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【演奏予定のプログラムノーツ公開します】3/22 音楽と旅 #8 〜ドイツ三大Bへの畏敬

ご覧いただき、ありがとうございます!
ピアニストの吉村直美です♪

3月22日(金)開催、『音楽と旅#8』ドイツ三大Bへの畏敬〜バッハと巡る旅路 リサイタルプログラムノーツを公開いたします。

お時間おありの時に、是非、ご覧いただけますと幸いです。

▶︎▶︎まず、はじめに!
ドイツ三大Bとは何なのでしょうか?

ご覧の通り、ドイツ出身であり音楽歴史に名を刻んだ三人の作曲家であるバッハ、ベートーヴェン、ブラームスの名をローマ字表記した頭文字が全てB、ということに由来しています。

では、本題のプログラムノーツに移ります!

🎹J.S バッハ:G線上のアリア
原曲は、J.S バッハ作曲『管弦楽組曲第3番ニ長調 BWV1068』第2曲「アリア(Air)」です。

「G線上のアリア」という名称は、ドイツの著名なヴァイオリン奏者ウィルヘルミ(1845-1908)が、原曲のニ長調からハ長調に移調を行ったことで、ヴァイオリンではG線のみで演奏できるようになったことに由来しています。

現在では、様々な器楽のための編曲演奏も好まれています。

哀れみに満ちた優しい旋律を残し、深い音色も活かせるピアノ編曲版をお届けいたします。

🎹J.S バッハ:トッカータホ短調 BWV914
トッカータとは、イタリア語の語源から成る「触る」という意味です。ピアノの前身とも言えるチェンバロが主要な鍵盤楽器の一つでもあった時代、コンサートの本番中に調性を確かめるために、「触り」弾きを音楽的に奏でていたことから、派生しているようです。

曲と曲の合間に、演奏者が各々の感性のままに即興演奏をしていたことから、バッハの時代では、感情がほとばしるような意味合いを持つようになっています。

この曲のテーマのモチーフは、譜面上で音を線で繋げるとクロスが浮かびあがり、十字架が見えてきます。十字架は、一説によると、自分の弱さへの戒めと許しを請い願う象徴ともされることから、葛藤が繰り広げされる作品です。

最後に現れるフーガは、〈逃げる〉を意味するラテン語fugereに由来し、〈逃走曲〉などと訳すこともありますが、キリストが十字架に掛けられると公表されたときに、愛弟子達が恐れて<逃げた>様子を表現したことが起源と言われています。

この曲の最後も、一番信頼を寄せていた弟子達が逃げてしまう悲劇のフーガが登場し、最後はその裏切りが許されるが如く、突然長調へと転調し幕を閉じます。

🎹ベートーヴェン:ピアノソナタ第31番 変イ長調 作品110
ベートーヴェンが55歳の頃に書かれ、後期作品の名曲の一つです。
患っていた病がいったん回復し、旺盛な創作意欲をもって作曲した時期でもあります。ただ、聴力はほぼ無かったと言われている頃であり、絶望の中にも希望を見出しているベートーヴェンの強弁さもうかがえます。

 ナポレオンが死去した年でもあり、ベートーヴェンの心情に大きな影響を与えた可能性もあります。

第一楽章:Moderato cantabile molto espressivo  = 中くらいの速さで とても歌うように 表現豊かに

冒頭には、con amabilità(愛をもって)と記され 、下降形で始まる和音の直後に、心の震えを感じさせるような上行系の旋律は、希望に満ちた印象を与えます。
 

第二楽章:Allegro molto = きわめて 速く
当時の流行歌(ドイツ語)から2つの旋律が暗示のように用いられており、
ベートーヴェンの冗談で持って困難を乗り越えようとしたようにも、感じさせられます。

用いられたとされる流行歌は、次の2曲です。

『Unsre Katz hat Katzerln gehabt』(うちの猫には子猫がいた)
『Ich bin lüderlich, du bist lüderlich』(私は自堕落、君も自堕落)

訳『私は自堕落、君も自堕落、我々皆が自堕落・・』
下降する音形が墜ちていく暗示を示しています。

第三楽章:Adagio, ma non troppo - Fuga. Allegro, ma non troppo = ゆっくり、しかしあまり速すぎないように–フーガ、しかしあまり速すぎないように

嘆きの歌(Klang der Gesang)とベートーヴェンによりドイツ語で記されています。

バッハ『ヨハネ受難曲』の「Es ist vollbracht」(キリストの最後の言葉)との関連も見えてきます。

ベートーヴェンは苦しみの絶頂にある中、『完結した』という言葉に自身を重ねたのかもしれません。

その後も、「疲れ果て、嘆きつつ」(Ermattet, klagend)と記載されており、絶望を訴えますが、フーガ(逃走曲)が登場し、葛藤を繰り返した後、フーガは消え去り自由な形式で歓喜が勝利します。

完治する兆しが見えない難聴を抱えたまま作曲し、歓喜に満ち溢れる作品を残したことには、敬服の思いを抱かずにはいれません。。

ベートーヴェンが死を選びそうになった時に残した遺書を思い起こさせます。

「自分の生命を絶つまでほんの少しの所であった。- 私を引き留めたのはただ“芸術”だけであった。」

ベートーヴェン・ハイリゲンシュタットの遺書

"es fehlte wenig, und ich endigte selbst mein Leben – nur sie die Kunst, sie hielt mich zurück,”

Beethoven, Heiligenstädter Testament

🎹F.グルダ:アリア
作曲者F.グルダは、20世紀を代表する巨匠ピアニストの1人で、デビュー時はクラシック音楽ピアニストでしたが、その後、ジャズピアニスト、作曲家としても活躍した音楽家です。

『アリア』が演奏されるようになったきっかけは、グルダ自身のピアノリサイタルでの、とあるアンコールだったそうです。

メインのプログラムが終わった後、
「アンコールに何を聴きたいですか?」と尋ねたところ、
「グルダのアリアが聴きたい!」と、この曲を知っていた一聴衆からのリクエストを受けて演奏披露して以来知る人とぞ知る『アリア』になったそうです。

 この曲を演奏していると、様々な葛藤を乗り越えた1人の芸術家グルダが知る慰め、癒し、苦悩、希望を感じます。

🎹ブラームス:ラプソディト単調 作品79 – 2
ブラームスが成熟期に入った頃の作品です。ラプソディとは、直訳で「狂詩曲」となり、“自由奔放な形式で民族的または叙事的な内容を表現した楽曲”を意味します。
作曲された1879年は、独墺同盟が結ばれた年でもあり、戦争への備えによる緊張感の影響を受けいたとも考えられます。
事実をありのままに述べるという意味も含むラプソディ。英雄的かつ高貴な葛藤も感じられる作品です。

🎹ブラームス:インテルメツォ イ長調 作品118 - 2
ブラームス晩年に書かれた名曲の一つです。
ブラームスが61歳の時、亡くなる3年前に作曲し、クララ・シューマンに捧げられています。

そのクララは、作品を捧げられた2年後に亡くなっています。

譜面には、「クララ」を意味するH音とA音(シとラ)が、呼びかけの音形となって、多く登場します。

ブラームスとクララ・シューマンの関係については、様々な憶測がなされていますが、音楽家同士として尊敬し合った仲ではないかとも感じさせられる美しい作品です。

🎹J.S バッハ = ブゾーニー:シャコンヌ
「シャコンヌ」という言葉は、舞曲の一つであり、フランス語の「かわいらしい(chocuna)」が語源とされています。

緩やかに踊る3拍子が特徴的で、形や速度を変えて、徐々に展開されていく舞曲を指しています。

バッハが作曲したシャコンヌニ短調は、元々はヴァイオリン曲して作曲しており、踊るための舞曲というよりは、徐々に展開されていく可能性により重きが置かれ、非常に重厚で劇的な物語を感じさせるような作品となっています。

ある人物の悲劇を最初から提示し、葛藤を繰り返しながらどのように死に向かっていったかというストーリーのようにも聞こえますが、最後の最後には意外な結末が待ち受けています。

ピアニスト 吉村直美
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