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うちの子は4歳年を取る ―いつも支えてくれてありがとう

うちには13歳の子がいる。

名前は、詩音(シオン)
わんぱくな男の子だ。

困ったことに小学校も中学校も行っていない。
本当に困った子だ。


だけど近所の小学生たちが大好きだ。

登下校中の小学生たちの
笑い声が聞こえると

すごく
ものすごく喜ぶ。

本当はみんなと一緒に
学校にも行きたかったんだね。


昔、勤めてた会社の社長さん。
シオンはその息子さんと
誕生日がたった1日違い。

それで、その子も同じく13歳。

その子はもう中学2年になったけど、
どんな中学ライフを送ってるのかな?

うちの子はまだ小学校にも行けてない。


だから
いつも言って聞かせるのだ。

ちゃんと「待て」ができないと、
小学校に行けないよ?

好き嫌いしないで
ちゃんとご飯を食べないと
小学校に行けないよ?


あとからやって来て
最初は赤ちゃんだったのに
どんどん、どんどん年取って

いつのまにか僕の歳を
あっと言う間に飛び越えていったね。


最近、急に老け込んで、
寝てばっかりのシオン。

大人になってから4歳ずつ年取って、
今13歳半だから、
70歳ぐらいのおじいちゃんだもんね。

そりゃ、疲れて寝たくもなるよね。
そりゃ、白内障にもなるよね

左目は完全に失明して、
右目もだんだん光を失ってしまったね。


いつもは寝てばっかりだけど、
それでも散歩の時間はちゃんと覚えてて

ねぇ!お散歩行こうよ!
連れてって!

って誘ってくるよね。


そんなシオンを見て
ふと思い返す。

ペットショップで
初めて出会った日のこと
覚えてる?

ねぇ!僕と遊んで!
って、檻の中からせがんできたね。

抱っこしてあげると、
気持ちよさそうにウトウトしてたよね。

モッコモコのフカフカで
あったかかったよ~。


次の日行ったら覚えてて、
  また来てくれたね!
  また遊ぼっ!

って、ピョンピョンピョン。

まるでうさぎのように
飛び跳ねて喜んでたね。

そして檻の中から、
  お願い! 僕を選んで!
  僕で決まりだよ!
ってせがむシオン
お前を僕は連れて帰ったんだ。


初めてうちに来た日
覚えてる?
ちっちゃな ちっちゃな
ダンボールに入って来たね。


その年は、
とっても寒い冬だったけど、
シオン、お前が来てくれて
家の中はあったかくなったよ。


初めて雪が降った日、
興奮して、喜び叫んで
雪の上を転げ回ってたね。

初めて見る雪が
本当に嬉しかったんだね。


熊本の阿蘇にも何度も遊びに行ったね。

往復350キロ
バイクでも一緒に行ったよね。

ちょっと遠くて僕は疲れたけど、
シオンは舌をペロリとご機嫌だったね。

まだ手先がかじかむ春先で、
山に連なる菜の花畑が綺麗だったね。


可愛い妹のラムが来た日。
お兄ちゃんとしてしっかり迎えてあげたね。

最初はラムのほうがちっちゃくて
よちよち歩きの赤ちゃんだった。

なのにたった半年で
ラムに体格を追い越されてしまったね。

それでもお兄ちゃんとしての
威厳を保とうと
いつも頑張ってたよね。


ラムは急いで食べてから、
お兄ちゃんのご飯までいつも狙ってた。
彼女はとっても食いしん坊だったね。

シオンはまだお腹がすいてても
途中で食べるのをやめて、
食いしん坊なラムに
いつも残してあげてたね。

さすがお兄ちゃん!
って思ってたよ。

残念ながら、
ラムは発作で先に逝ってしまったね。
ラムは妹なのに…。

一緒に火葬場に行く時までずっと

  ねぇねぇ、ラム ラム?
  寝た振りしてないで遊ぼうよ!
  ねぇ、ラムってばぁ!

って何度も何度も突付いては、
一生懸命ラムを起こそうとしてたよね。

ずっとラムから離れず、
もう死んでたのに
理解できなかったんだね。


ラムがいなくなり、
一人になったシオンは相当ショックで
耳としっぽが禿げてしまったよね。

犬のお散歩仲間から
何かの皮膚病じゃないかって避けられたけど、
ショックで一番つらかったのは
シオン お前だったんだ。


シオンは一人で眠りきらなくなって、
ラムが死んだその日から
僕と一緒に寝るようになったよね。


この13年間、
本当にいろいろあったね。

仕事で徹夜してクタクタになって帰ってきた日も。
嬉しいことがあって、はしゃいで飛び跳ねた日も。
ビールを飲んで酔ってお前をからかった日も。


あの灼熱のように暑かった夏のあの日、
それは生きる希望を失った人が覚悟を決めた日。

汗を流しながら警察と一緒になって探したけど見つからず
ちょうどファミレスの駐車場で
警察から不吉な知らせを聞いた。

その時、
それまで競うように鳴いていた蝉は
一斉に鳴くのをやめて無音になった。

目の前が真っ暗になって、
駐車場に倒れ込んだ。

そのまま膝から崩折れたのか覚えていないけど、
気づいたら膝にアスファルトの石が刺さって血が出てた。

だけど痛みも何も感じなかった。
むしろ痛みを感じたかった。

そしたらこの悪夢が
醒めるような気がしたんだ。

今でも蝉の鳴き声がうるさい暑い夏の日、
その系列のファミレスを見かけると
気が動転して目眩がするけど…。


その日、息絶え絶えに家に帰り着いた。
靴も脱げずにそのまま玄関に倒れ込んだ夜。

シオン
何も知らないお前は
その日も僕を
温かく出迎えてくれたね。
いつもの笑顔で。

それから何ヶ月も食事が喉を通らず、
滝のように涙した日々も。

自分は食べずとも
シオンにはご飯をあげないと、と
僕に動く力を与えてくれた。

一緒に傷心旅行に行った日も。
そこから力を振り絞って
立ち直ってった日々も。

その日々、
いつも支え続けてくれたのが
シオン、お前のその笑顔だ。

この13年間、
本当にありがとう。

お前がいないと生きる気力も湧かなくて
今ごろ生きていなかったんじゃないかと思う。

今だってそうなんだ。


ずっとそばで
僕のすべてを見て

誰よりも僕を知ってるのが
シオン、お前だ。


今、こうして
シオンは僕より先に
おじいちゃんになったけど、

お前への愛は深まるばかりだ。


どうかシオン死なないで
いつまでも長生きして欲しい。

いずれお前の両目が
見えなくなる時が来ようとも
お前への愛情は変わらない。

僕がお前の目となろう。


どうか時よ
移ろわないで。

どうか時よ
土下座して頼むから、
老いていく可愛い我が子の手を引いて
連れ去っていこうとしないで。


シオン
これからもずっと
元気でいてくれますか?

シオン
これからもずっと
僕にはお前が必要なんです。

長生きして欲しいから
好き嫌いしないで
ちゃんとご飯を食べると約束して
…お願い。

そしたら大好きな小学生たちと
一緒に学校にもいけるかもしれないよ?


元気になったらまた阿蘇に行こう
今度は泊まりにしような

シオン
これからもずっとヨロシク

ずっとずっと
僕らはこれからもずっと家族だ

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