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【Event】POLA TALKER'S TABLE 4/2 中村キヨさん

株式会社ポーラとメルセデス・ベンツ日本株式会社が共同で、2月から5/20まで開催している「Mercedes-Benz Connection NEATDOOR イベントPOLA TALKER'S TABLE FEAT.WE/(ポーラ・トーカーズテーブルと呼んでます)」。「出会いから一歩前へ 今よりもっと自分らしく生きるための『きっかけ』に出会う場所」というコンセプトで、その道で活躍するスピーカーを招いて、参加者全員で一緒に「井戸端会議をしよう」というトークイベントである。私はラジオ・パーソナリティの腕を買われ(?)、そのうちのいくつかの企画でモデレーター、平たくいえば司会を務めている。今回はそのうち、私が「ぜひに」とお願いしてスピーカーにお呼びした漫画家・エッセイストの中村キヨ(中村珍)さんの回を振り返る(公式のアーカイブはこちら)。

そもそも私自身が中村さんの漫画のファンで、特に2015年に発売され話題となったコミックエッセイ『お母さん二人いてもいいかな』(ベストセラーズ)にいたく感動し、Twitterを通じてお知り合いになったのがきっかけ。話してみれば実は中村さんがクラシック・ファンだった、ということから勝手に親しみを感じていたりしたのだが、今回のイベントの企画が持ち上がった時に、まっさきに「話してもらいたい!」と思ったのが中村さんだった。恐る恐る依頼したところ二つ返事で承諾していただき、私自身が期待いっぱいで迎えた4月2日。

テーマは、「人と人が『一緒に生きる』ということ」。本には同性愛者としてシングルマザーの女性と恋に落ち、その子供達と一緒に生活を送り始めた彼女がぶつかる様々な問題が描かれているが、実はその全てが、同性愛・異性愛にかかわらず、いや、夫婦・恋人・親子・パートナー、どんな関係性にせよ人と人とが共に生きていく上で多かれ少なかれ遭遇するものだ。だから、中村さん自身の口からその時考えたこと、感じたことを語ってもらうことで、私たち自身が今まさにぶつかっている問題、あるいは今後ぶつかるかもしれない問題について、一緒に考えることができるのではないかと考えた。

会場で語られたテーマは結婚生活をうまく送る方法、親子関係の苦労、仕事場での人間関係の取り結び方、社会におけるジェンダー・ギャップについてなど実に多岐に渡った。特に、参加者から提起された様々な問いには、今置かれている場所でもがき、苦しみ、立ち止まったまま前に進めず、あるいは一歩を踏み出すために勇気を振り絞っている人たちの「熱」が感じられた。

そのひとつひとつに、実に丁寧に向き合う中村さん。私がいちばん心を打たれたのは、彼女が決して「言い切らない」ことだ。おそらく自分の中では強い意志を持って対峙していることでも、大上段からアドバイスするようなことはない。「私はこうすればいいとは思うんだけど、でもそれはなかなか難しいよね…」と、必ず留保をつけるのだ。それは、彼女が、人は誰かのことを完全には「理解できない」ことを知っているからだろう。

「私が見つけたやり方が、あなたにも効果があるとは限らない。なぜなら私とあなたでは、置かれた場所も、向き合っている相手も、抱えた問題の重さも強さも違うから。でも、私の言葉が何かのヒントになるかもしれない。あるいはならないかもしれない。それでも私は、今、私に向かって心を開いてくれたあなたに少しでも寄り添いたい。」

私には彼女が、そんな風に言っているように思えてならなかった。

会場では、中村さんの話に涙を流す人が何人もいた。彼女の「言葉」が持つ強さと優しさ。それは彼女自身が大きなものにぶつかって傷つき、倒れては立ち上がり、そうやって生きてきた中から獲得したものだ。人は「言葉」でつながっていく。目の前で繰り広げられるその光景に、同じく「言葉」を紡ぐことを仕事にしている人間として、私は彼女に無条件の尊敬を抱かずにはいられなかた。そして、私は私の「言葉」をもって、誰かとつながる未来を求め続けていこうと思った。

写真:伊藤竜太

2017年4月2日

おまけ:打ち合わせの時に中村さんからいただいたサイン。なんと拙著『オペラの館がお待ちかね』を差し上げたところ、それをもっている自画像を描いてくださいました。家宝にします♪(写真は室田撮影)


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