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【Concert】メゾソプラノ地位向上委員会「6人のメゾソプラノたち 大メゾソプラノ時代」

 昨年6月の第1回コンサートを大好評(かつ大爆笑)のうちに終えた「6人のメゾソプラノたち」、通称「6メゾ」。待ちに待った第2回が「大メゾソプラノ時代」と銘打って、三鷹市文化芸術センター星のホールで行われた。コンサートの構成は前回と同様、前半は6人それぞれのソロ・アリア、そして後半はオペラのダイジェストで今回は『蝶々夫人』が上演された。

 前回のレビューで「一口にメゾソプラノといっても、声質や音色、音域は各人各様」と書いたが、今回もその感想は変わらない。その上で、各人がより一層「自分の声の長所を活かすアリア」を選んでいたという印象だ。幕開けは、ロッシーニを得意とする但馬由香さんによる『セヴィリアの理髪師』から「今の歌声は」。大舞台で鍛え上げたアジリタの安定感はさすがだ。「6メゾのリーダー」鈴木涼子さんが歌うモーツァルト『皇帝ティトの慈悲』からセストのアリア「行きますとも、でも愛する人よ」は、彼女のノーブルで真っ直ぐな歌声がセストのキャラクターにマッチしていた。登場した瞬間にパッと目を引く「6メゾのムードメイカー」福間章子さんが歌ったのは、珍しいマイヤベーア『ユグノー教徒』から小姓が歌うロンド「いえ、いえ、決してありません」。超絶技巧がちりばめられた難曲で観客を惹きつける。ヴェルディ『仮面舞踏会』からウルリカのアリア「地獄の王よ、急げ」を歌ったのは、立川かずささん。低音の迫力と丁寧で緻密な歌いぶりが印象的だ。そして、先日新国立劇場の『エウゲニー・オネーギン』で好演した鳥木弥生さんは、同じくチャイコフスキーの『オルレアンの少女』から「時は来た!〜さようなら、故郷の丘よ」を披露。ロシア語のディクションの確かさはもちろんのこと、1曲の背後に広がるドラマを感じさせる歌唱力はさすがの一言だ。ラストは松浦麗さんが、日本の創作オペラ『石見銀山』から鬼女が歌う「厄災」を鬼女の面をつけて演奏。確かな日本語の発声、中低音の美しさに今回一番の躍進ぶりを感じさせた。

 前半最後は、恒例の撮影タイム。ピアノ伴奏が流れる中、チラシの衣裳に着替えた6人がポーズをとり、客席はスマホを掲げてパシパシと撮影。これ、音楽があるというのがキモで、写真を撮りながらこちらも舞台に参加している気分にしてくれる、とてもステキな企画だと思う。

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(前列左から)但馬由香、松浦麗。(後列左から)福間章子、立川かずさ、鳥木弥生、鈴木涼子。

 さて、前回は6人のカルメンの登場で抱腹絶倒の幕切れを見せたオペラ・ダイジェスト。同じく太田麻衣子さんの演出なのできっと「笑える蝶々さんだろうな」と期待していたら、しょっぱなから着物を着た6人が一列に並び、「スズキでございます」「スズキでございます」…と挨拶をかます。しかも最後は本物(?)のスズキ=鈴木涼子さんが、なぜか1人だけモンペ姿で「鈴木でございます♪」と挨拶し、場内はそれだけでもう大爆笑。どうやらピンカートンがいなくなった後の蝶々さんの生活を、6人のスズキが一生懸命支えている模様。それぞれ、すぐ泣き出す泣き虫スズキ(立川かずさ)、蝶々さんが大切すぎて蝶々さんを侮辱する奴は全員斬り殺す!と刀を振り回すスズキ(福間章子)、黒縁メガネをかけてそろばん片手に金勘定に奔走するスズキ(但馬由香)、「きっとピンカートン様は帰ってくる」と能天気にキックボードをのりまわす(!)スズキ(松浦麗)、もう何も考えないことにしたスズキ(鈴木涼子)、そして何もかも「ダメでしょ」と否定するスズキ(鳥木弥生)と六人六様。でもよく考えてみると、この6人のキャラクターは、「スズキ」という人物が持っている面をそれぞれで表しているのだと気づく。つまり「6人で1人」なのだ。

 蝶々さんを演じたのはソプラノの廣田美穂。クセのある6人のスズキを相手に一歩も引けを取らず(笑)、「ある晴れた日に」を何回も歌ってスズキたちを納得させる。いやこの場面、演出もすごいけれど、それに応えて歌ってみせた廣田さんの歌唱力に感心させられた。「花の二重唱」では6人がEXILEよろしく踊ってみたり、なぜかケートがいっぱい出て来たり、爆笑場面の連続だったにもかかわらず、最後に自害する蝶々さんを見送った6人のスズキが再び一列に並んで深々とお辞儀をする幕切れには、なぜか涙が止まらなかった。多分、現実の蝶々さんとスズキの生活でも、あんな風に楽しいことや面白いこともあったのだろう。それでも最後には死を選ばざるを得ない蝶々さんと、それを認めざるを得ないスズキ。2人の(今回は7人の)悲しさや切なさが胸に迫ってくる見事な演出だったと言っていい。

 前回素晴らしい歌唱で6メゾを「食った」と噂のテノール所谷直生さんが、今回はピンカートンとゴローの二役を熱演。しかもアンコールでピンカートンのアリア「さらば愛の巣」を歌うというファンには嬉しいおまけ付きだった。ファンには嬉しい、といえば、サプライズ・ゲストでシャープレスに堀内康雄さんが出演したのも、底力のある6メゾならではの企画だろう。

 さて、こうなると第3回は何をみせてくれるのだろうか。メゾが主役のオペラといえば……もしや……アノ作品?マジで?!と、期待と想像を膨らませつつ、来年を楽しみに待ちたいと思う。

2019年11月12日、三鷹市芸術文化センター星のホール。

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