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【Concert】山田和樹アンセム・プロジェクトRoad to 2020

 「山田和樹アンセム・プロジェクトRoad to 2020」は、指揮者・山田和樹が音楽監督兼理事長を務める東京混声合唱団(以下、東混)と正指揮者を務める日本フィルハーモニー交響楽団(以下、日本フィル)と共に、2017年にスタートさせた壮大なプロジェクトである。200を超える世界の国と地域の国歌や愛唱歌を録音・演奏するというもので、2017年11月には2枚組のCDをリリース。2018年2月には東京オペラシティ・コンサートホールで第1回のコンサートが開催されており、今回はその第2弾ということになる。以前行ったインタビューで山田は「誰もやったことがないものと誰もが知っているもの、その両方をプロのクオリティで表現してく」と抱負を語っていた。きっかけは2020年の東京オリンピックを音楽界でも盛り上げていこう、ということだったが、いざ始めてみたら取り組むべき内容は膨大で、「Road to 2050になるかも」という山田の言葉が印象的だった。

 今回コンサートで披露されたのは、まさにその膨大なプロジェクトの一部、ということになるのだろう。幕開きは、ワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲。純粋な「国歌」として取り上げられたのは「君が代」(西村悟のアカペラ独唱)、J.ウィリアムズ編曲による「アメリカ合衆国国歌」、そして山田が「世界で一番芸術性が高い国歌」と褒め称える「コモロ連合国国歌」の3曲。最後の「コモロ連合国」は場所がどこにあるのかも地図で確認しないとわからないが、山田が指摘するようにとても「芸術性の高い」音楽で、オーケストラの演奏会には適した作品。前半の終わりにはグラズノフが書いた「第一次世界大戦の連合国の国歌によるパラフレーズ」という、これまた珍しい作品が披露されたが、「君が代」(日本は第一次大戦時の連合国である)に不思議な和音がついて演奏されるのはなかなか面白かった。

 後半は、まず武満徹編曲の「さくら」でスタート。アカペラのこの作品では、東混の高いハーモニー力が存分に発揮された。合唱作品で高い評価を得ている信長高富が沖縄やフィジー諸島、ジャマイカなどの民謡や愛唱歌をアレンジした「アンセム・メドレー」は、楽想の豊かさや言葉の面白さで聴かせる佳曲。シベリウスの交響詩「フィンランディア」、そして西村独唱による「誰も寝てはならぬ」と続いて、ラストはホルストの組曲「惑星」から「木星」の合唱付バージョンで締めくくった。アンコールは西村も加わっての「蛍の光」。

 バラエティに富んだ選曲で飽きさせない構成(新井鷗子)で、これなら普段クラシックに馴染みのない人でも「愛唱歌」というくくりで十分に楽しめる。おそらく、司会(江原陽子)が曲間に登場して山田とトークを繰り広げたのも、そうしたターゲットを意識してのことだろうが、個人的には司会はなくてもよかった気もする(あるいは山田に一人で喋ってもらってもよかった)。逆に、プログラムの内容はちょっとアッサリしすぎ。アレンジ作品では編曲者の名前は明記してほしかったし、字幕が出ないので歌詞が載っていればもっと楽しめたと思う。

 日フィルは出だしこそソツのない演奏で「熱さが足りない」と思ったが、徐々にドライブがかかってきてラストの「木星」では存分に楽器を響かせていた。こういうコンサートは「熱量」が重要だと思うので、もっともっと聴衆を巻き込んでいく熱さやドライブ感がほしい。また、東混はアカペラだと実に見事なハーモニーを聴かせるのだが、オケが入った曲だと声量がやや足りず、言葉がよく聴こえないところもあった(合唱はオケの後ろに配置)。今年は日本各地で、あと6公演が予定されている。さらなる「熱」のある演奏会を期待したい。

2019年3月17日、Bunkamuraオーチャードホール。

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