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ロールモデルの大切さ

前回、アメリカ国籍の女性教授(N教授)に、アメリカの医師の働き方や卒後教育についてお聞きした話を書きました。

N教授は2日間の研究会を最後まで聴講し、時々コメントをしてくださっていました。その中で、とても印象的な出来事がありました。


研究会の途中で起きたこと

2日目の一般演題の時に、一人の日本の医師が正しい診断が難しかった腫瘍の症例を供覧しました。この症例は、過去に何度か専門の研究会や学会でも複数の人に相談し、いろんな検査を何度もして、生検もして、それでもなかなか腫瘍だという確定診断に至るのに2年もかかったというものでした。

「稀な症例でしたが、最終診断は〇〇でした」という結論に落ち着きました。これで終わるのかな、と思っていたら、発表後の討論の時間の途中、突然N教授が挙手してマイクを持ちコメントを始めました。その内容がすごかったのです。

具体的な内容はここには記載しませんが、コメントの冒頭で「今後も同じようなことがあるといけないから言っておきます。」と断った上で、「最初のMRI画像を見れば腫瘍であることは明らか。これで生検をして、病理が腫瘍でなかったら、それは取ってきた場所が間違っている。」と発言されました。ある意味、発表の内容を一刀両断とも言えるコメントでした。


ポジティブな衝撃だった理由は?

非常に印象的な一コマだったのですが、これに衝撃を受けたのは私だけではありませんでした。セミナーの後、数人の参加者とランチに行ったところ、その席でもこの出来事は大きな話題になりました。特に、その場にいた女性医師の全員が、「驚いた」「すごかった」「かっこ良かった」ととてもポジティブにとらえていました。

N教授の発言がなぜこれほどまでに日本の女性医師に衝撃を与えたのか。その理由として考えられるのは、以下のようなことだと思います。

1.知識と経験の豊富さが垣間見えた

まず1つ目は、日本の大病院で様々な検査が行われ、何度も学会で他施設の医師にも相談されていたにも関わらず1年以上診断に至れなかった症例に対して、たった一枚の画像を見て診断に迫ることができたというN教授の知識と経験の豊富さに感動したのだと思います。これまでいかにN教授がたくさんの症例に触れ、触れただけでなくしっかりと検証し、全て自分のものにしてきたのかが想像できます。努力と勤勉さをどれだけ積み重ねてきたのだろう、という驚きでした。

2.一人でストレートに意見を述べる姿に打たれた

2つ目は、N教授が一人で、そしてとてもストレートに自分の意見を述べた点です。ある意味、一切の遠慮や忖度をすることなく、自分が正しいと思うことを端的に、かつ堂々と述べる姿に、みんな強い印象を受けたようでした。

日本人の傾向として、何か自分の主張をするときにも周りの人に配慮して、なるべく婉曲に物事を伝えようとします。自分の意見を主張すること=相手の意見を否定すること、と考えて配慮しがちです。相手の気分を害さないように、自分を落として「合っているかわかりませんが」「もしかしてこれは・・・の可能性はないでしょうか?」などと自信なさげな表現を使うことが多いのではないかと思います。

ところが、N教授の発言は、何の忖度も婉曲さもなく、ズバリと核心をつく発言でした。そのような発言をする女性医師を普段見ることがあまりないので、余計に強いインパクトを与えたのではないかと思います。

3.多様性の効果を目の当たりにした

3つ目は、眼科の症例検討の場にアメリカの神経放射線科の専門家が一人参加したことで、話の流れが大きく変わる展開になったことに対してだと思います。今回の出来事は、バックグラウンドが違う人たちが集まって多角的に考えた方が、より良い診断にたどり着く確率が上がるのだということを痛感させられる出来事でもありました。多様性の効果を目の当たりにしたこともまた、一つの大きな驚きだったと言えそうです。

つまり、全く異なるバックグランドの初対面の人たちの中に一人で入って行って、そこで遠慮なく手を上げて空気を読まずに正しいと思う考えを理路整然と述べ、それが全体の結論に大きな影響を与えた姿が、あまりに新鮮で衝撃を受けたということだと思います。


かっこいいロールモデルが必要

この一連の出来事を見ていて、思いました。

日本の女性医師割合が3割で止まっている原因の一つ、他の先進諸国に比べてもアカデミアで活躍したり、リーダーシップポジションまで到達できる女性医師数が少ない原因の一つには、こう言うかっこいい先輩の姿を見る機会が少なすぎることにあるのではないかと。

なぜなら、その場にいた女性医師たちは、みんなN教授が発言する姿を見て「かっこいい」「毎年講演に来て欲しい」「あんな風になりたい」と口々に言っていたからです。

「あんな風になりたい」と言う憧れの感情のパワーはすごいと思います。全国の少年たちは、プロ野球選手、プロサッカー選手を見て憧れ、それぞれ野球やサッカーの練習に熱を入れたりします。

どんな状況に置かれても、自分の知識と経験を武器に、知らないの人たちの中にも平気で入っていって、立ち上がって意見を述べられるようなかっこいい女性医師。そんな姿を見ることで、若い女性医師たちはたとえ大変でも自分も頑張りたい、と思うのではないかと改めて思えてきたのでした。


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