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「コンテンツマーケがしたいです」、と説得するための企画設計ノウハウ

「コンテンツマーケティングをやりたいけど、社内をどう説得すべきか分からない」。

コンテンツマーケティング関連では、最も多い悩みの一つです。

「いつまでにこれくらいの成果を達成できます」という見通しをなんとかして数字で示す努力がなされるケースが多いですが、そこは割り切ってあきらめるべきだと思います。

Web広告やSEOと違って、数字でキレイに見通せる類の施策ではないからです。

中長期的な取り組みになるだけに、目標の達成に影響し得る変数が多すぎます。

そもそも数値で成果を見通せるならば、とっくにコンテンツハック屋さんたちが群がって攻略しようとしているはずです。SEOやWeb広告のように。

そういう短期的なコンテンツハックの領域から離れて、(程度の差はあれ)より人間味のある関係性を築いていく、つまり不確実性が高い中長期策に乗り出そうというのだから、考え方を少し切り替える必要があると思う。

定量的な成果予測に頼らずとも、コンテンツマーケティングを成功させためのツボを押さえた上で定性的にしっかり検討できれば、ある程度納得のいくストーリーは作れると思っています。

その考え方を次の2項目に分けて整理していきます。

・必要性があるのか?
・実現性があるのか?

まず必要性についてです。

「つながり続ける状態」をつくる必要があるか?

そもそも「コンテンツマーケが必要」というのは、どういう場合を指すのか?

「コンテンツSEOで集客でしょ」といったイメージは依然としてあるので、コンテンツマーケティングの定義に沿いながら考えます。

「コンテンツマーケティング」というワードを作ったCMIによる定義です。

ものすごくおおざっぱにまとめると、適切なコンテンツによってオーディエンスとつながった上で、最終的に企業利益に落とし込むといった意味合いです。

その中にはもちろん「集客」的な言葉はあります。

ただそれに加えて「保ち続ける」といった意味合いの「retain」という言葉もあります。

これだけだと意味が分かりづらいですが、彼らが日ごろ主張している意味合いでいうと「いかにオーディエンスとつながり続ける状態を作るか?」ということになります。

「ハウスリストを作るっていうこと?」と聞かれそうですが、もちろんそれも含みます。

ただハウスリストとだけ言ってしまうと、詳細な顧客情報を取った上でのメルマガやダイレクトメールといった施策に限定されてしまいます。

しかし「つながり続ける」という意味合いの中には、FacebookやTwitterでのフォローといった他のチャネルも含みます。

いずれにしても毎回ゼロベースから広告で接触するのではなく、こちら側がコンテンツを発信すれば受けてくれる状態の人たちを増やすことで、息の長い中長期的なマーケティング施策を可能にすることがポイントです。

そしてどのチャネルで「つながり続ける」(購読やフォロー)のが適切かは、商材などによって変わってくるはずです。

小さな飲食店がお客さんを呼び込む目的であればSNSでの軽いつながりだけで十分かもしれませんが、年間数百万円もするBtoB商材を買ってもらいたいのであれば、ハウスリスト水準の深いつながりまで踏み込む必要が出てきます。

しかし消費者の感覚からしたら、この情報過多の時代にムダなコンテンツをフォローしたり購読したりする気はサラサラないはずです。だから

「わざわざフォローしたい」
「個人情報を出してでも購読・参加したい」

と思ってもらえるだけのコンテンツが必要になります。

そうしたコンテンツによって何らかのチャネルで中長期的に「つながり続ける状態」を作る。その状態が「企業利益」に貢献し得る見込みがあれば、「コンテンツマーケの必要性があるかもしれない」ということになります。

どんな企業利益に落とすのか?

それではコンテンツによってつながった結果、どのような「企業利益」に落とし込むのか?CMIのロバート・ローズさんは次の「4C」で表現しています。

・Cash(マネタイズ)
・Competency(ユーザー情報の収集)
・Customer(満足度や購買意向の引き上げ)
・Campaign(キャンペーン・広告効果の補助・促進)

たとえば「北欧、暮らしの道具店」でいえば、オウンドメディアの中の商品紹介記事やコラムなどを通じて北欧系の雑貨や家具などをECで販売しているので、「Cash」(マネタイズ)に当てはまります。

また彼らのコンテンツであれば、購入した顧客の満足度だけでなく、他の商品の購買意向も高まり得るので、「Customer」(満足度や購買意向の引き上げ)にも当てはまりそうです。

またJohnson & Johnsonが運営するオウンドメディア「BabyCenter」は、ユーザーの属性・行動情報を元に広告メッセージや商品を最適化しています。「Competency」(ユーザー情報の収集)の代表例です。

この記事では詳しい事例紹介には踏み込みませんが、こうしたゴールの枠組みと対応する事例を知っていると、「ユーザーの信頼を獲得しよう!」といったあいまいな掛け声だけで終わらず、より具体的な議論をしやすいのではないでしょうか。

「つながり続ける状態」の必要性、購買行動を元に考える

でもこれだけではまだ「つながり続ける」必要性の有無を判断しづらいと思います。コンテンツマーケによって企業利益(4C)に落とし込むといっても、

・抱えている商材が雑貨なのか保険なのか製造機械なのかオレンジジュースなのか文房具なのか?
・目的は4Cのいずれなのか?

といった違いで、必要性の有無や、必要な際のやり方はだいぶ違ってきそうです。

さらにどう考えるべきか?

ここでよくある落とし穴は、企業の課題ベースだけで必要性を判断してしまう場合だと思います。

たとえば「潜在層による認知・好感度を高めたい」「刈り取り型広告が行き詰った」といったケース。

「だからコンテンツマーケでファンとつながろう!信頼を獲得しよう!」という流れになり、それっぽいオウンドメディアを立ち上げた末に爆死するというパターン。

しかしこれから相手に何らかの影響を及ぼそうとしているのだから、必要性を決めるファクターは企業側の都合ではなく相手側のはず。

では相手側、つまり見込み客や顧客のどんな要因を考慮すると、コンテンツマーケティングの必要性を判断できるのか?

それは購買行動の特徴だと思います。

商材によって購買行動のタイプは異なります。そして購買行動が異なると、購買に至るまでにコンテンツがどう使われるかも違ってきます。

たとえば雑貨好きの人であれば、その購買体験は楽しいもののはず。だからかわいい雑貨の商品紹介記事やライフスタイル記事に常日頃から触れても苦にならないし、自分の価値観に合う商品があれば、売り手の企業自体に対する興味がわくことすらあり得ます。そのため継続的なコンテンツ発信による販売増も期待しやすそうです。

一方で真夏にエアコンが壊れて今すぐ修理したい、という人による購買行動の場合。唯一の関心は速く・安く・確実に修理できること。その時に悠長にコンテンツを閲覧しているヒマはないし、ましてや企業の自分語りストーリーなんて論外です。

この時のマーケ施策のポイントは、故障したまさにその時に想起してもらえる状態になっているか、もしくは検索した時にすぐさま出てくるかといったことのはず。

オウンドメディアによる継続的なコンテンツ発信がハマるかどうかは、少なくとも雑貨に比べると慎重な検討が必要そうです(絶対ダメではないとは思いますが)。

いずれにしてもコンテンツの継続発信のハマりやすさは、消費者が「商品検討に費やしてくれる時間の長さ・頻度」と「購買リスクに応じた態度」(楽しく検討モードなのか念入り検討モードなのか等)に大きく左右されるということ。

そしてこの2軸の4象限によって必要なコンテンツ施策を整理することで、もう少し応用が利くフレームワークを考えてみたいと思います。

参考にしたのはこちらの書籍(オリジナルの図に少しだけ手を加えてはいます)。

まず右上の象限は「念入り購買」。価格が高いから慎重に、かつある程度時間をかけて検討する場合です。住宅やBtoB商材などが当てはまりやすいと思います。「失敗したら大変」というマインドがあるので、関連コンテンツも念入りに閲覧されるはずです。

右下の象限は「うきうき購買」。商品まわりにかける時間が長いことは「念入り購買」と同じであるものの、「買い物が楽しい」「いくらでも時間をかけていたい」といったマインドが特徴です。雑貨や服、料理好きの人がスーパーで買い物する場合など、趣味性がある場合が多いでしょう(そういう意味では、「念入り購買」よりも購買頻度が高いという違いはありそうです)。

買い物そのものが娯楽になるような仕掛けやコンテンツが必須ですが、その娯楽と商売そのものが分離されていないというのもポイントです。たとえばバーがバンドを雇うのは、客が長時間店で楽しんでくれるほど酒が売れると分かっているから。そうでないと慈善事業になってしまいます。コンテンツ施策も同じです。

一方で左上の象限は「せっかち購買」。購買にかける時間は短い、でも検討自体はある程度慎重にされる場合。「間違えられない。でも時間はかけられない」といったマインドです。真夏に壊れたエアコンの修理や、パンクしたタイヤの交換などが一例です。対策としてはニーズが発生した瞬間にパっと思い出して買ってもらえるようにする、つまり的確に露出した上で、製品・サービス特徴が一目で伝わる工夫をすることになります。

最後に左下が「いやいや購買」。商品まわりにかける時間は短いし、手間もかけない場合です。「いよいよやらないと。さっさと済まそう」といったマインドになります。携帯電話の契約なんかは当てはまりやすいかもしれません。ポイントは顧客にとっての流入コストを下げると同時に、流出コストを上げること。携帯キャリアもキャンペーンやキャッシュバックなどによって流入コストを下げる一方で、契約後はポイントや違約金といった一定の流出ハードルを設けています。

それぞれの購買行動による特徴のまとめです。

この4象限によって施策を考える時に、重要なポイントがあります。

「この商材は必ずこの象限に当てはまる」という考え方はできないということ。顧客の趣味嗜好や文脈によって、該当する象限が変わるからです。

たとえば家電芸人ばりに家電好きな人にとって、冷蔵庫を選ぶ体験はとても楽しい時間かもしれません(うきうき購買)。でも僕のように大きなこだわりのない人間にとってはさっさと済ませたい作業になります(いやいや購買)。でもいくら家電好きとはいえ、夏場に急に冷蔵庫が壊れたら、「間違えられない。でも時間はかけられない」という購買行動になるはずです(せっかち購買)。

ということは商材が同じでも、どんな文脈にいるどんな趣味嗜好の人をターゲットにするかで、必要なコンテンツ施策が変わってくるのです(当たり前ではありますがプランニングの際に意外と見過ごされがちな気がします)。

またたとえば「いやいや購買」の人間が相手でも、何かしら楽しい仕掛けがあれば、「うきうき購買」にもなりえます。たとえばサミットやオーケーといったスーパーマーケットのように、単調な毎日の買い物体験を楽しくする売り場づくりに心血を注いでいる例もあります。

「つながり続ける状態」(コンテンツマーケ)がハマる象限

これら4つの購買行動による特徴を踏まえた上で、何らかのチャネルで「つながり続ける状態」、つまりコンテンツマーケティングがハマりやすい象限を検討してみたいと思います。

まず消去法でいくと、購買行動が「せっかち購買」と「いやいや購買」に当てはまる場合は、購買促進の手段としてのメディア運営はハマりづらそうです。

いずれの場合もさっさと買い物を済ませたい類の購買行動なので、日ごろから何らかのコンテンツをフォロー・購読・登録しておこうとはなりづらいからです。

コンテンツ自体が必要ないという意味ではありません。たとえばエアコンの修理業者でいえば、「エアコン 修理」関連のキーワード狙いでコンテンツSEOをやる余地は多いにありそうです。

ただ日ごろからオーディエンスとつながり続ける(フォローや購読など)ためのコンテンツ発信をできる余地は小さいと思います(少なくとも「うきうき購買」の商材よりは)。そもそも特定のキーワードで上位に表示されていれば良いので、別にメディアという立て付けで継続的に発信する必要もないでしょう。

そのため「コンテンツSEOは必要。でもコンテンツマーケではない」という判断になります。

一方で残る「うきうき購買」と「念入り購買」に当てはまるのであれば、コンテンツマーケティングの余地が出てくると思います。「楽しい」や「失敗したくない」といったマインドの違いはあるものの、いずれもコンテンツが積極的に必要とされる象限だからです。

自社のコンテンツがどちらに当てはまるかはターゲット層の行動などに左右される部分が大きいですが、商材によってはコンテンツの編集力によってある程度変えることも可能です。

たとえばアメリカで住宅リフォームグッズ販売などを手掛けるロウズ社。住宅のリフォームグッズは、ターゲット層の中の割合としては「念入り購買」が主になりそうです(この手の作業が「いやいや」の人は業者に頼むでしょう)。実際に「念入り購買」を念頭に置いたノウハウ記事や動画を彼らは積極的に出しています。

ただ自分の家をいじくるDIY的な作業は楽しい要素もあるので、コンテンツによってそこを強調すれば「うきうき購買」の文脈を創り出すことも可能なはずです。

ロウズはそれをYouTubeのドキュメンタリー番組でやっています。この「Our Little Warehome」という作品は、ボロ家に引っ越してきたアメリカの4人家族がDIYで自宅を徐々に作り替える話。最終回のエピソード10では、見違えるほどおしゃれな家に生まれ変わっています。視聴者のDIY魂に火をつけて、購買意欲を促進しそうな内容です。

「コンテンツマーケでは自社アピールNG」は間違い

仮にターゲット層の象限が「うきうき購買」か「念入り購買」に当てはまったとしても、もう一つ考慮すべき重要な点があります。

それは「そのコンテンツを出すことが、自社の長所のアピールになるか?」という点。この場合の長所とはノウハウや思想など、ユーザーによる納得や尊敬、共感などを呼び起こす要素です。

もしこれがないコンテンツ発信をするとどうなるか?

集客や商品ニーズの醸成までできたとしても、いざ購入するフェーズになった時に「他の会社の商品でいいや」となってもおかしくありません。

たとえばこの間終わってしまいましたが、アサヒビールが「CAMPANELLA」というオウンドメディアを運営していました。普段飲まない人にお酒の楽しさを知ってもらうために、「お酒とコミュニケーション」をコンセプトにした記事を発信していました。

プロの編集記者が関わっているだけあって、記事自体は非常にクオリティーが高いですが、「果たしてこれでアサヒビール商品の認知増や販促につながるのか?」という疑問が出てきます。

理由は2つです。

まず「ユーザー中心なので自社をアピールしない」という考えにのっとって、メディア内で自社のブランド名や商品は露出していませんでした。そのため仮にこれでお酒への意欲が高まった人が出てきたとしても、キリンビールに流れない保証はありません。

もちろん単に自社の露出を増やせという意味ではない。そうではなく「自分たちみたいな思想・ノウハウを持った会社だからこそできるコンテンツ発信だ」感がないと、買う理由につながらないのです。

「もはや消費者をコントロールできない」といわれる時代だからこそ、自社の行動や思想といったより深い部分を伝える重要性が増している、という背景もあると思います。

そういう意味では、同じビールメーカーではヤッホーブルーイングが良い事例だと思います。「クラフトビールの美味しさや楽しさを知ってほしい」をコンセプトに、メールマガジンではビールのうんちくや醸造設備などの情報を発信(うきうき購買向けコンテンツ)。クラフトビールの知見や専門性を持った彼らだからこそのコンテンツです。

要はコンテンツのブランドを他社に置き換えても違和感なく成立してしまうのであれば、コンテンツそのものの内容、もしくは企業利益(4C)に落とし込む設計などを再検討すべきかもしれません。

また「これでアサヒビール商品の認知増や販促につながるのか?」となる2つ目の理由は、テキスト記事というコンテンツフォーマットを中心にした点です。

お酒を売るコンテンツ手段として、テキスト記事だけではどうしても弱い部分があると思います。「お酒とコミュニケーション」をコンセプトにすえたのだから、実際にお酒が消費されるオフラインの取り組みも必須なはずです。

その点でいうとヤッホーブルーイングは、都内のビアレストランで開催される「宴」と、数千人もの顧客が集まる大規模イベント「超宴」を開催しています。彼らの世界観や直に伝わる場になっていますし、実際に自社商品も売れるでしょう。

コンテンツマーケティングの定義の中には、SEOやSNS、イベントといったコンテンツ種別の指定はありません。コンテンツによって「つながり続ける状態」から、企業利益に落とし込むことが中心です。

「コンテンツマーケ=オウンドメディア」というイメージにとらわれず、企業利益(4C)を念頭に、必要なコンテンツ種別を設計することも重要だと思います。

必要性があるのか?のまとめ

・「つながり続ける状態」を作ることで企業利益(4C)に落とせるか?を検討する
・企業側の課題ではなく、ユーザー側の購買行動(うきうき・念入り・せっかち・いやいや)で判断する
・継続的なコンテンツ施策に適した購買行動(うきうき・念入り)かだけでなく、「自社の長所のアピールになるか?」も検討する

長くなってしまったので、「実現性があるのか?」についてはまた別の記事で書きたいと思います!

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