ薔薇のやうに(1935年・73分・PCL)
監督・成瀬己喜男、原作・中野実「二人妻」
キャスト・千葉早智子、丸山定夫、英百合子、伊藤智子、藤原釜足

昭和10年、戦前の映画ということで、当時の街並み(丸の内のビル群、東京駅、山手線も!)や、当時の最先端ファッション、そして価値観も興味深い。
・当時の丸の内のオフィスレディは、オフィスで仕事する時も帽子をかぶっていたの? 
・オフィスで、学生服を着た15~16歳くらいに見える男の子がお茶を片付けていたけど、あれは何? 給仕さん?小僧さん?書生?
・「チェッ、脅かすなよ」というセリフも、当時の流行語だったのかな? 
・仕事を終えて帰宅した娘が、晩御飯を作ったりと家事も行っている。専業主婦の母親は、家事もせずに趣味の和歌を詠んでいる。
・母親は「女中をおいたら?」と娘に提案。戦前はちょっとした上流家庭に女中がいるのは一般的だったらしい。(家事見習いとして、十代の女の子が住み込みで安い給金で女中をしてくれた)
・当時は親孝行が美徳とされていたので、成人したら親を大切にしていた?
・蒸発した夫から毎月仕送りがきているので、娘の給料とあわせてゆとりのある生活を送っていた。
・娘は母親のことを「いい奥さんではなかった」といい、何十年も家を留守にしている父親のことも「いいお父さんではない」と言っている。
→今時の身勝手な母親や父親と同じ? 戦前も変わらなかった?
・当時は麻雀、義太夫、ねずみ、シャボテン、小鳥などの趣味が流行っていた。
・御馳走ということで、自宅でトンカツを揚げている。
・父親は個人で砂金掘りの仕事をしている。山師というらしい。ひと山当てる、なんて仕事が本当にあった。
・蒸発していた父親は、現地で子供を2人もつくっていた。(そういうことも戦前はよくあったことなの?)
・父親の現地の妻は元芸者で、髪結いで生計を立てている。娘も着物の仕立ての仕事をしている。→つまり父親はヒモ。東京への仕送りも、現地の妻が、自分の娘の進学を諦めさせて行っていたのであった。

結局、この父親が甲斐性なしなのに、なぜ現地の妻の方がこうも尽くすのか、東京の娘もなぜこんな父親に親孝行しようとするのか、今の感覚では理解できないと思う。父親は結局、現地の妻を選ぶのだが、男に尽くす女が勝利する? 男にとって都合がいいなあ、と思ってしまった。

ところで劇中の「鏡獅子」は、役者さん、誰だったんだろう?


4.驟雨(1956年・90分)
監督・成瀬己喜男、原作・岸田国士
脚本・水木洋子
製作・藤本真澄
キャスト・佐野周二、原節子、香川京子、小林桂樹

結婚して数年経過した夫婦の倦怠期を描いた作品。コミカルさもあって随所にセンスの高さを感じた。妻の原節子が美人すぎる。香川京子もおしゃれ。当時のサラリーマンの生活も大変だったのだな、と思った。昭和30年代の井の頭線「梅が丘」界隈の風景にも驚いた。


5.おかあさん(1952年・97分)
監督・成瀬己喜男
脚本・水木洋子
製作・永島一朗
キャスト・田中絹代、加東大介

戦後の焼け跡の名残がまだ感じられる川崎で、家業のクリーニング店を始める一家。しかし長男と夫が病気で亡くなり、妻は女手ひとつで子供達を育てる。戦後の混乱期、様々な困難の中、助け合いながら前向きに生き抜く人々の姿に胸をうつ。


6.秋立ちぬ(1960年・78分)
監督・成瀬己喜男
脚本・笠原良三
製作・成瀬己喜男
出演・大沢健三郎、音羽信子、藤間紫、藤原釜足、夏木陽介、加東大介、菅井きん

成瀬監督自身の幼少期を描いた作品とのこと。父を亡くし、銀座の裏通りで八百屋を営む叔父の家庭に預けられた少年。八百屋の家族、特にいとこにあたる青年が優しく接してくれるが、同じ銀座の料亭で女中として働く母になかなか会えず、寂しい想いをしている。少年はその料亭の娘と仲良くなるが、ある時、母親は料亭の常連客と駆け落ちし、その料亭も急に廃業、娘も引っ越してしまう。
当時の銀座の風景、三越から見える東京湾、荒れ地だった東雲なども興味深い。


7.放浪記(1962年・123分)
監督・成瀬己喜男、原作・林芙美子
脚本・井出俊郎、田中絹代
キャスト・高峰秀子、田中絹代、室田明、加東大介、小林桂樹、草笛光子


8.浮雲(1955年・123分)
監督・成瀬己喜男、原作・林芙美子
脚本・水木洋子
キャスト・高峰秀子、森雅之、岡田茉莉子


戦時中、仏領インドシナ(ベトナム)に赴任中、愛し合った男女が、復員後もどん底の境遇に陥りながら、ずるずると不倫の関係を続けてしまう。
妻帯者でありながらいつまでもはっきりしない男に、どうして頼ってしまうのか、女性もちゃんと男を見る目を持って自立して欲しいと思った。


9.山の音(1954年・94分)
監督・成瀬己喜男、原作・川端康成
脚本・水木洋子
製作・藤本真澄
キャスト・原節子、上原謙、山村聡

甥を感じ始めた男が、同居している息子の嫁のことをかわいく思っているが、息子は不倫をしており、嫁に冷たい態度をとる。嫁を心配する義父の淡い恋心。


10.流れる(1956年、116分)
監督・成瀬己喜男、原作・幸田文
キャスト、田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、杉村春子、岡田茉莉子、宮口精二

置き屋に女中として住み込みで働くことになった女(田中絹代)。着物を着ながら女中として働く所作が美しい。

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