【Opera】南條年章オペラ研究室 ピアノ伴奏演奏会形によるオペラ全曲シリーズVol.17 ベッリーニ『カプレーティ家とモンテッキ家』

 とても久しぶりに「ピアノ伴奏による演奏会形式」のオペラを聴いた。考えてみれば、かつて声楽の勉強をしていた時に、このスタイルでたくさんのオペラを聴いた(し、合唱として実際に歌ったりもしていた)。実はこれ、オペラの「音楽」を学ぶのにもっとも適したスタイルなのだと思う。何しろ、音楽、特に「歌」の骨格がむき出しになるので、その歌唱が「表現」として成立しているか否かがはっきりとわかってしまう。その点、主人公を歌った2人の歌い手は見事だった。

 ジュリエッタのソプラノ平井香織は、表情が実に豊かで幅広い。フォルティッシモからピアニッシモまで、声の芯がぶれないのは、重心がしっかりしているからだろう。ロメオのメゾソプラノ鳥木弥生は、見事な声量でドラマティックかつ力強い表現を披露した。もちろん、2人ともオペラの舞台を数多く経験してきている実力の持ち主だから当然なのだが、実際300席強の王子ホールではもったいないほどのパフォーマンスだった。それは合唱にもいえることで、当夜の合唱には本来舞台で主役を歌うプリマドンナ・クラスの歌い手が参加しており、パワーの底上げが感じられた。

 ちなみにこのオペラ、有名な「ロメオとジュリエット」の物語だが、シェイクスピアの戯曲を元にしたものではない。もともとこの物語はイタリアに伝えられてきた伝承譚で、15世紀から16世紀にかけてそれを元にした小説や詩が生み出されている。ベッリーニのオペラの台本を書いたロマーニがそのうちのどれを参照したのかはわかっていないが、いずれにせよシェイクスピアの戯曲とは登場人物も筋書きも異なっている。

 シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を元に書かれたオペラとしてはグノーの作品が有名だが、ベッリーニと比べてみると雰囲気がかなり違う。作曲年代にして30年強の隔たりがあり、かつイタリアとフランスという音楽のスタイルの違いも大きいが、何よりロメオの性格に大きな差がある。グノーのロメオは恋と苦悩に思い悩む典型的なロマン派の若者。一方ベッリーニのロメオは一家の当主であり、より誠意と分別が感じられる。そしてその違いはそのまま音楽にも表れている。どこまでもロマンティックで主情的なグノーに対し、形式やメロディのラインをきっちり守りながら感情を表出するベッリーニのロメオは、最終幕のシンプルながら心に残るアリア「天上に昇る美しい魂よ」に結実している。

 どちらが好きか、と問われると甲乙つけがたく迷ってしまうけれど、少なくともこの日の燕尾服を身につけたシュッとした鳥木弥生は、モンテッキ家の若き当主にして愛に生きるロメオそのものだったと思う。


2017年7月23日、王子ホール


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

いただいたお金は、記事作成のための取材費や資料費等にあてさせていただきます。

Thank you !
5

室田尚子

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。