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固定席、固定電話なし。オランダのオフィスはフレキシブルな働き方を反映

オランダに住み始めて、今年で15年が経とうとしている。街を行き来するあらゆる種類の変な自転車、スーパーマーケットのチーズコーナーの豊富さ、オランダ人の食卓の質素さ、子供たちの学校生活の自由度……などなど、いろんなことに大分慣れてきてしまって、自分も半分オランダ人化してしまった部分もあるのだが、近年オランダと日本の企業を結ぶ仕事をする中で、改めてオランダ人の働き方や日本人との考え方のギャップに驚いたり、ダイナミックなオランダのイノベーションに感動したりする場面が出てきた。これを記憶が新鮮なうちに書き留めておかねば、まただらだらと時が経過する中で、これらの感覚は日常化し、きっとまた半分自分のものとして消化しながら、忘れてしまうだろう。

 私はこのノートを自分の新鮮な驚きと感動の記録として開設する。そして、オランダの職場で起こっている事、オランダ人の働き方、オランダ人と働くということ、オランダで起こっている様々な分野のイノベーション……などについて興味のある人に、少しでも参考にしてもらえたら嬉しいと思っている。

※写真はオランダ・ブラバント州のスタートアップサポート組織「High Teck XL」のオフィス。組織の内外の人が自由に使っている。

オフィスの席は自由席

私は現在、フリーランスライターとして、主にオンラインメディアでオランダやヨーロッパの経済やライフスタイルを紹介したり、オランダ経済について調査レポートを請け負ったりする傍ら、オランダ南部の北ブラバント州政府のアドバイザーを務めている。日本でいうと県庁みたいなところで、同州が日本でイベントを開く際の連絡係や、州内のスタートアップ企業が日本市場に進出する際の広報役などを務めている。

フリーランスなので、基本は家で仕事をして、必要な時だけブラバント州政府の建物に出向いている。州政府のビルはオランダには珍しい20階以上の高層ビルで、私の住むアイントホーフェンから高速道路に乗って30分ほど北上したデンボスという街で高速を降りる時、このビルだけがニョキッと立っているのがひどく目立つ。私が仕事を請け負っているのは「国際部」で、これは見晴らしのいい20階にある。

驚いたことに、このオフィスでは数人の正職員を除いて、ほとんど席が決まっておらず、みんな来た順に好きな場所に座る。机の上にはコンピューターのスクリーン以外、電話も書類も何も置いていないので、誰がどこに座っても構わないのだ。好きな場所に座って、コンピューターに自分のIDとパスワードを入力すれば、そこは今日一日の自分の席になる。さらに、机と椅子の高さは簡単に調節できるので、座り心地もどこでも同じになるのだ。

正職員であっても、週3-4日働く人、週5日午前中だけ来る人、週4日はオフィスに来るが、1日は自宅勤務する人……などなど、各自の働き方はさまざま。これに加え、プロジェクト毎に雇われる私のようなフリーランスが出入りするため、ある曜日はすごくオフィスが込み合っているが、すごく閑散としている日もある。例えば水曜日は子供の学校が半日のところが多いので、休みにしている人が多いし、ホリデーシーズンとなると、しっかり休暇を取るオランダ人のオフィスは誠に静かである。 

オフィスが閑散としてたくさん席が余っているときはいいのだが、時々、混みすぎていて机が足りない時もある。そんな時は、近くの部署の空いているところを探したり、使っていない会議室や休憩室のテーブルで、自分のラップトップを持って行って仕事をする場合もある。 

考えてみれば、固定席というのは毎日同じメンバーが集まるからこそできるわけであって、みんなが多様な働き方をしていれば、それを設けるのは難しい。職場の「自由席」は、働き方の多様性から生まれたものなのである。

オフィスに固定電話がない!

私が州政府ビルで初めて仕事をした日、まず衝撃を受けたのは、机の上に固定電話がないということだった。机の上はつるりとして、コンピューターのスクリーン以外は何もない。

これも実は前述の「固定席」がないことと関係があり、誰が座るか分からない机に固定電話を置くのは確かにナンセンスである。正職員はスマホを支給されているし、もちろん私のようなフリーランスは自分のスマホやメールで連絡を取り合っている。IT企業などではすでに当たり前になっていることかもしれないが、州政府のような「お役所」でも固定電話がないというのにはかなり驚いた。

日本でも一部の先進的な企業で固定電話をなくす動きがみられるようだが、「固定電話番号のない会社は胡散臭い」とか「固定電話がないと、お客様に迷惑をかける」といったような見方が多く、なかなか導入が進まないようだ。それでも、勇気を出して会社に電話をなくしたIT企業「マースフラッグ」の代表・武井信也氏は、全く電話が鳴らないオフィスで、営業活動がポジティブに回り出したことを『ビジネス・インサイダー』に語っている。特に、クレーム電話への対応がなくなったことで、これに割いていた時間や労力を新製品の開発や新規顧客の開拓に使えることが大きいという。
https://www.businessinsider.jp/post-185281

実際、私の経験からもSNSやメールでのやり取りで、十分に業務は回っている。むしろ外国人の私にはオランダ語や英語でのやり取りは、SNSやメールでの方が間違いがない。自動翻訳にかけることもできれば、後で確認するときに履歴が残ることも電話より便利な点である。

多様な働き方を認めていけば、職場の席は「自由席」になり、固定電話はなくなるのである。



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