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オランダを歩けばフリーランスに当たる。フリーランスをあなどるなかれ

このところ世界的にフリーランス人口が増えているという。フレキシブルな働き方やポスト資本主義のあり方を追求していくと、きっとこういう形になるのだろうが、おそらくその最先端にあろうオランダにあって、私も日々、フリーランスや個人事業主と呼ばれる人たちの多さに驚いている。私が仕事で関わっている人達や、我が子供達の友達の父兄などを見ても、ざっと3分の1ぐらいが個人事業主なのではないだろうか……?かくいう私もフリーランスなわけだが、オランダと日本の間に入って仕事をする中で、オランダ人と日本人の間で、フリーランスに対する認識に大きなギャップを感じることがあったので、それを紹介したい。

Gmailアドレス記載の怪しい名刺

 フリーランスと聞いて、日本人は一般的にどんなイメージを持つだろうか?渡された名刺に聞いたことのない社名があり、メールアドレスのドメインが「Gmail」だったら、どんな印象を持つだろうか?おそらく、有名企業の名刺をもらった時よりも、胡散臭い印象を持つ人が多いのではないだろうか?

 私自身、個人事業登録でつけた「Yaman Text Factory」という社名とGmailアドレスを載せた、かなり怪しい名刺を配り歩いているのだが、以前は日本のビジネスマンに渡すとき、何となく恥ずかしい気持ちがつきまとっていた。そこで、日本のそうそうたる大企業が集まる大きなイベントに参加した時などは、ブラバント州政府の同僚に頼み込んで、わざわざその時だけのためにメールアドレスを作ってもらい、「ブラバント州政府・国際部アドバイザー」と入った、しっかりした紙の名刺を作ってもらったりもした。

 州政府はセキュリティの問題があるからか、外部の人に長期でドメインを使わせることはないので、そのメールアドレスはそのイベント期間中だけ使える短期的なものだった。自分の見栄から州政府のメールアドレス入り名刺を皆に配ってしまったわけだが、長期的な連絡を考えれば、自分の会社の名刺を渡しておいた方がよかったのは言うまでもない。そして、オランダ人の同僚は、私がブラバント州政府のドメインにこだわったワケを全く理解できないようだった。

フリーランスは胡散臭い?

 私がドメインや名刺にこだわった背景には、フリーランスとしてのちょっと苦い経験がある。私はブラバント州のアドバイザーとして働き始めた当初、日本の有名ハイテク企業の研究者の方をオランダの大学の教授と引き合わせることになった。その教授は、以前から個人的に知り合いだったこともあり、私達は親しく話をしながら、その研究者の方をもてなしていた。

 教授がトイレに立った時、私はその研究者との会話の中で、その教授が昔からの知り合いであることを伝えると、「ああ、それで合点がいきました。教授とフリーランスという関係じゃないな、と思いましたよ」というようなことを言われたので、私は面食らってしまった。こちらでは、教授であろうがフリーランスであろうが、社長であろうが平社員であろうが、非常にフラットな関係で仕事が進められることが多い。私はその環境に慣れてしまったので、改めてその人のフリーランスに対するネガティブなイメージを意識し、非常に嫌な気分になった。

 その後も、彼との会話の端々にフリーランスを蔑むような言葉が聞かれたので、その日は精神的にぐったりと疲れてしまったのを覚えている。それ以来、私は特に日本人ビジネスマンに対して、フリーランスであることをなるべく悟られないように、正職員であるかのようにふるまうようになってしまった。

フリーランスがプロジェクトの要に

 州政府のオフィス内でも、私は極力正職員であるかの如くふるまった。オフィス内は固定席がなく、自分の好きな場所に自由に座る形式で、隣に知らない人が座るケースもある中、自己紹介する場面が多々ある。そんな時、私は「国際部で日本のプロジェクトに関わっています」と自己紹介していた。それ自体にウソはないのだが、外部の人間であることは敢えて伏せるようにしていた。

 しかし、私がそうして会った人達の多くも、実はフリーランスであることが分かった。「私はフリーランスで、週1回だけヨーロッパプロジェクトのためにこのオフィスに顔を出しています」「私は週2日だけフリーランスで来ていて、他の日は別のことをしています」などと言う人が何と多いことか!私は自分だけが日本のプロジェクトのために雇われた特殊な立場かと思っていたのだが、実は周りもフリーランスだらけだったのだ。

 さらに驚いたのは、こうしたフリーランスの人達がプロジェクトのかなり要の機能を受け持っているケースが多いということだ。外部だから、フリーランスだから……というようなことはなく、正職員と全く同じような立場で、かなりの決定権まで持っている人が多い。東京で開かれたブラバント州とオランダ大使館主催のイベントでも、これを統括するプロジェクトマネジャーは、外部のフリーランスの人が請け負っていた。これは、日本ではまだなかなか見られないことだろう。

 そんなわけで、日本人がオランダ組織とのプロジェクトでフリーランスの人と仕事をする場合は、少し意識を変えて接しなければならないと思う。オランダではフリーランスと言えども、かなりの決定権を持っていたり、正職員と変わらぬ立場で仕事をしていることを認識しなければならない。フリーランスは働く形態に過ぎず、プロジェクトにおける役割や責任は、フリーランスも正職員もあまり関係ないのである。

 ちなみに、オランダでは名刺を交換しないこともしばしば。「名前」と、「何ができるか」が明らかになり、その後お互いにソーシャルネットワークなどでつながれば十分なのである。社名やドメインはほとんどどうでもいい世界になってきている。このような環境にあって、私も最近は堂々とフリーランスを名乗るようになった。もっとも、日本人と接する機会の多い私は、自社ドメインぐらいは取得しなければ……と思う今日このごろである。

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