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もう少しスペースが必要だ-①

私がよく取り上げている“101 Things I Learned in Urban Design School”という本の中のNo.45のトピックの中に、以下のような記載があります。要約して簡単に訳してあります。ご興味があれば原書の方を読んでみてください。英語ですがコンパクトにアーバンデザイン のポイントが押さえてあり、読みやすいです。

“Some trees are more urban than others”(より都市的な樹木がいくつか存在します):アーチ型の樹木は公共空間(の範囲)を定義します。戸建ての庭に樹木が点在しているのとは異なって、同じような樹木が縁石に沿って並んでいるということによって、車両と歩行者の空間はエレガントに区別されます。

上の文の“エレガント”に当たる部分は「緑の中を歩くのは気持ちがいいし、四季を感じられて楽しい」、あるいは「夏は緑陰で日差しが防げる」といったことになると思います。これ以外にも、街路樹を配置することによって、視線を先に誘導して、ビスタを際立たせるといった理由もあると思います。

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話は変わりますが、タイトル写真は私が住んでいるシドニー近郊の町です。目ぬき通りではないですが、オフィスビルが数件立地しており、それ以外の建物のグランド・フロアは、オフィスに通っている人が利用する、カフェなどの飲食店が入っています。駅前ほどではありませんが、結構利用者が多いストリートだと思います。街路樹の樹種はプラタナスです。樹形もきれいで、枝下も高く車の走行にも邪魔になりません。また乾燥や排ガスにも強く、洋の東西を問わず温帯に属する都市ではよく利用されでいると思います。前述のトピックNo.45にあげられているように、歩行者と車両のスペースを上手に区別し、ストリートの空間形成に一役買い、しっかり街路樹の仕事をしていると言えると思います。

この街路樹の植えてあるストリートのうち、歩道部分の構造を簡単に示したものが上の図です。建物から車道に向かって「S-1.滞留スペース(建物と歩道のトランジション)」「S-2-①.移動スペース(歩く場所)」「S-2-②.共同溝などのユーティリティの配置(S-2-①の地下の埋設物)」「S-3.歩道と車道のトランジション(街路樹はここに位置します)」ということになります。車道は一方通行で、全部で4レーン(約11m)になっていますが、車道のうち歩道に接している2レーンが縦列駐車のスペースになっており、車が走行するのは実質的に中の2車線です。

歩道の5.0mのうち、建物側を見ますとグランド・フロアは先述したようにカフェやレストラン、ピザ屋さんやケバブ屋さんなどの飲食店に加えて、スポーツジム、床屋、オフィスビル前方のプラザ等に利用されています。飲食店、特にカフェの前は屋外用のテーブルや椅子が設置されていて、こちらは平均的におおよそ1.8メートルといった所でしょうか(S-1)。車道側から1.2mが街路樹の植栽桝です(S-3)。5.0m-1.2m-1.8m=2.0m、2メートルが移動のための空間です(S-2)。

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さて、街路樹に戻ります。下の2枚の写真のうち、1枚目の写真は街路樹が隣接する建物の日よけ部分のでっぱり当たって窮屈そうで、明らかに成長が阻害されていることがご理解いただけるかと思います。もう一枚は同じストリートの別の箇所ですが、成長がよくても、大きく車道側に傾いていることがわかるかと思います。これは日光をもらえる場所と、枝葉を伸ばせる場所が車道側だけだからです。プラタナスは陽樹つまり日光が大好きな樹種の一つで、且つ成長も早い樹種とされています。たまたまこの写真はオーストラリアのシドニー近郊都市ですが、このような状態になっている街路樹は日本でもよく見かけます。街路樹という特性上、歩道側には共同溝の地下埋(S-2-②)と歩行者の踏圧、車道側には車道様の路盤と車両による踏圧でガッチリ固められ、根もしっかり張れていないと思います。いたずらに心配することもないのかもしれませんが、これだけ重心が上の方で傾いていると、仮に根元に(目視で見つけにくい)腐朽菌が入でもいたとしたら、強いビル風いた際に倒木の危険はないのだろうか?と少し怖いです。

ここで、もう一つ“101 Things I Learned in Urban Design School”からトピックを1つご紹介します。No.46です

You need more space and less space than you think(あなたが考えているよりも大きい、あるいは小さい空間が必要です):建物の中ではぴったりだ、と思われるサイズでも、屋外においてはごちゃごちゃしているか、あるいは小さく感じるものです。屋外で参照するスケールは、屋内のそれ、例えば身体スケールや家具のスケールではなくて、樹木や道路、建物街区、広場、さらには空といったより大きくて公共的なものです。また、都市の住民は近接性と喧騒に慣れていて、それに価値を置いているので、都市空間における(建物の)空間は、私たちが考えるよりも小さくてよいことが多いです。

ストリートは樹木だけのものではありませんが、プラタナスという大きくなる樹木を配置するには、車道と歩道のトランジション空間(S-3)は、設計者が考えていた1.2mというスペースよりも大きなスペースが必要だったのではないでしょうか。実感としては、樹木の周りだけではなくて、S-2の歩道部分も少し狭いと感じています。前に2人で歩いている人を追い越すには、S-3の樹木の周りの部分を歩かざるを得ないのです。そこを歩くと、樹木が「きゃーっ!、根っこ踏まないでーーー!!、水が飲めなくて息が吸えなくなっちゃう!」って言っているようで「ごめんごめん」って思ってしまうのです。とはいっても根元までアスファルトで覆われていて、既にだいぶ過酷な状況なのですけどね。

このままでは批判ばっかりになってしまいます。それじゃどうすればよかったのか?「でもしか」になるかもしれませんが、次回以降、ボチボチ検証してみたいと思います。

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